第11話『裏ルートの第一関門を試してみる』
「――さて、と」
授業が終了し、すぐさま廊下へ飛び出す。
行先はトイレであり、外へ飛び出すこと。
「さすがに人間を辞めてるだろ、これ」
どこを蹴って高く跳んでも、普通なら着地をすれば骨が折れ――いや、砕けることもなく。
バンジージャンプを生身で何度も行い続けているような感覚を味わいつつ、目的である森の中を突き進む。
そして数分も経たないうちに、裏ルートに関わってくる洞窟へ到着した。
「記憶通りにそのままだな」
さすがに感嘆として独り言も出てしまう。
何度も見た景色ではあるが、ワクワクして遊んでいたゲーム内そのままだったから。
岩壁に穴が開いている程度の、地続きで岩肌が露出している洞窟。
別に特別な施しがあるわけでも、希少なアイテムや宝石を手に入れることができる場所でもない。
じゃあ、ここでムフフなイベントが起きるというわけでもなく。
「おいで」
カッコよく決まらないけど、両手で指パッチンと音を鳴らす。
『カーッ』
『ピーッ』
純白な烏と漆黒の鷲が、それぞれ左と右に止まる。
「そういえば、名前がなかったよな」
ゲームだと敵側の能力というか装備であり、見た目がそのまま『純白な烏』と『漆黒の鷲』だった。
プレイしているときは、名詞がそれでも問題なかったけど……俺が考えている最中も首をクイックイッとひねる可愛い姿を見ちゃうと、粗末に扱えない。
小さくても丸々とした瞳に見つめられると、つい撫でまわしたくなってしまう。
「でも今は時間が惜しい。名前は、また後で考えよう」
『クワッ』
『ピュッ』
洞窟の奥へと足を進める。
裏ルートは、基本的に表ルートのイベント軸とは被らないよう時間が進んでいく。
だから、最初の裏ヒロインであるアリサと会話している最中は、表ルートでは何も起きていないことが大半だ。
間隔が空いているからこそ、表ルートより魔法習得や戦闘技術を獲得しやすく、しかしそれに伴って難易度が跳ね上がる。
そして、ここへ辿り着く時期はまだまだ先だが……。
『グウゥ』
なるほど、目論見通り。
洞窟は、行先が分岐して迷路状になっているが何度も通った道を間違えるはずはなく。
辿り着いたハズレの道、裏ルートでは誘われるように行ってしまう場所に待っていたのは大熊。
正しくはモンスターであり、この森で生息している序盤にしては強力は標的だ。
そして今から試すのは、このモンスターを討伐。
さっきの相手次第な質問より、よっぽど明確だ。
「やっちゃっていいよ」
『カーッ』
『ピィァ』
腕から飛び立った2匹は、ゲーム内でも見ていた通りの脅威を披露して熊を瞬殺。
純白の烏は、空中に白い刃を無数に出現させて一直線に飛ばし。
漆黒の鷲は、黒いモヤモヤが円を描くように出現したと思えば、同じく飛んでいき。
大熊なモンスターは反応することもできず、命尽きて灰になってしまった。
「つよ」
と、率直な感想を口に出したけど。
そりゃあエンドコンテンツのラスボスに仕えているのだから、こんな序盤のモンスターは余裕で当たり前か。
2匹は、『飛んで帰ってきただけ』な感じで戻ってくる。
朝飯前と言うのは、このことなのだろう。
また両腕に戻ってきた。
「両方一緒に出てきてもらうと、撫でられないのがむず痒い」
今も撫でていいよ? みたいにクリクリに可愛い目を向けられると、ソレが加速してしまう。
2匹とも羽みたいに軽いし、誰にも見られていないから――。
「いやいや、あまりにも変すぎる」
洞窟から出よう。
さっきの表ルート探りとは違い、裏ルートのイベントは攻略することができた。
懸念点があるとすれば、復活する可能性。そして、別の個体が居座る可能性。
一旦は大丈夫として、時間を空けて再訪するべきだな。
「ここまでで大体――2分ぐらいか。まだ時間に余裕があるし、ちょっと試してみるか」
そう言い終えると、2匹は意図を読み取ってくれたかのように飛んでくれた。
ここまで人間の言葉を理解しているから、名前の方も早めに決めてあげないとな。
「そもそもの話。自分の身体能力を明確に把握しておく必要があるよな」
今朝、おじさんを純粋な力で捻じ伏せた。
自分の移動速度や身体能力に驚きはしたけど、力加減は意識できていなかった。
でも冷静に考えたら、あのまま腕を折ったり、最悪はそのまま命を奪っていた可能性だってあったわけだ。
「俺の骨が折れたら、そのときはそのとき」
たぶん、純白な烏が回復してくれるだろうし。
深呼吸し、覚悟を決めて目の前にある木を標的に定める。
「大丈夫大丈夫大丈夫――はぁっ!」
走る、より跳ぶイメージで距離を詰め、突き出した拳は――。
「わーお……」
轟音鳴り響かせ、殴った位置から上下に倒れてしまった。
そして、俺は負傷なし。
完全に人を辞めているな、これ。
手のひらを握っては開いてを繰り返しながら、倒れた大木のところへ足を運ぶ。
「じゃあ、こういうのも――! できるってことだよなぁ」
両足を肩幅よりも開き、大木へ拳を振り下ろす。
結果、『バキィ!』という騒音を立てて叩き割ってしまった。
「もはや人間か疑う状況だな」
これを見て、2匹は嬉しそうに鳴き声を上げている。
褒められているのだろうけど、素直に喜んでいいものではない。
そして、別に思うこともある。
完成されているぐらい、誰にも文句を言われないぐらいチート急な強さを誇るラスボスだというのに、エンドコンテンツのラストは主人公に敗北して死ぬ。
正直に言って「何を冗談を」と現段階では思ってしまうが、その事実は最後まで遊び尽くした俺が一番よくわかっている。
だから、こう模索している。
「そろそろ戻らないと、か」
プレイヤーとして遊んでいたときは、いくらでも時間を止めたまま考えることができたのにな。
本当に現実世界と同じく時間が流れていくと、いろいろなことが重なって考察したり作戦を練ったりすることもできない。
「手伝ってくれてありがとう。次会うときまでに名前を考えておくよ」
『カーッ!』
『ピィッ!』
「じゃあ、またね」
可愛らしい返事を貰ったことで、こちらも少し嬉しくなって頬が緩んでしまう。
しかし、次の授業があるからキャッキャウフフな戯れる時間を過ごすことはできない。
そんな複雑な気持ちを抱えてしまっていたからか、力の使い方が少しだけわかったからか。
ここに来るまでの跳躍より、ほんの少しだけ飛びすぎてしまった。




