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英雄になるまで  作者: モカ


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第二話

「まず、簡単な質問をさせていただきます。」




ルトは机の上に書類を広げた。その紙には幾つかの項目が書かれている。




「名前は?」




「ルーファス。」




「年齢は?」




「十七だ。」




「出身地は?」




俺は少し間を置いた。帝国から来たことを隠す必要はないが、上級貴族だったことは隠しておきたい。




「帝国です。」




その答えを聞いても、ルトは何も言わなかった。ただ淡々と書類に記入していく。その様子は、多くの冒険者志願者を見てきた経験から出てくる無感情なのだろう。




「剣の経験は?」




「ある。」




「魔術や魔法は?」




俺は頷いた。




「両方扱える。」




その時、ルトの手が少し止まった。彼の青い目が俺を見つめる。




「両方、ですか。」




「ああ。」




再び彼は書類に記入する。その後、いくつか質問を受けたが、ほとんどが定型的なものだった。最後に、ルトは書類をまとめた。




「では、適性審査を受けていただきたいのですが、こちらへ。」




俺たちは奥へと進んだ。そこは広い空間で、複数の訓練場に分かれていた。すでに何人かの冒険者が、剣の腕を磨いたり、魔術の訓練をしたりしている。




「こちらで、簡単な適性審査を行います。」




ルトが指差したのは、一つの訓練場だ。そこには何体かの木製の人形が立てられていた。




「この人形たちに、あなたの力を見せていただきたいのです。全力を出す必要はありません。基本的な剣の動きと、魔術の一つか二つを見せていただければ結構です。」




俺は頷いた。正直、この程度の審査なら、Eランクで始まったとしても問題ないだろう。だが、リリーの言葉を思い出す。実力で初期ランクを上げてもらうという選択肢がある。




それなら、ここで本気を少し見せるのも悪くないかもしれない。




「わかった。」




俺は腰の剣に手を掛けた。鞘から剣を抜く。その剣は、帝国にいた時からの愛用の一本だ。時の魔法を込めると、短剣と長剣の両方として機能する特殊な武器だ。




「では、いきます。」




俺は一歩前に出た。そして、木製の人形に向かって走る。基本的な剣の型をいくつか見せた。振り下ろし、横薙ぎ、突き。帝国時代に磨いた技を、ここで見せる。




木製の人形は、俺の剣でズタボロになってしまった。




「次は魔術で。」




俺は剣を収め、魔術に切り替えた。周囲の空気を意識する。そして、火の魔術を放った。




無詠唱で、俺の指先から炎が立ち上る。それは人形を炎に包み、焦がした。




「では、次の人形を。」




今度は水の魔術を放った。俺の手から水が噴き出し、人形を貫く。水の威力は火ほど目立たないが、その精密さは高い。




一通りの審査を終えると、ルトは何かを考えるように俺を眺めていた。




「ルーファスさん、失礼ですが、どの程度の冒険を想定されていますか?」




「今のところは、魔族の討伐を考えている。」




その言葉を聞いた時、ルトの表情が変わった。気のせいかもしれないが、警戒心が増したように見える。




「魔族の討伐ですか。」




「ああ。」




「それは……非常に危険な依頼になります。普通の冒険者は好き好んで魔族討伐に向かうことはまずありません。」




「だから、初期ランクを上げてほしい。」




その言葉に、ルトは一瞬考えた。そして、彼は奥へと姿を消した。おそらく、上長に報告しているのだろう。




「大丈夫ですか?」




リリーが小声で訊いてきた。俺は肩を竦める。




「わからん。」




待つこと数分。ルトが戻ってきた。その後ろには、もう一人の人物がいた。




女性だ。黒髪のロングヘアーに、着物を着ている。その雰囲気は、共和国の中では明らかに異質だ。帝国の雰囲気とも違う。どこか、和の国のような印象を受ける。




「私がギルド長のサクラです。」




女性は、ゆっくりと話した。その口調は丁寧で、落ち着いている。年齢は三十代だろうか。黒い瞳が、俺の全てを見透かしているような気がする。




「ルトからお聞きしました。初期ランクの引き上げを希望されているとのことですね。」




「ああ。」




「そして、魔族の討伐を目的としているとも。」




「その通りです。」




サクラはしばらく俺を見つめていた。その視線の先には、何か重い意思を感じる。




「ルーファスさん、一つ確認させてください。」




「何ですか?」




「あなたは、なぜ魔族を討伐しようとするのですか?」




俺は一瞬、答えに詰まった。リリーが傍にいる。彼女の前で、本当の理由を言うべきか。いや、ここで本当の理由を言う訳にはいかない。個人的な理由


と答えてどうにかやり過ごそう。




「個人的な理由があります。」




「個人的な理由……」




サクラはもう一度、俺を見つめた。その黒い瞳に吸い込まれそうになる。




「わかりました。では、初期ランクをCランクに引き上げます。」




その言葉に、俺は驚いた。リリーも、目を大きくしている。




「ただし、条件があります。」




サクラは続けた。




「あなたが受ける依頼は、私が個別に管理します。無謀な依頼は受けさせません。もし、依頼内容に不適切な点があれば、強制的にストップさせていただきます。これに同意できますか?」




