第33話『相棒たちの全力を見せてもらおう』
「あーあぁ」
直感を確かめるのにそう時間はかからなかった。
夜空に広がる、白い竜巻と黒い球体。
もはや災害の映像でしか見たことのないハリケーンとブラックホールにしか見えない。
その規模が大きくなり続け、まだまだ大きくなる。
あれが今から地上へ落ちてくるなんて冗談だよな?
ははっ、現実逃避しようとしても無駄か、間違いなくあの2つは放たれる。
「お、俺への被害はない……よね?」
正直、不安で不安で仕方がない。
誰がハリケーンを前で容易に「大丈夫」なんて言える?
誰がブラックホールの前で「安心だぜ」なんて思える?
「保険をかけておこう」
まさか契約者の命を刈り取ることはないと思う――けど、あの攻撃が魔法である以上【聖裁の破壊】を左手へ召喚。
これで自分に被害が及んだとしても、防御+魔法吸収できる。
おまけに回復もし続けられるからね。
全方位へ意識し、5枚の壁を隔てるように防御魔法を展開。
左手に逃げる純白な剣に希望を託し、放たれる瞬間を待つのみ。
「うわ、すっご」
再び目線を上げると、視界いっぱいに白いハリケーンと黒いブラックホールが広がっていた。
でもさすがに配慮してくれているようで、どちらも形状を少しだけ変えてドーナッツみたいな円状へ変形している。
『ピーッ!』
『カーッ!』
その雄叫びのような鳴き声の後、2つの魔法は降下開始。
風が乱れる音が接近してきて、その音だけでも恐怖を感じるというのに、黒い方は無音で地面へゆっくり接近してくる。
怖い、怖すぎる。
ん? 輪と輪が重なり合って――。
「うわっ!?」
黒が下、白が上で完全に合わさった途端ソレは覚悟なんか無駄だったかのような速度で急降下した。
たぶん着地と同時に『ドッゴーン』という巨大な衝突音が鳴っているが、辺りが白と黒に覆い尽くされて状況を理解できない。
たぶん回転し続けていたであろうおかげで、俺へ届いたのは音と小粒の砂ぐらいだった。
次第に晴れていく視界、どんな状況になっているのか全く想像がつかない。
「……う、嘘だろ……」
俺の直径3メートルぐらいの足場を残し、それ以外が“消滅”していた。
正しくは段差ができるほど辺りの地面が抉れ、草木はぶっ飛んでいったのか粉々になったのか把握できず。
たった1撃の攻撃で、森林地帯を整地して広大な大地へと変貌させてしまったことになる。
「こんなことがあっていいのか……」
もはや自分の力でもあることに驚愕と絶望してしまう。
握っている【聖裁の破壊】へ目線を落とし、地面の形状を凝視すると。
「正常に効果が発動しているだけじゃなく、防御魔法も正常に機能していた証拠だよな……」
冷静に考えたら、残っている足場の範囲が防御魔法を展開していた幅になっている。
つまり棒立ちで眺めていたら何かしらのダメージを受けていた可能性が出てくるわけだ。
結果的に防ぐことができたようだけど、陰と陽の攻撃も俺に対して効果があるってこと……だよね? まさか生身の体にはダメージがないって仕様だったり?
