第24話『授業中に、イレギュラー発生!?』
よーし、今回こそ放課後に向けた作戦を練るとしよう。
さっきの授業から続き、今度は探索魔法の練習をする実技だ。
難しいことはなく、ただ地面に落ちている魔力と関係するものを探し当てるだけ。
小学校からの延長線上にある魔法であり、研ぎ澄ますために個人で作業することになっている。
魔力があるこの世界は、もちろん現実世界と違う点が多々あり。
この世界では【魔力草】や【魔力石】、みたいなものがあって、砂の中にガラスの破片みたいなものが入っているアレが【魔力片】と名付けてある。
「――」
という感じにものを探すわけだけど。
ぶっちゃけて言うと、魔法を頼りに探さなくても蟻を探す感じに目を凝らして注意深く集中していたら、目視でも見つけられる。
なんせ魔力に関係しているものは、全て紫色だから。
難点としては、濃度が薄いと色素も薄いから【魔力片】は光の当たり具合では発見が難し――。
そんなことより、作戦作戦。
さっきの時間は希望を見出し、熱血指導へ方向転換してしまったけど。
最終的な完成度を参考に言えば、まあ無理。
強力な回復魔法を使用して回数を稼ぐことはできたが、当然それは回復魔法がある前提にある話。
いくら脳筋の天才――じゃなくて体現の天才だとしても、「習得できた」と太鼓判を押すまでは回数が足りなかった。
じゃあ、それを踏まえてどうするか。
「……」
単純な話、一旦は諦めてミーシャと共に買い物へ行く。
関係性を薄くするどころか築き始める過程を踏んでしまうけど、もうどうしようもない。
最終手段として約束を守らず逃走する、という手段も残されているが……関係性を破綻させたいわけでもないからなぁ。
希望のルートへ進むために傷つけさせたくはない。
「うーん……」
足りない頭を回転させても、『とりあえず今回は買い物』という流れで落ち着いてしまう。
「おいミナト」
「ビックリした」
「偶然にも魔力石2個あったから、あげるよ」
「え?」
「『うーん……』って困ってたじゃん」
「ま、まあ」
「ほら」
「ありがとう」
「じゃあ」
カイトは唐突に現れ、唐突に去って行った。
そういや後に身体強化魔法を習得して化けるが、そもそも探索魔法は得意な設定だったか。
親友が困っていると助けてくれる、その優しさは当事者になると心へ染み渡る。
もういっそのこと、考える暇がなくなるほどの何かが起きてくれたらいいのにな。
「はぁ……」
機転が利かないし思考力もないから、ゲームの知識がないと現実同様に現実逃避したくなる。
悪い癖だとはわかっているつもりだけど、足りない頭で考えてもなぁ……。
「うわぁあああああっ!?」
「ん?」
どこからか男子生徒の叫び声が聞こえてきた。
授業の内容がないようだから、森の中ではあるけどモンスターが出現する場所ではないはずだけど。
気になるし、声の方に――。
「逃げろぉおおおおお!」
それはもう焦りに焦った声を出しながら、男子生徒が目の前を走って通過していった。
次に女子生徒の悲鳴めいたものが響き渡り、次、次とその声は増えていく。
俺が居るところは木が多いから、状況が理解できない。
向かって左側から何かが迫ってきているのだろうか。
立場的には他生徒同様に退避した方がいいのはわかっている。
でも、この身体である安心からか興味本位で木から顔だけを出して状況を窺う。
「……」
なんということでしょう。
裏ルートを潰すために洞窟で討伐した、大熊なモンスターがのっそのっそと歩いているではありませんか。
未だ興奮状態ではないから焦る必要はないけど……熊から逃げるときに背中を見せて全速力で走るなんて危なすぎるだろ。
まさか裏ルートのイベントが別のかたちになって発生した――わけではないだろうし、パパッと倒し……ちゃうか……。
いや待てよ、周りの目があるのにそんなことをやっていいのか?
どうする……?
そもそもの話、同じモンスターだからといって裏ルートのイベントである確証はなく。
偶然の一致という可能性だって残されている。
ゲーム的な、何かしらの強制的な効力を持っているのであれば、あんなに余裕をもって歩いているか?
