第76話 危険区域
「Ωの神器は四つの中で最も強大な力を持っているんだよ。もし対峙したら、険しい戦いになるだろうね」
「それ春樹の前で言ってるのかしら?」
「彼女は?」
「夏菜です。俺と内村礼と一緒に戦ってくれた子です」
「ふーん」
「何よ」
「いや、特に能力はないけど、その強気な姿勢は大事だなと思っただけ。参考にさせてもらうよ」
「そ、そう」
「それで? こんなにガチガチのルールでいきなり縛っておいて、私達は信用されてないのかしら?」
「里音ちゃん、それは違う予感が私はしているわ」
「そうなの?」
「信用してないわけないじゃない。そもそもこの程度の付与効果は彼のレベル100スキルで解除できるだろ?」
「ええ、まあそうですね」
「ここで大事になるのは保証だよ。君たちの布陣は主力の春樹君をサポートする布陣になってる。能力発動の由愛さん、スキル持ちの麗美さん、美織の力を使える里音さん、精神サポートの夏菜、布陣を維持するための保険を守るためさ」
「私精神サポーターだったの?」
「うん、実際前の戦いではかなり助けられたぜ夏菜」
「それはよかった」
「今回のΩは範囲攻撃をたくさん使ってくるはずだからね。非戦闘能力の人も被害を受ける可能性が高い。そのための保険というわけさ。HPが0になりそうだったら自宅に強制送還されるけど、文句言わないでね」
みんな納得したようだった。
「それじゃあさっそく行こうか」
森林の中の空気は重く淀んでいた。
「なんでこんなに空気が重たいの? 息苦しくて倒れそう」
「よどみの森、私が観測した場所では、ここでΩの神器が人として転生した」
「なんでこんな森に棲んでるの。随分と野性的なのね」
「βだった美織さんは見事に人の生活に順応しているのにはこれは不思議よね」
「流石私たちのβの力をもった美織ちゃんよね。他の神器とはモノが違うわ」
「当然だわ、いつも一緒にいたもの」
由愛と里音先輩は美織に絡んだ。この3人はβプログラムでの深い関係がある。絶対いい関係になるはずだ。
「あ、あの、すいません。私はよく2人のことを知らなくて」
「いいの別に、私と里音ちゃんはβプログラムと対話をしたことがあるの。だからβが出した答えが美織ちゃんというのはとてもいい選択だと思うわ」
「確かβは全てをやり直して多くの人に自分の意思を伝えたいと言っていたわよね。見事に美織さんはその通りになったといえるわ」
「なるほど……でも神器が何を考えていたか、本当に私はよくわかってないのです」
「ふむ、話を聞くに2人は、美織の生みの親ともいえる存在だな。私も自分の元に現れたβが自らの記憶を消し去り美織に転生した時は驚いた。改めて知能の高い存在として私を楽しませてくれたと言える」
「どういうこと?」
「里音ちゃんは聞くのが初めてだったね。いわゆる無知ってやつ」
「なんのことか教えなさいよ」
「知りたい? 知りたい?」
「……」
「そうか里音先輩はあの場にいなかったんだよな」
「ちょっとちょっと、アンタたち何のこと話してるのかさっぱりだわ」
「そりゃあ里音ちゃん以上に夏菜ちゃんなんてなんも知らないもんね」
「ちょっと里音先輩このガキムカつくんで一緒に締めない?」
「いい提案ね。吊るしてHPを0にして自宅に強制送還させましょう」
「ちょっと、ちょっと、由愛がいなくなったら俺と麗美が能力使えなくなるだろ」
「私と美織さんがいるじゃない。由愛が自宅に戻っても問題ないわ」
「ええ……」
この人本気でやる顔してるよ。
「うーんでも私達と里音さんと夏菜ちゃんじゃ確かに知識がだいぶ差がついたよね。この差を何か一瞬で埋めたいところだわ」
麗美のつぶやきに俺はいいアイディアを思いついた。
「そうか、じゃあ私に任せてくれ」
「俺に任せてくれ」
神八聖と俺のセリフが被った。
「どうぞ」
「いや、こちらこそどうぞ」
「はあ、じゃあ、どっちのやり方がいいか比べましょうか」
「いいね。私は魔法の『記憶共有』を使って、今まで伝えた私の情報を、新しく入った里音さん、そして夏菜さんに一瞬で共有させることが出来る」
「ほーう、中々面白そうな魔法ですね。じゃあ次は俺のやり方を紹介します。レベル100スキル、『記憶共有』を使って、俺が持っている秘伝書と美織についての情報を夏菜と里音先輩に共有します」
「2人とも同じじゃないの!」
「ふーん、君はこの大陸トップで双璧を成したライズと張り合おうというのかい?」
「いや別にそういうわけじゃないですけど、普段からこういう最強スキルで問題解決担当は俺がやってるんで、役割取られた感じがするんですよ」
「もーう、張り合ってなくていいから早くやってよ」
「じゃあ、速度勝負と行こうか」
「望むところです」
「記憶共有」
俺のレベル100と神八聖の魔法が同時に発動した。
「す、凄い、情報がどんどん入っていく」
「美織さん、あなたはやっぱり、そういうことだったのね」
「それで、これどっちの能力が適応されたの?」
「うーん? 分からんでも俺じゃない」
「私もさっぱりだ。でもおそらく私だろう」
「同時に競った意味ないじゃん!」
麗美のツッコミによりこの件は終わった。
「2人は私にとってそんなに深い関係にあったなんて」
「まあでも気にしなくていいさ美織、神器は君に自由を示した。だから記憶を消したんだし、関係に縛られる必要はない」
「まあそれはそうよね」
「でも何か困ったことがあったら私達に相談しなさい。力になるから」
「分かりました」
森の瘴気が濃くなってくる。ここから先は更なる危険区域のようである。
「みんなそろそろΩの神器の転生体があらわれるそうだよ。気を引き締めてくれ」




