第97話 麗美と浸食
「どうして記憶があるんだ」
「私はずっと人格の板挟みをしていた」
「まさか麗美には3つの人格があるのか……」
「私はこれが使命なの。あなたの知ってる普通の麗美を保持するために、その麗美が生み出した攻撃的一面が肥大化した存在、私はずっとスキルの浸食と戦っていた。でももう浸食される。だからせめて私にもあなたの声を聞かせて欲しい」
「なんで……」
「分かってる。私はあなたの好きな麗美じゃない。でもスキルの麗美でもない。だから私は辛かった。私はあなたに見てもらえることはない。でもそれでいいの。私の使命はあなたの好きな麗美を邪悪なスキルから守る存在だから」
「ずっと麗美を守ってくれていたのか。ちょっとくらい相談してくれればよかったのに」
「私は頑張らないといけないの。あなたの前に普通の麗美を魅せるために、どんなにあなたが好きでも今の私は麗美じゃない。彼女の攻撃的な一面で第三の人格なんだ」
「そんなことあるかよ! 俺がお前の気持ちを感じ取る」
俺はレベル100スキル『マインド』で目の前の麗美の人格の深層心理をよんだ。
これは麗美の三つ目の人格の記憶。
第三の人格が生まれたきっかけは表の麗美を維持するのが不可能なほど、声がいつも聞こえるようになってきたころだ。
破壊衝動と、凶悪な捕食者の人格、それを拒みつつ表の麗美を保つ役割、それこそ三つ目の人格である麗美の役割。
そのままの人格の中間点、双方の記憶を持っている由愛が傍にいる時に目覚める人格である。彼女はずっとスキルの麗美の邪悪な声にさらされていた。でもそれはこの3つ目の人格の強固の精神のおかげで心は均衡を取り戻していったんだ。
これがスキルの麗美が言ってた、精神の支配権のイーブン。全ては3つ目の麗美のおかげ。
俺はこの麗美は一番、この非日常の局面で話が分かる人物だと確信した。でもなんでいきなり均衡が崩れ去った? 精神の支配権はイーブンじゃなかったのか。そんな麗美が俺に助けを求めるなんて、いったい何があったんだ。
「辛かっただろ? 俺に何があったか聞かせてくれないか?」
「板挟みにずっとさらされるの。私はずっと普通の私が狂った私の人格に飲まれないようにバランスを保っていた。でもそれをする度に精神がすり減るの辛いの、発狂したくなる。この瞬間にも浸食がはじまる、はあ、はあ、はあ」
「落ち着け、心を落ち着かせれば大丈夫だ」
「助けて春樹君」
麗美は俺に泣きながらさらに強く抱き着いてきた。それを受け止めた。
「大丈夫だ、気をしっかりもつんだ。もう戦いは終わったはずだ。日常はすぐそこにある」
「私はずっと戦っている。全部終わった時に、春樹君の前に普通の私を保つために、絶対私は狂った人格に飲まれないようにする」
「麗美……」
麗美は過呼吸になっていた。
この時俺は麗美が、自分の元から消えていくのではないだろうかと感じてしまった。
中学時代のあの恐怖がフラッシュバックした。
―
麗美、いやだ俺はずっと彼女と一緒にいたい。
中学時代は視野が狭かった。ただでさえ学校という閉鎖された環境に身を置かれていたから、柔軟な発想が出来ない。別に高校生になっても放課後に麗美とあえばいいだけの話である。
だけど果たしてそうなるか? 違う学校になったら確実に疎遠になるし、そもそも俺は麗美に釣り合う頭を持っていない。じゃあ絶対麗美に俺は見放されるに決まってるし、俺と一緒にいると、麗美にとって悪影響なんじゃないか。
非情な現実を突きつけられた中学の進学が決定する時期の期間、次から次と俺の頭の中を悪い想像がよぎっていった。
なんでこんなことになったんだろう。そもそもこの世界は理不尽ではないか。なんで俺と麗美の中を引き裂くようなことをするんだよ。
麗美は俺を拒むのか? それを受け入れる俺は無力だし、いやになる。麗美の傍にいても俺は無力だし卑しい存在に感じる。もう麗美に会いたくない。
―
今思えばその時、麗美は部屋で泣いていたのであろう。そこをαに利用されたんだ。
高校になった俺は、麗美と再会した。その表情は今思えば中学時代より格段に大人びていて、何か別の人格とも言えただろう。
捕食者のスキルに人格の7割を奪われそうになっていた、今目の前にいる中間の麗美。表では分からなかったけど、ずっと彼女は狂気の人格と戦っていたんだ。
「春樹君、もう私はだめかもしれない。板挟みの中で急激にスキルの人格の力がなぜか急に強まった。次期に私は人格を乗っ取られる。そしたら浸食が始まりみんなの知っている麗美はこの世界から消える」
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