第26話『天敵と激闘を繰り広げる、昼休み』
やはり俺は、最強キャラとして生きることとなっても優秀になり切れないようだ。
昼休みのご飯時、学食スペースにて俺・カイト・カリナと1つのテーブルに腰を下ろしながら内心で項垂れる。
「ミナト、この漬物美味しいよ」
「報告してくれるのは嬉しいけど、食べさせようとはしなくていいよ」
隣に座るカリナは、「はいあーん」と自分の端で俺の口に入れようとしてくる。
しかも拒絶されたことに対し、『なぜ断るの』『何に不満を抱いているのかわからない』といった表情だ。
いやいやいや、冷静に考えてくださいよカリナ姉さん。
もう俺たちは高校生であり、16才であり。
そんな大人よりの子供が、嬉々として「あーん」なんということはしないって。
この場で本当の姉弟じゃないと知っているのは俺だけで、周りからは【溺愛される弟】としか映ってない。
もはや姉弟ということすら知らない人からすれば、バカップル、よくて距離感の近い幼馴染ぐらいか。
そりゃあ、言動を置いとけば美少女に距離感0で接してもらえるのは役得でしかないけどさ……。
「今日も今日とて仲がいいね」
正面に座るカイトは、助け舟を出すどころか『微笑ましい様子』と認識しているのが、その緊張感のない笑顔から伝わってくる。
そんなことより。
放課後の件、一緒に行く方針へ切り替えたというのに避けては通れない相手を忘れていた。
警戒するべきは今隣に居る天敵じゃないか!
「箸が進んでいないけど、体調でも悪いの? 早退する?」
「展開がスムーズすぎてツッコミが追いつかないよ」
「私が添い寝してあげたら治るかも? 任せてちょうだい」
「そんなことは一言も話していない」
「そう……膝枕がいいのね」
「違う」
昨日は用事があったから接する時間は少なったけど、今日は見ての通り。
このまま放課後を迎えれば、俺はわからないが、ミーシャの身に物理的な災いが襲い掛かってしまう。
高校生での暴力沙汰にはならないと信じたいけど……展開が予想できない以上、顔を合わせないように画策せねばならない。
「姉さん、今日は大丈夫そうなの?」
「ええ。邪魔は入らないわよ」
なんと恐ろしい言葉選びだ。
表情を変えることなく、何も躊躇う様子もなく。
周りの人間を邪魔な存在と認識している証拠だ。
あまりにも手強すぎて、他の人間に矛先を向けることができる未来が見えない。
唯一頼ることができるカイトは、今日に限って長距離マラソンな告白タイムが待ち受けている。
「もしかして嫌いなものが入ってた? どれ? 私が食べてあげる」
「大丈夫だよ。うどんの麺しか残ってないし」
「もしかしてお腹いっぱい? 私も大変だけど、頑張ってるね」
「むしろおかわりしたいぐらいだから、それも大丈夫」
こ、このやりとりをミナトはずっと繰り広げていたのか。
ゲームで遊んでいるときは、数回しか言葉のラリーがなかかったけど、こうして体験するともう本当に凄い。
しかも実の姉弟だと思っていたわけだから、冗談抜きでどういう心境で過ごしていたんだ。
今の俺的には、ややしつこいと思うものの役得であることには変わりない。
「姉さんもほら、自分のを食べなよ。俺もうどんが冷めちゃう」
「それもそうね」
でもあれだ、こうして物語の主人公を見ていると一切の助け舟を出さないんだな。
いやまあわかるよ、わかりますよ。
こんな微笑ましい茶番を目の前で繰り広げ続けられたら、ツッコミを入れる気力は薄れていくだろうし、助け舟を出したら腹に拳をねじ込まれる恐怖もある。
そんな状況下で会話に割って入れば言わずもがな。
でも、でも今日だけは何か打開策に繋がる案を出してくれないか?
