第20話『ガール、ガール、ガールの内々情』
(やったーっ偶然だけど会えちゃった)
ミーシャはミナトと別れた後、帰路にて小さく拳を握り締める。
(しかも、お揃いのハサミも買えちゃったよ~!)
今にも走り出してしまいそうなぐらいの喜びをグッと堪え、すれ違う人たちと同じように歩み続ける。
しかし完全には感情を抑えることはできず、周りの目線を気にすることなく表情をふにゃふにゃに緩めせ。
ビニールの袋を、ぐしゃっと力強く握り締めた。
(今朝は本当に怖かった。ずっと忘れることができないと思う)
周りに沢山の人が居る今だからこそ、まだ心の安寧を保つことができている。
しかし足を進める最中チラっと薄暗い路地裏や細道が視界に入る度、体がビクッと反応してしまう。
もしもあのままだったら、もしも逃げ切ることができなかったら、もしももしも……と、いくつもの最悪が脳裏をよぎりながら。
(でも――)
そんな恐怖や一種のトラウマを思い出してしまうも、ミーシャは次には強張った頬を緩ませる。
(あぁ~! ミナトくん、かっこよかったなぁーっ!)
最悪の後に必ず来る希望の存在で、全てが塗り潰させる。
(混乱していて何も見えなかったけど、あっという間に制圧して凄かった!)
自身に芽生えてしまった、思い出したくもないトラウマだというにもかかわらず、ミーシャはミナトの雄姿を何度も脳内で再生し続ける。
ピンチに駆けつける、白馬に乗った王子様を彷彿とさせながら。
ショッピングモールを少し離れ、すれ違う人の数が減ってきたことを察知したミーシャ。
本来であれば、今朝の出来事が脳裏をよぎって体が強張ってしまいそうなものだが……。
次に来る希望の存在により、一連の流れを思い出して浮足立ってスキップをし始める。
ビニール袋がクシャクシャになって、もはやハサミの形がわかってしまうほど強く握り。
速く訪れて欲しい明日へ想いを馳せ、1分1秒でも時間が早く過ぎて欲しいなと思い続け。
「ふっふふっふふーんっ」
――そう、時すでに遅し。
いろいろと画策するミナトとは裏腹に、ミーシャは心の奥底や記憶の奥深くまで容姿や声を刻み込んでしまっていたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なるほどなるほど、こういうファッションもあるのね」
帰宅したアリサは、購入した雑誌に目を通していた。
「肩出し、へそ出し……大胆すぎて、わたしには無理かな」
ワンピース、上下揃え、ジャケット、カーディガン。
様々な組み合わせを空想上で自分に着せてみるも、掲載されている目立って仕方がない色の数々に全てが却下される。
時折流れてくる、少し大人目で露出がある組み合わせは即時却下され、しかしドレスのようなヒラヒラが目立つ組み合わせも「もう、ああいう服は着たくない」という理由で没。
「ファッションって選択肢はいろいろあるのに、だからこそ難しいなぁ」
椅子から立ち上がり、姿鏡の前へ移動するアリサ。
「うーん、難しい」
未だ制服姿だからこそ違和感がないものの。
いざ想像でも別の服装を自身に重ねてみると、どれも似合わないような気がしてしまい悩みが尽きず。
では慣れ親しんだドレス系統にすればいいのか、と自信に問うも、それだと完全に周りから浮いた存在になってしまう。
じゃあどうすればいいのか。
「ミナトは、どんな服だったら喜んでくれるのかな……えっ!? い、今わたし、え!?」
アリサは、まさかの言葉が漏れ出てしまい焦って口を両手で押さえる。
「どうして……」
自身の感情を整理するべく、今日の出来事を思い出す。
身の程を弁えない見知らぬ男たちに囲まれ、状況を理解することに必死で追い詰められてしまい。
あわや危険な状況に陥ってしまう状況。
しかし災いは訪れることなく、響いたのは自身の悲鳴ではなくミナトの声だった。
そして、対人戦で最も不利とされている1対複数人の魔法戦を制し。
囚われの姫を助けるが如く、手を引いてくれた。
「あぁ、かっこよかったなぁ~」
思い出すだけで顔が熱くなってきたアリサは、ベッドに飛び込む。
「偶然見かけて、用事もなかったのに書店へ入って正解だった」
顔を埋めながら、自身の功績を褒め称える。
実際に当時はアリサにとって書店は用事がなく、偶然にもミナトが入っていく姿を見て入店した。
最初はただの興味本位であったが、目で追っている内に声をかけたくなってしまい、大胆にも偶然を装って実行したのだ。
