第21話『朝から始まる俺たちの駆け引き!』
「カイト、結局作戦が決まらなかったから登校中に話そう」
「賛成」
昨晩、食事をしながら消灯時間ギリギリまで作戦会議をしていたが、明確な解決策を見出すことができなかった。
そもそもの話。
気づかれていなかったのなら、全てが杞憂だったということになる。
でも、そうじゃなかった場合。
俺はギリギリ鼻に拳をねじ込められるぐらいで済むが、カイトに限っては「不健全な雑誌をミナトの視界に入れたから」という理由で往復ビンタ……いや、往復殴りからの倒れたところに蹴りの嵐だろう。
当然、ただのファッション雑誌は灰になるまで燃やされることは確定だな。
「それで――」
「おはよう」
「おはよう姉さん」
「んえぇ!?」
「ってえぇ!?」
「何よ、その反応」
寮の敷地内から出てすぐ、外壁にカリナ姉さんと鉢合わせてしまった。
隣から聞こえたから確定で、俺と一緒にカイトは「ヒュッ」という声を鳴らし呼吸が止まっている。
もはや一瞬だけ、心臓すら止まってしまったかもしれない。
「こんなところで会うなんて奇遇だね」
「いいえ、私から会いに来たのよ」
「そ、そうなんだ」
「ええ」
なんというビックリイベント。
盛りや奢りなしに、間違いなく作中最強のキャラクターであるにもかかわらず、平常時でここまで追い込まれるものなのか。
そりゃあ天敵にも設定されますわ。
「綺麗でもあり美しい女性に会ったら、何か言うことがあるわよね」
「え」
「何」
「あはは、そりゃあ決まっているさ。今日も綺麗だね、カリナ姉さん」
「むふふ。よろしい」
たった一言の雑な誉め言葉で満足してくれたのか、カリナは俺たちに背を向けて歩き出した。
その様子を前に、俺とカイトは血の気が引いた顔を合わせた後、「早く来なさい」という無言のオーラを放つ背中を追い始める。
「てか本当に用事もなく朝から待ってたの?」
「ええまあ、悪い?」
「いや悪くはないけどさ。女子寮から近くはないわけだし、大変だったんじゃないかなって」
「あら、さすがはミナト。私の心配をしてくれるのね、嬉しいわ」
カイト視点だと『さすがブラコンな姉、今日も今日とて冴えわたっているな』というものだろう。
ゲーム内進行度的にも、本来ならミナトも同様の意見を抱いている。
しかし俺は知っているのだ。
本当は血が繋がっている姉弟ではないこと、そして自分では気持ちに蓋をしているが、男女の恋愛的な感情を抱いてしまっている事実を。
諸々を含めた作戦会議が中途半端で終わったから、目線や表情で合図し合うしかないしアドリブで挑むしかない。
「そうそう、用事ならあったわ」
「何?」
「寮を出て、2人暮らしをしない?」
「え」
アリサは足を止め、振り返りざまにそんなことを言い放つ。
あまりに衝撃的――というわけではないけど、唐突すぎて時間が止まってしまったのかと錯覚してしまう。
厳密には、小鳥たちのさえずり、周りの人たちがする会話、散歩に出ている犬の鳴き声は普通に聞こえている。
あまりにも平穏な日常が流れているからこそ、この地獄みたいな状況が際立っているのかもしれない。
「さすがに無理があるでしょ」
「例えば?」
「金銭面」
「アルバイトを許可してくれる学園だから、私がどうにかする」
「いやいや、さすがにそうはいかないでしょ」
「ミナトのために給料の全部を使っても、私は問題ない」
「俺が気にするって話」
「えっ! ミナトが私を気にしてくれているって!?」
「ちゃんと話聞いてる?」
何、その『キュンとした』みたいな反応は。
感情に蓋をしてるんでしょ、片腕ぐらい飛び出てるよ。
「いろいろと現実的じゃないってことぐらい、姉さんだったら理解できるでしょ」
「困難を乗り越えてこその、という想いよ」
覚悟は決まっている、と言わんばかりに速度を遅くして俺の隣まで下がってきた。
訂正、真横から表情を見たけど『既に覚悟は決まっている顔』だ。
「理解できる頭があるのに、抑制できる心がないのは人間の性なのか」