俺は頷いた。




「構いません。」




「良好です。では、登録手続きを進めていただきたいのですが……」




サクラは少し間を置いた。




「あと一つ。」




「何ですか?」




「あなたの名前は知りました。ですが、あなたの素性については、何も教えていただいていません。帝国から来たと言いましたが、帝国のどこから来たのでしょう?」




俺は再び、答えに詰まった。この女性は、何かを見抜いている。その気配が強い。




「それは……」




「無理には聞きません。」




サクラはそこで言葉を止めた。




「ただし、あなたが我がギルドの依頼を受けた後、素性が影響する事態が発生した場合、その時は教えていただく必要があります。それで構いませんか?」




「ああ。」




その条件なら、受け入れられる。




「では、ルト。手続きを進めてください。」




サクラはそう言うと、奥へと戻っていった。ルトは、改めて書類を新しいものに取り替えた。




「Cランク冒険者として、新規登録いたします。」




彼は淡々と進める。そして数分後、一枚の証明書が俺の手に渡された。




「これが冒険者ギルドの公式な身分証となります。依頼を受ける際は、これを提示してください。」




俺はその証明書を見つめた。そこに「ルーファス」と書かれている。帝国での身分は、全て捨てたはずだ。ここから先は、冒険者ルーファスとして生きるんだ。




「よろしくお願いします。」




ルトが手を差し出してきた。俺は握手に応じた。




その握手の瞬間、ルトの表情が少し変わったが彼は何も言わなかった。




---




ギルドを出たのは、昼前だった。




「Cランクですか。」




リリーが驚いたように言う。彼女の青い瞳が、俺を見つめていた。




「最初からCランクは、珍しいですね。」




「あのギルド長が判断したんだろう。」




「サクラさんは……確かに、変わった人です。」




リリーは少し遠い目をしていた。




「共和国には、いろいろな人がいます。帝国とは違う。」




「そんなことより、依頼を受けてみようか。」




俺は掲示板を思い出す。ギルドには、多くの依頼が貼り出されていたはずだ。




「そうですね。Cランクであれば、魔族関連の依頼もあるかもしれません。」




二人でギルドへ戻った。掲示板の前に立つと、様々な依頼が見える。




「護衛」「捜索」「採集」「討伐」――様々な内容がある。




その中で、俺の目は一つの依頼に止まった。




「魔族討伐?」




その依頼内容は、『共和国北部の森に出現した魔族の討伐』というもの。報酬は五金貨。




「これ、受けません?」




リリーが俺の袖を引いた。




「ああ。」




俺は迷わずその依頼を手に取った。




だが、その時だった。




「その依頼は、受けない方がいいよ。」




背後から、声が聞こえた。俺は振り返った。




そこには、一人の男がいた。紫髪赤目。だらしない服装をしており、髪はぼさぼさだ。だが、その瞳は知的で、何か重い経験を積んでいるような気がする。




「誰だ?」




「僕の名前はヴァン。」




男は簡潔に答えた。




「この依頼は、貴方達が思っている以上に危険なんですよ。Cランクが受けるべき依頼ではありません。」




「なぜそう思う?」




「魔族は基本一体で行動しますが、非常に強力な相手です。それに魔法を持っている可能性だってある。命は大切にしたほうがいいですよ。」




ヴァンの言葉は、具体的で信頼性がある。




「君は冒険者か?」




「一応、そうですね。ですが、僕の専門は別にあります。」




彼は少し微笑んだ。




「忠告です。もし受けるのでしたら、十分に準備をしてから向かってください。」




そう言うと、ヴァンは去っていった。




「あの人……」




リリーが呟いた。




「何か知ってるのか?」




「いいえ。初めて見ました。ですが、感じます。あの人も、何か背負っている気がして。」




俺は手に持った依頼書を見直した。ヴァンの忠告は、無視できない。だが、魔族討伐というのは、俺の目的そのものだ。




「どうしますか?」




リリーが訊いた。




「受ける。」




俺は迷わず答えた。




「だが、準備をしよう。魔族が魔法を持っているなら、それに対応した魔術の組み合わせを考える必要がある。」




「わかりました。」




リリーが頷いた。




「では、準備の為に一度家に戻りましょう。あと、必要な道具があれば、街で購入する必要があります。」




「金は大丈夫なのか?」




「はい。」




リリーが軽く返す。彼女は元々、魔道具技師として稼いでいたのだ。金銭的には困っていないはずだ。




その時、俺は気づいた。ここに来てまだ二日。こんなに簡単に魔族の討伐依頼を受けていいのか。だが、この先、俺がやる事は決まっている。魔族を全て殺す。その為には、一日も早く動く必要がある。




「では、準備を整えよう。」




俺は依頼書をしっかりと握りしめた。




その時、ギルドの中を見つめると、さっきのギルド長が、俺を見つめていた。その黒い瞳は、何かを示唆しているようだった。




彼女が、何を思っているのか。それはまだ、わからない。




だが、俺は進むしかない。




前へ。




ただ前へ。

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