第78話 傀儡
「いや、それでも賞賛に値するよ。私は彼女に魔法陣とプログラムの構造が非常に似ていることは話していた。あの時代ではまだ実験段階だったけど、いずれ彼女は私の魔法に匹敵するプログラムを創り出すと宣言していた。まさにそれが実現した証明といえるだろう」
「やっぱり穂美香は凄かったのか」
「彼女が生きていたら、この戦いも更に楽なものになっただろうね」
「穂美香様は偉大でしたね。私では話になりません。しかし私は全力を出すまでです」
魔法陣が瘴気を押し出し続けて、それがΩの神器の転生体の元に届きそうになっていた。
「ちょっと、これ私たちの出番いらなかったんじゃないの?」
「確かに、私達今のところみているだけだよね」
「それには同意しかないわね」
今の状況として、俺たちはみんな後衛である。
俺と麗美の能力はクロスの紋章が由愛に刻まれたことで由愛の能力が無効化され使うことが出来ない。同時に里音先輩が美織を使っても元の由愛の能力が無効化されているから意味がない。夏菜の応援効果も俺が前衛にいないと意味がない。だからみんな後衛に回っている。
後衛には他にも羅琉がいる。羅琉はライズNo1として、ライズのメンバーと遠隔でやり取りをしている。これによって神八聖の魔法陣の強度と出力維持をしている。そして前衛には神八聖と美織がいる。美織がいるから神八聖、つまりライズは魔法を使うことができる。美織はβの神器の転生体であり、接続の力で能力の共有ができるからだ。
「このまま魔法陣があいつの元に到達するとどうなるんですか?」
「あいつは魔法陣に圧迫されて致命的なダメージを追うことになるね」
「やっぱり俺たちの役割はないじゃないですか」
「それはどうかな? この状況がずっと続くとは思えないけど」
「え?」
次の瞬間瘴気が消え去った。Ωの神器の転生体は構えを変えた。拡大の力を持つはずが、瘴気がどんどん転生体に引き寄せられている気がするんだけど。
「これはもしかして、前回の戦いから学んだな」
「どういうこと?」
「拡大をする度にこちらの魔法陣は収縮の力をより強い出力で行う。ただそれは拡大をすればの話だ。それにこの工程を行う場合、拡大したと反応するまで感覚のリンクを魔法陣と私で行っている。その感知速度にはタイムラグが生じる。もし収縮から急速な勢いをつけた拡大がその感知速度を超えたなら?」
「瘴気が魔法陣を破壊する!」
「そろそろクロスが解けるころだ、由愛へは特殊な体制を施しておいたからもうスキルを無効化される心配はないだろう。私は一時離脱をさせてもらうよ。君たちを呼んでおいて本当によかった」
「ライズ様、来ます」
「終わりだ、侵入者よ」
「ドドドドドドド」
急速に収縮から拡大したΩの神器の瘴気は神八聖が作り出した魔法陣を破壊して一瞬で俺たちの元に到達した。
「あ、危なかった。みんなをガードするので精いっぱいだった」
俺は瘴気をレベル100スキルのシールドによってはじくことに成功した。
しかしあまりにも早い瘴気の拡大には、あらかじめ神八聖と話していて予期していなければ間に合わなかったと思う。
実際にシールドを展開できたのは俺とその周囲にいた夏菜、麗美、由愛、里音先輩の5人だけであった。
「神八聖さんと羅琉さんと美織さんは離脱しちゃったわね」
俺たちがここに来るまでの間に、神八聖によってルールの魔法が適用された。それはHPが0に近づくと強制的に自宅に送還されるというものだった。
「これは俺たちにかかってるみたいだな」
「しねええ!」
再び収縮からの拡大の超高速の瘴気を俺たちにぶつけてきた。
「まずいこの速さは間に合わない」
俺は由愛を優先して守ることしかできなかった。
これはまずいみんなが消えちゃう?
煙が舞う中で、俺は三人の安否を心配した。
「ふーん、面白くなってきたじゃない」
「麗美?」
麗美の瞳が赤みを帯びていた。捕食者のスキル発動である。
周囲に帯びた影が瘴気をはじいていた。これにより里音先輩と夏菜も無事だった。
「あああ! そっちの麗美もいたのね。私まだ許してないからね」
「あら夏菜ちゃん、久しぶりね。後でゆっくりとあなたの話を聞いてあげるわよ」
「ふん、面白いことを言ってくれるわね」
「ありがとう麗美さん」
「俺からもお礼を言っておくぜ」
「ふん、次がくるわよ」
「しねえええ!」
再びΩの神器の転生体が瘴気を出してきた。
「なんだかワンパターンよね」
「でもわかっていても対処が難しい速度だ」
神器の収縮からの拡大により生まれる瘴気は速度をどんどん増していった。
出力自体は大したことがないが、スキル発動までの速度が圧倒的に向こうの方が早くて厳しいところである。
常に影を展開している麗美の方が防御は上のようだ。
「あら? 春樹君の意外な弱点が見れちゃったわね。スキル発動前の超速攻撃だと防戦一方になっちゃうの?」
「うるさいな。今様子を見ているだけだよ」
「そう、それじゃあ私が先に動いてあげる」
スキルの麗美は、地面に忍ばせていた影をΩの神器の元に送った。
「消えちゃえ」
足元から影を接触させようとしたが、これはΩの神器によけられた。
「もーう、あと少しだったのに」
「そんな遅い攻撃が当たるわけないだろ」
「だそうだ」
「へえ、じゃあ被弾するのは恐れているってこと?」
「は? 別に陰に触れたところでどうにでもなるわけないだろ? 試しに触れてやろうか?」
「ほら来た、じゃあ、試しに当たってみてね」
よし、うまく誘導に成功した。あいつは麗美の影の能力を知らないんだろうな。それゆえの油断が命取りとなった。
「こいよ!」
「はい終わり」
Ωの神器は麗美の影に触れたことによってHPが0になった。
「ふう、これで終わりね」
「まって、まだ油断はよくないわ」
念のため転生体の体を調べてみた。
「これって人なの? 傀儡のようにみえるけど」
「それにΩが作り出したゲームの空間がまだ消えてないわ。この空間はいつまで続いてるのかしら?」
普通使用者が倒れると、その人が作り出した空間は消えるものだ。それなのに空間が残り続けているというのはどう考えてもおかしい。
「久々に来た」
「どうした由愛?」




