第30話『ヒロインと一緒に羞恥心が大爆発』
「何度もしつこくてごめん。本当に大丈夫なんだよね……?」
「うん、この通り」
「よかったぁ」
不安が拭えない気持ちを吐露しているのだろう、ミーシャからの確認作業は今ので5回目。
その度に、空いている右手で力こぶを見せるポーズと笑顔で応え、無傷のアピールをする。
事情を知っている人からすれば、言葉通りにしつこい確認となってしまうが。
俺の強さを知らず、あんな状況に巻き込まれたとすれば心配して当然だ。
だってミーシャ目線なら同じ年の一般生徒が、凶器を持った犯人に襲われた、という状況なのだから。
「ミナトくんに2回も助けてもらっちゃったね」
「偶然にも立ち会えてよかったよ」
「命の恩人だよ」
「それはちょっと大袈裟だって」
「ううん、全然大袈裟じゃないよ」
1回目は偶然を装ったものだったけど、今回の件は本当に偶然だった。
でもここで起きたことは、物語の裏側で起きていた……ことになる。
初めて知る情報だし、もしもどこかのルートで起きていた事件であればミーシャに対する扱いが酷すぎないか?
本来であれば、あの男に襲われたところから始まってて、追加でこんなシナリオがプレイヤーが知りえない場所で再び悲惨な目に遭うなんて。
同情を通り越し、ゲーム開発者へ激しい怒りの感情を抱かずにはいられなくなってしまう。
「でもこれだと、私がミナトくんと関わらない方が――」
「いいや、それは違う」
ああ、そうさ。断言する。
「全てが偶然でもあり、運命だったかもしれない。でも、誰かが誰かと居ちゃいけないなんてないよ」
「……」
「それにほら、2回とも無傷だし。疲れてもない。朝飯前ってやつだよ」
「でも……」
「ミーシャは『自分のせいで』って思っていると思うけどさ。世の中は偶然と偶然が重なることは普通にあるし、奇跡の連続で物事が進んでいるとも言える」
「私とミナトくんが出会ったことも……?」
その質問に関して答えるのは、さすがに心が痛い。
今もこうして『安心させるため』という口実の元、嫉妬の矛先を向けられるほどな美少女と手を繋いでいる。
俺は『役得』という言葉で自分を納得させているが、キャラや能力を活かし状況を作り上げている、とも言えてしまう。
人によっては悪の所業とも捉えられるし、不幸を未然に防いだヒーローとも捉えられる。
現に俺は手から伝わる温もりを感じながら、心が痛いと自惚れたことを言い、頭のどこかで常に罪悪感を感じているのだから。
「偶然と奇跡の連続であり、選択と判断の先に出会った。という感じじゃないかな」
「難しくて回りくどいね」
「同じ学園に通っていても卒業するまで一言も話さないで終わる、なんてことは珍しいことじゃないと思うよ」
「それはたしかに一理あるかも」
「でしょ?」
「うん」
手を繋いだまま歩き出して、もう10分以上は経っただろうか。
事実説明をしているときも顔を俯かせるミーシャの手を握っていた。
そう考えると、既に20分以上は経っているだろう。
さすがに俺の頭も冷静になってしまったから、逆に加熱し始めている。
自分から手を握る、というあまりにも大胆な行動に羞恥心が込み上がり、そのまま手を繋ぎ続けているという愚行は――完全に黒歴史。
ミーシャの表情も明るくなってきて、会話で笑みを浮かべ始めているからこそ、誰かに見られでもしたら完全にアウトだ。
「で、でもあれだね……!」
「ん?」
「あの、その。えっと」
急に言葉を詰まらせ始めたから目線を向けてみると。
ミーシャは左手で顔を仰ぎながら、顔を真っ赤にさせていた。
「状況が状況だったとはいえ、わ、私たち! てててててを繋いじゃってるね」
お、おぉ……頭の中が沸騰しそうになっていたのは、ミーシャも同じだったようだ。
落ち着いて思考を巡らせられるようになったからこそ、そりゃあそうなるよね。
「ご、ごめん!」
「あっ」
頬を叩かれても文句を言えない状況だから、今更ながらにパッと手を離し、半歩離れる。
「も、もう少しだけ手を――」
「ん?」
「い、いやなんでも!」
タイミングよく車が通過し、ミーシャの発言を上手く聞き取ることができなかった。
でも俺たちは、繋いでいなかった手を反対の手で摩る。
頭が沸騰どころか噴火しそうになりながら、恥ずかしい状況を何度も何度も高速再生してしまう。
たぶんミーシャも同じだろう、耳まで真っ赤になっているのがその証拠だ。
今すぐにでも頭を押さえ、悶え、叫び、逃げるように走り出したい。
「う、うぅ……恥ずかしくて顔を見れないよ」
「本当ごめん。お、俺も混乱していて変なことをしちゃった」
「いやいや! 全然変じゃないよ! 手を握ってくれたおかげで落ち着くことができたし、嬉しかったよ」
「痛くなかった? こういうの初めてで。力加減を考える余裕すらなかった」
「大丈夫だったよ。今も痛くないし、優しく握ってくれてたよ」
俺は何を確認してるんだよぉ!
もっとこう、ミーシャの心に寄り添うような言葉を伝えろよぉ!
「あ、もう着いちゃった」
あれやこれやと話しながら歩いていると、気づけば女子寮前へ到着。
ミーシャが言っていたように、時間があっという間に過ぎ去ってしまった感覚に襲われた。
「じゃあ……また明日」
「うん、また明日」
まだまだ赤い顔だったけど、最後は体を向き合わせて小さく手を振ってくれた。
でも今日の思い出を振り返ることはなく、スタスタスタと小走りに門を潜って敷地内へと進んで行った。
その姿を見送り、完全に姿が見えなくなってから俺もクルッと反転。
周りで誰も見ていないことを確認し、両手を大振りしながら逃げるように走り出す。
俺は『メインヒロインとは適切な距離を保って行動する』、と決めたというのに!
お、俺はぁああああああああああああああああああああ!
何をやってるんだぁああああああああああ!
これじゃあ、ただの青春恋愛をしているだけじゃないかあああああああああ!
んあぁああああああああああああああああああああ!
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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