さすがに怖くて検証したくないけど、どうせ回復できるなら後々で試しておいた方がよさそうだな……。
もしものときに怖いし。
「もしかして、これが効果にあるやつか」
握っている【聖裁の破壊】がゆっくり脈打つように白く光っている。
これは魔力チャージ。
倍々にして放つことができ――るということは、次は俺自身の全力というものを引き出してみよう。
「お疲れ様、凄かったよ」
『カーッ』
『ピーッ』
戻ってきた陰と陽は嬉しそうでもあり誇らしそうな返事をしてくれた。
しかしこれをゲートの外でぶっ放すのは控えなきゃね。
地形が変わる、ぐらいのものであれば魔法でも可能だから程度にもよるけど言い訳をすることが可能。
でも都市を壊滅させられるような攻撃は、どう考えても再現させてはいけない。
でも逆に新しい発見も得られた。
「ゲートの中であれば、やりたい放題だな」
以前のゲート攻略時、外への被害が出ていないことは確認した。
つまりいい練習場ということ。
次にやろうとしているボス戦でも、気兼ねなくぶっ放そうと思う。
「じゃあ移動しよう」
段差、という言葉で片づけてしまえないほどの高低差を降り足を進める。
こんな見晴らしのいい一帯を見てしまっては、もう既にボスが討伐されていてもおかしくはない。
でもゲートの特性上、ボスを討伐しないと消えることがないから生きているのは確定している――はず。
「本当に凄い。体育館とか野球場とかが霞んで見える広さが整地されている」
よくテレビでドーム何個分、的な感じで紹介されていたりするけど、実際に行ったことがないからわからない。
あ、肝心なことを忘れていた。
「陰、陽。今日はここまででいいよ」
足を止め、振り返る。
「もしも俺の攻撃が当たったら、どうなるかわからない」
納得いかなそうに首を傾げたり縦旋回で意思表示をしてくれている。
たぶん召喚されている時間が少ないから、まだ遊びたかったり、主人である俺と一緒の時間を過ごしたいのだろう。
かわいらしくて嬉しい限りだけど、本当にもしものことがあった場合どうなってしまうかわからない。
ラスボス戦の最中で再召喚していたりするから、大丈夫といえば大丈夫だとは思う。
でもさ、ほら。良心が痛むってやつ。
召喚獣というよりもペットみたいな感覚になりつつあるから、どうしても避けたい。
「お願い、傷つけたくないんだ」
俺の意思を汲み取ってくれたのか、陰と陽は両肩に乗って頬擦りをし始めた。
「ありがとう。まだ俺も一緒に居たいよ」
『ピロロロロロ』
『クルルルルル』
「ごめんね」
耳元で甘えるような優しい鳴き声を出され、フワフワな感触が頬を撫で続ける。
癒しに癒され、『これがアニマルセラピーというやつか』と閃くも、名残惜しい気持ちが増々大きくなっていくばかり。
これを犬とか猫が相手であれば、間違いなくワシャワシャと体を撫で回しまくっていたに違いない。
世の中のペットと一緒に生活している人たち、みんな羨ましい。
俺も部屋で一緒に生活するとかできないかな。
「ダメだダメだ。もうお別れだよ」
本当、俺よりも物分かりがよくて凄いよ。
陰と陽は駄々をこねることをせず、バサバサと飛び立ってくれた。
「昼間も呼び出すかもしれないから、そのときはよろしくね」
『ピーッ!』
『カーッ!』
活気のある返事をした後、ゲート出入り口方面へ陰と陽は飛んでいった。
「さて。探知系の魔法を使おう」
やっと世界に順応してきたというか。
自動でコマンドが出てくる、もしくは選択肢に出てきてくれているゲーム内とは違い。
現状では自分の記憶が全て頼りの綱であり、思い出せなければ魔法を発動させることもできない。
「ラスボスなのに恥ずかしい限りだよ」
要は最強の一撃や画期的な魔法でさえ、思い浮かばなければ宝の持ち腐れ状態になってしまうということ。
「さてさて」
しかし思い出せたら発動は簡単。
呪文を詠唱することなく、心の中で「発動」と思えば自動で発動してくれる。
「凄い」
全てが透過して見え、目標であるボスを発見。
直線に進み、洞窟の中で動かず待ち構えている。
そして何が凄いって、透視できてしまい敵を形状そのまま認識することができるだけでなく。
少し目線をグイッと持ち上げる感じにしてみると、マップを見下ろしている感じに全体を見渡すことができた。
「あまりにも便利すぎる」
これはゲートの外でも活用できるし、何か行動を起こそうと思ったときに使おう。
「そうと決まれば――っ」
跳んで、跳んで、跳んで。
数メートルずつの一歩を刻みながらボスの元へ移動開始。
戦い方は、前回同様に力をぶっ放すし、被害状況を確認する。
威厳あるボスには悪いけど、実験台として扱わせてもらおう。
「再びラスボスVSボスの戦いだ!」