だから当然、ファッション雑誌を購入する目的もなく、話を合わせて買っただけ。
読み進めていくと思っていたより勉強になる内容だったから、つい目を通していた。
「かわいい服を着てみたら、気に入ってくれるかな」
体を反転させ、目線は天井へ。
最初こそ『趣味の幅を広げる』ぐらいだった緩やかな勢いが、今ではミナトを基準として考えるまで方向転換してしまっている。
自身が似合わない服装であっても、『ミナトがいいというのなら』と他の誰が意見をしても聞き入れない覚悟をしてしまうほど。
「あぁ~迷う~まーよーう!」
ジタバタと手足を動かし、既に『なぜミナトのことを思っているのか』という疑問はどこかへ飛んで行ってしまっていた。
「もう、本人に直接聞いてみた方が早い? でもでも、そんなに大胆なことをして――あ~今日のわたし、さすがに行動力ありすぎ!」
矛盾している自身の発言など眼中になく、アリサは「それでもそれでも」「でもでも」「だけどだけど」と独り言を繰り返す。
まだ部屋が夕日に染まる時間帯にもかかわらず、既に明日のことを考える始末。
もはや自身の行動力を活かし、彼の家へ突入しようかと画策するも。
「門限とかなくて自由でも、そもそも住んでいる場所を知らなかった……」
嬉々として名案を思いついた、と体をガバッと起き上らせるも、冷静に反対の答えへ行きついてしまい落胆して再び倒れ込む。
「お金と人の力を使って捜索しちゃおうかな」
という強引かつ恐ろしい案までも口に出してしまう。
「はぁ~……早く明日にならないかなぁ~……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(私の勘は、ここにミナトが居る可能性を示唆した)
カリナは学園での用事を終えるや、冷静に思考する時間を挟むことなく、移動を楽にする魔法を使用しつつ全速力でショッピングモールへ到着していた。
呼吸を整えつつ、謎の勘に従い、目線を常にギロッギロッと睨みを利かせながら動かし続ける。
次々に通過していく人々を素直に『邪魔だ』と遠慮なく思いながら。
(理由なんて必要ない。私の勘はいつだって正解を引き続けてきたのだから)
当然、そんな特殊能力や未来余地可能スキルみたいなものは存在しない。
ではなぜ、そこまで妄信するほどの猛進をしたかというと。
カリナに働く謎の才能は、ミナトに関してのものだけほぼ確実に的中させているからだ。
嬉しい予感、悪い知らせ、感情の起伏、欲するもの。
もはや超能力者と言っても過言ではなく、庇護対象としての域はとうに超え、一心同体を目指してしまっている。
まさにぶっ壊れている姉だが、自身が抱く感情にだけは蓋をし続けていた。
(いっそのこと、大声を上げて周りの動きを止めてしまえば探す手間が省けるかしら)
目的を達成するためには手段を択ばないのは、今に始まったことではない。
過去、ミナトを罰ゲームの対象として選んだ同世代の女子たちに対し、頭も拳も脚も牙も使い文字通り物理的に制裁を下した過去がある。
現在も思考の通り、周りの人間を“邪魔な存在”としか見ておらず、魔法をぶっ放して混乱を招けば解決可能か、と恐ろしい思考にまで至っていて。
当然、そんな思考を巡らせている最中も鋭い眼光は常に動かし続けている。
(どこに居るのミナト)
極めて稀に訪れるハズレを引いてしまったのかと思うも、しかし探すことを諦めるわけはなく。
当人は気づいていないが、その勘は完全に当たっており、現在ミナトはカリナの存在を先に察知し逃走中。
されども手掛かりを何も掴むことなく、カリナは無意識に尾行を成功させている。
(せめて匂いだけでも嗅ぐことができてら確信が持てるのに)
変態的な思考は頼りにするも、先ほどよりも通行人たちを鬱陶しく思ってしまい眉間に皺を寄せる。
もはや怒りを通り越して殺意に片足を突っ込んでいる状況。
あまりにも物騒な話だが、カリナにとっては日常の一部である感情でしかない。
(あの背中、もしかして!?)
身に覚えのある背格好を視界に捉え、人をかき分け――いや、暴力的に強行しようとしたときだった。
(チッ。別人か)
このとき、既にミナトは裏路地へと進行しており、見間違えたのは買い物へ来ていた学園の生徒だった。
(はぁ……寮なんか出て、2人で生活できないか提案してみようかしら……)
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