「小難しい話をするわね」
「いーや、至極簡単な話しかしてないよ」
「理性はちゃんと保てているじゃない」
「いや? 理性を保つことができる人間は、俺に腕を絡まては来ないよ」
「そう? 姉弟なら不自然なことじゃないでしょ」
「不自然だよ」
まるで恋人同士がする、アレ。
それを許可を得ることなく実行している事実に、どこが立派な理性が証明できるというのか疑問でしかない。
てか、反対に居るカイトへ目線を向けると、目を逸らし続けている。
関わりたくないのは自他認める状況だが、1人だけ安全圏に居続けるの言うのなら――。
詮索しなければならない昨日の件を、自爆覚悟で掘り返してやろうじゃないか。
「姉さん、昨日の用事はどうだったの?」
「ああ、あれね。予想以上に早く終わったの」
「ほう?」
「ほら私、勉強ができるでしょ? それで、教えて欲しいって子が居て」
「その優秀な頭で指導した、と」
「いいえ。めんどくさいと思ったから、ノートを貸して退席したわ」
「なるほど」
あまりにも合理的というか効率的というか無配慮というか。
たぶん、その人は姉さんと話す機会を得て仲良くなりたかった側面もあったのだと思う。
しかし冷徹にも突き離されるような対応をされ、目を点にしながら取り残された人の表情が想像できる。
でも、ここからだ。
「早く終わった後は何をしていたの?」
話題を出し、チラっとカイトの方へ目線を向ける。
この切り口には、さすがのカイトも当事者と自認しているのだろう、焦った表情で顔をこちらへ向けてきた。
そして無言のまま口だけを動かし、「おーい!」と困惑を露にしている。
どうせバレていたのなら、もはや逃げ切ることは不可能だろう。
思い切りのいい攻め方で答えを早急に出した方が、怯え続けなくて済むはずだ。
「ショッピングモールへ行ったわ」
「そうなんだ。何か買いたいものがあったの?」
とは自覚しても、攻めすぎて心臓がバックバク。
体まで押し付けられたら間違いなく何かを悟られてしまう。
「そういうわけじゃないけど。ちょっと気分転換に散歩の延長線上で行ったの」
「それは良い案だね。気分転換は大事だ」
「何かを探していたのは事実だけど」
「なるほど。その何かは見つけられた?」
「……いいえ。見つけたら間違いなく気分が高揚していたけれど、残念ながら。本当に残念だった」
「そこまで気を落とすなんて、本当に残念だったんだね」
こ、こえぇーっ!
やはり根拠がないままショッピングモールへ訪れ、無意識に尾行されていたってことだったようだ。
手汗がドバドバで握られたら、本当に危険だ。
「まあ気を取り直して、今日も頑張っていこうよ」
「ええそうね。朝からミナトに会えたし、絶好調よ」
「ははは、冗談はここだけにしておいてね」
「冗談じゃないわよ」
みんなの前ではやらないでって言ってるのが伝わらないね?
そして再びカイトの方へ目線を向けると、完全に安堵しきっている。
攻めすぎたとは思ったけど、これで俺も命拾いしたわけだし、よしとしよう。
「じゃあそろそろ、人も増えてくる頃合いだし」
「このまま行きましょうね」
「違うって」
「ふふ、冗談よ」
重くはなかったから迷惑ではないけど、周りの目線的に羞恥心が大幅に勝ってしまう。
でもまあ、キャラ的にはそうだけど、中身的には超美少女が腕を絡ませてきてくれるなんて役得でしかないけど。
2人暮らしだって、周りの意見や目線を気にしなければ別に断る理由なんてない。
というか、先の展開と血縁関係ではない事実を把握しているのだから、もはや断る理由はないとも言える。
でも肝心なのは、俺が死ぬ未来を変えることだ。
いい感じに流れを操作できていそうだし、このまま天敵を回避しつつ頑張っていこう。
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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