「そういえば姉さんってカイトみたいにモテてると思うけど、告白はどうしてるの?」
「たまに手紙とかが入ってるけど、目を通さずゴミ箱へ捨ててるわ」
「あまりにも容赦がないね」
「だってそうでしょう? 顔がいいからって告白してくるような猿たちに付き合うなんて時間が無駄だもの」
見向きもせず構いもせず。
もはや「汚らわしい存在を視界にすら入れたくない」と言い始める勢いだ。
自画自賛しているけど、否定できる要素がないから言い返せない。
「だから、カイトが毎日毎日女子からの告白を全て対応している姿は凄いと思うわ。誰からも受けないくせに」
「これまた手厳しい意見を受けちゃったね」
「私が言えた立場じゃないけど。逆に、断ることに抵抗はないわけ? 毎日毎日何人も何人も」
「そりゃあ、相手の気持ちを考えると気楽なものではないよ」
お、なんだかよくわからないけど話の流れが変わったな。
「だったら相手にしない方が、断られるより傷つかずに済むと思うけど」
「でもそれって、相手の気持ちを蔑ろのする行為かなってと思うんだ」
「断る前提で待ち合わせ場所に行くことの方が、残酷な話ではなくて?」
「少なからず期待させてしまう点については、残酷な話かもしれない」
白熱した討論になり始めたけど、流れに身を任せるしかないか。
「でも逆に言うなら、いつ来るかわからない相手を待ち続ける苦しさはいいの?」
「時間を無駄にはするかもね。でも1日が過ぎたら、諦められるわよ」
「――人の気持ちは、そう簡単なものじゃないよ」
「それはそうかもしれないけど。でも、相手からしたら1対1かもしれないけど、受ける側は何人も相手する。それはカイトが一番よくわかっているじゃない。自分の時間はどうなってもいいと?」
「時間は誰しも平等だ。それは僕も同意見だし、『他に何かできる』とも思う」
実際、カイトの身体能力が優れているのは、告白イベントで流れるように体を鍛えていることにある。
それとは逆に魔法が劣っているのは、幼少期から続くモテモテタイムのせいで練習時間が根こそぎ削り取られているから。
でもカイトは、ストーリーを通してソレを言い訳にする言葉を発することはなかった。
当然、全ルートと選択肢の先だったとしても。
「だからこそ、僕に好意を抱いてくれる人を僕から解放してあげたいんだ」
「どういうこと?」
「少しでも希望があると、『もしかしたら』という希望を持ち続けてしまうかもしれない。その先の延長線上は“相手に時間を使ってしまうこと”」
なるほど、カイトが言いたいことは理解した。
優しい言い方に変えているが、“相手に時間を取られる”ということ。
好きでいる時間、イライラする時間、後悔する時間、希望を膨らませる時間。
まだまだあるだろうけど、本当は自分の時間が優先のはずなのに、脳内が相手に占領されてしまっている状態を言いたいのだろう。
「もしもあのとき、こう言っていたら」「もしもあのとき、こう行動していたら」「もしもあのとき、手を差し伸べられていたら」等々。
でもそれは……。
「ただの自己犠牲でしかないじゃない」
さすがはカリナ、オブラートに包むということをせずストレートに言ってしまう。
でも実際そうだ。
カリナが言う通りに、結局は相手側からは1対1であり、受け手は1体複数になる、しかも続く限り永遠に増え続ける。
相手を尊重する、それだけの理由で全てを対応していたら、永遠に自分の時間を浪費し続けることになってしまう。
2人共、これから先もモテ続けることは確約みたいなものだし。
「そうだね。自己満足なだけかもしれない。でも、僕は僕なりに相手の気持ちを尊重して少しでも向き合ってあげたいんだ」
「見上げた心意気ね」
顔だけではなく中身までもイケメンであり、心優しい優等生。
メインヒロインたちも惚れるし、周りの人たちも惚れるには申し分ないというわけだ。
2日前まであちら側だった俺が恥ずかしいよ。
「私だってカイトが言っていることを完全否定するわけじゃない。思いが通じないのは苦しいもの。その気持ちはわかる」
俺でありミナトへ向ける、その一途な気持ちゆえに、相手の気持ちもわかるだろう。
そもそも冴えわたり回転が速い頭なのだから、嫌でも理解できてしまう、と言った方が正しいか。
「――今日だけ、今日だけは告白を断りに行ってみるわ」
な、なんだってぇえええええ!?!?!?!?!?
白熱した討論の先に、まさかのまさかで目的を達成してしまった?!
ここからどうなるか、殴り合いになったりしないよな、ぐらいしか考えていなかったのに上手く着地してしまうとは。
「俺には体験できそうにない話し合いは終わったかな」
「ええ。そういうことで、今日も一緒に帰ってあげられないの。ごめんなさい」
「いいよ」
「説教みたいになってごめんね」
「いいわよ別に。カイトが言っていることもわかるから」
本当、俺はどんな顔をしてここに居たらいいんだ。
この中で俺こそが一番、想いを馳せてくれている人間に向き合わなければならないって話だよな。
隣に居る、実の姉弟だと思って想いを塞ぎこんでいるアリサに対して。
でも今は、空気がしんみりと落ち込んでいる状況を能天気を装って打開せねば。
「くぅ~、出汁の浸み込んでいるスープうめぇ~」
「豪快でいいね。僕にも一口ちょうだい」
「ダメよ、私が先」
「アリサが口をつけたら、僕が飲めないじゃないか」
「私だって同じよ。カイトが口をつけたら飲みたくなくなるじゃない」
「ちょっと言い方が酷くない?」
「当たり前じゃない。“ミナトが口をつけた”ことに意味があるのよ」
一気に雰囲気が明るくなった、よしよし。
それで、俺の意見が反映されなさそうな空気ですけど、どうにかなりません?