「……」
システム――そう、世界的な話であり俺をウイルスと捉え排除する目的であれば、デコピンだけで倒せるモンスターで対応するはずがない。
そして、ルート的な話だったとしてもカイトへ直進していくわけでもない。
であれば、あれはただ単にイレギュラー的な話だと思う。
普通に生活していて猪や熊などの野生動物と遭遇する感じのやつ。
だったら小石を投げて倒せば問題にならないのでは? 魔法を使わなければいいだけだし。
では実践、と小石を拾おうと姿勢を低くしたときだった。
「逃げ遅れた生徒は居ないか!?」
先生が駆けつけ、堂々と大声で呼びかけ始めた。
俺は対応に困り返事をせず、とりあえず様子を窺うことにしよう。
他の生徒は逃げ切ったようで、返事はない。
何回か大声を呼び掛けた後、大熊は数メートルのところまで近づいていた。
そして互いに向かい合う。
先生は腰に携えてある剣を引き抜き、正面に構える。
「『潤い満たすために欠かせず、全ての源であり生命力の元、活力を生み希望を生み』」
水魔法を発動させる詠唱文か。
な、何ぃ!? 詠唱したまま熊への距離を走って詰めていくだとぉ!?
『ンガアウ!』
な、なんだってぇーっ!?
大熊の方も、口を開いたかと思えば緑色の風魔法を飛ばしてきた!?
先生は大熊の行動を察知していたのか反応したのか。
詠唱を止めることなく大きく円を描くように動き、魔法を回避している。
かと思えば。
「【水成の刃】!」
魔法の追撃が収まったタイミングで、距離を詰め切って水魔法を剣にまとわせて頭部に突き刺す。
『――』
大熊は反応することなく、たった1撃で灰と化した。
す、凄い、これが本物の実戦というやつなのか。
先生の表情は冷静そのもので、呼吸が乱れている様子もない。
辺りに目線を配りながら剣を鞘に納める、と。
「先生!」
俺と同じく隠れていたであろう男子生徒が、木々の合間から飛び出してきた。
「怪我はないかな」
「はい!」
「みんな一ヵ所に集まっているから、移動しよう。他には誰か見なかったかな」
「いいえ、ここは俺だけだと思います」
「じゃあ一緒に戻ろう」
先生と男子生徒は初期集合地点方面へと戻っていく。
俺も、こっそりと並行して移動開始。
さすがに捜索されるのは後々が大変だからね。
それにしても凄い学びを得られた。
ゲームと実戦ではああも違うのか、と感心したと同時に自分の力の使い方を見つめ直そうと思った。
先生の戦い方は、全てが同時進行で進んでいたはずだ。
警戒、移動、詠唱、回避、攻撃――しかも攻撃魔法だけではなく移動補助魔法も発動させていたと思う。
身体能力も優れているだろうけど、全てを並行しながら戦う難しさは見ていただけでも伝わってきた。
俺は左右を確認しながら試行錯誤しているとはいえ、圧倒的火力や能力差で一方的に蹂躙しているだけ。
ステータス的にノーリスクであっても、もう少し頭を使わないと能力を浪費しているのとかわらないな。
「――ミナト、大丈夫だった?」
そんなこんな考えながら歩いていると、先生たちより早く集合地点へ戻ってきていた。
「うん、この通り大丈夫」
「よかった。強力なモンスターが出たらしいよ」
「そうなんだ。全然気が付かなかった」
両腕で自分を抱き、顔の覇気を失くして小刻みに震えてみる。
「怖すぎ」
「僕もミナトの姿が見えなかったから気が気じゃなかったよ」
「心配してくれてありがとう」
「当たり前でしょ」
くぅ~! これが親友ってやつなのかぁ!!!! 心に染みるぅ~!
なんという温かさなんだ! 信頼関係も凄い!
まるで優しさで殴られているような感じだぁ!
「あ、先生が戻ってきたね」
さて、じゃあ今回の授業はここまでだろう――あ。
おぉおおおおおい! 大熊ぁあああああ!
お前のせいで作戦を練れなかったじゃないかぁああああああああああ!
諦める方針の方は決まったけど、まだまだ考えられたはずだっただろおおおおおおおおおお!
うわぁああああああああああ!




