第66話 能力をもつものと持たざる者
「とにかく私は現在教師の立場だからね。多くはここでは語るまい。ただ君たちのことは見張らせてもらうよ。いざというときに力を使えなければ意味がないからね」
「確かに大分事情は把握できましたけど、能力を引き出すまでにはいきませんね。詳しくは麗美と由愛を連れてあなたの自宅で聞かせてもらいます」
「ふん、能力を引き出す方法がわかったら私も苦労はしないさ。とにかく私がこの学校でできるサポートはここまでかな。後はコミュニケーションを頑張ってくれ、続きは私の自宅に来たら話してあげよう」
「待ってください! 私はいったい何者なのでしょうか。なんでお二方は私の知りえない私のことを話しているのでしょうか」
「さて、君のことかな? いずれにしてもそこの彼とのコミュニケーションをとればその答えが時期に分かるさ」
神八聖はその場を立ち去った。
「春樹様と話せば、私についての情報が分かるのですね」
「はあ、別に話しても分かる気がしないんだけど」
「私、春樹様と一緒に帰ります」
「は、え? どうしてそうなる?」
「もっと私は自分のことが知りたいんです」
美織は俺の手をとって、じっと顔を見つめてきた。
「いやあ、一緒に帰るのは確かにいいけど、自宅までにしてよ?」
「勿論です! 私はご迷惑をおかけします」
これはまた騒がしくなりそうだ。
放課後、俺は美織と一緒に帰ることとなった。
「あ、里音先輩」
美織と一緒に帰っていると、俺は里音先輩と鉢合わせた。
「春樹、その子は誰?」
「この子は転校生の美織ですよ」
「そう」
「え? それしか聞かないんですか?」
「言ったでしょ。私が関与する必要はもうそんなにないの」
「里音先輩! そのいい方はどうなんですか? 俺たちはプログラムウイルスを巡って一緒に戦った仲じゃないですか」
「それはもう済んだ話でしょ。私にはもう関係ない」
俺たちのやり取りを美織は不思議そうに見ていた。
「初めまして、私は美織といいます。今は自分についての理解を深めるために、春樹様の傍にいます。よろしくお願いします!」
「美織さん……あなたは」
なんだろう、美織さんはβが人になった姿、差し伸べられた手を見て里音先輩は何か動揺している表情を感じた。
「里音先輩気づきました?」
「いえ? 何も」
「え?」
「美織さん、悪いけど、私はあなたの力になれる立派な存在じゃないわ。その手を取ることはできない。ごめんなさいね」
「ちょっと! 待ってくださいよ」
里音先輩は美織さんの手を取らずに、遠くへ走って行ってしまった。
「春樹様、あの方は……」
「どうしたの美織さん? 何か感じた?」
「いえ、ただなんとなく、なじみ深い感じがしたんです。凄く親しみやすいといいますか。体中が私にとって大切な存在な感覚がしました。春樹様、あの方は一体何者なのでしょうか?」
「……多分、美織さんの感じたことは当たっているよ」
里音先輩は長い間βの適合者だった。だから美織さんの感じた感覚はその通りで、本当に美織さんはβの神器から生まれた存在なんだ。
でも今里音先輩本人は普通の一般人であることを望んでいる。下手なことを言って巻き込むわけにはいかない。
「どういうことですか?」
「ごめん美織さん、詳細は話せない。代わりにだけど、うちに来てよ。君に会わせたい人がいる」
「分かりました」
俺はもう一人のβ適合者であり、全てを知っている由愛に合わせようと決めた。
ー
「里音先輩お邪魔します! お土産持ってきたわよ。どうして泣いているの?」
「夏菜さん? やめてみないでよ」
夏菜は優戸と旅行に行っていた。
だからここ数日の出来事を何も知らなかった。
「春樹はどうしたの?」
「私の家にはいないわよ。麗美も由愛もみんな春樹の家にいる」
「何それ感じ悪い! そんなの里音先輩が蚊帳の外じゃない」
「いいの夏菜さん、私は能力がないから」
「そんなの麗美もそうでしょ?」
「麗美さんは能力があったようだわ。由愛の傍にいると力を発揮できるみたい」
「そうだったの」
「今あの3人は新しい脅威の対処に動いているわ。だから私は邪魔をしないようにしてるのよ」
「邪魔なんて思ってるわけないでしょ?」
「でも実際、戦闘が起きたら私は何もできない足手まといになる」
「そんなの関係ないわ。ちょっと春樹のとこ行って文句言ってくる」
「やめてちょうだい」
「……」
「ごめんなさい、今はそうっとしておいて欲しいの」
「春樹はまた戦ってるのね……」
「ええ、そうね」
「私には優戸が戻ってきたわ。春樹には感謝しているよ。だけど今の私には戦う理由がないの」
能力を持つものと持たないものに情報格差が生まれ始める。




