第十六話 流星群
「メーガスが死んだ……そんな……」
夜営地で、その速報を受け取ったブレイブは、その場で膝から崩れ落ちた。
そうして、毎度の事になるチーム内の混乱を処理する元気はなかった。
「少し一人にしてくれ」
そう言って、人を避けて森の奥、木の幹に寄り掛かって項垂れる。
今度もダメだった。結局、彼は言う事を聞く人間ではなかった。
憔悴しきった様子で、空を見上げる。
もう一度、やるのか……次はどうする?変えられない未来に絶望が湧き上がる。
いっそう、一番最初に戻るべきか、あの出会いから「無かったこと」にするべきなのか。
彼を無視して、追い出すように冷たく言い放てばいい。
しかし、ブレイブの脳裏に蘇る。
『お前がブレイブと名乗るなら、僕はメーガスだ。この世界で最強の魔術師であり、この名を名乗るに相応しい人間は、この僕を置いて他に居ないからな』
あの時の高揚、この不遜で性格の悪い、けれど心躍る男なら、未来を変えてくれるかもしれない。そんな期待。
それが全て失われてから、もう一度始まる旅に、果たして自分は耐えられるだろうか?
誰も自分を「勇者」以外の誰としても覚えていない世界を守って、死んでいく時間に正気を保っていられるのだろうか?
『そしたら僕とお前、二人だけで魔王を倒しに行って、二人でカッコよく凱旋する。問題あるか?相棒』
あの言葉が、どれだけ嬉しかったのか、きっと誰にもわからない。
誰にも戻ってくる事を望まれてなかった。
魔王を封印する事以外、何も、言われた事がなかった。後悔や未練が、心の隙を作るから。
皆そんな事は承知していた。
なのに、彼は言ったのだ。
傲慢で、不遜で、眩しいぐらい自信に満ち溢れた声。
一緒に生きて戻りたかった。
叶わない、望みではあるけれど。
暗澹とした心持ちで、剣を構える。
それでも、彼が死んだ世界を救うよりはマシだ。
肋骨に切っ先を添わせる、この位置。もう何度、そこをなぞったか覚えていない。
「メーガス……」
もう一度、会いに行こう、そうして、その先で君をもう二度と選ばない。
空を見上げて、覚悟を決め、剣を下ろそうとした、その時だった。
暗闇を映していた、瞳に光りが散らばる。
「あれは……」
思わず剣を投げ出して、走り出す。
光りが落ちてきた方向に、良く見えるように高台へと駆け出す。
呆けたように、モンクが空を見上げて呟いた。
「花火……?」
ドラグーンが、落ちていく火花に眉をしかめる。
「にしては、火花が落ちて、不恰好ですが」
王都で見た祝祭の花火に比べてそれは、空に花を咲かせるのが目的というより、まるで火花を落とすために打ち上げられたようだった。
テイマーが「ストレ〜ンジ!」と不思議がる。
「魔物の攻撃か、失敗した魔法か……オルディナーブの外れっぽいけど〜?」
新しく迎え入れられた魔術師は、静かに観察して首を横にふる。
「オルディナーブの防衛であれば、あの程度の攻撃、影響はありません。先に進んで問題ないかと……」
「流星群だ」
遮るように呟かれた、ブレイブの言葉にテイマーが首を傾げる。
「流星群は星が落ちてくる現象の名前だよ〜?アレは違うと思うけど」
モンクが「にしても綺麗ではありますな」と言いながら、横のブレイブを見て、ギョッとする。
「ブレイブ……どうした!なぜ泣いている」
空を見上げた瞳から、まるで空に落ちていく火花のように、涙が流れ落ちていた。
オルディナーブの外れで上げられた、二人にだけ分かる、その光の意味。
「生きてる……」
思わず呟いて笑う。
そうだった、いつだって君は大きな流れを変えようとする。
そういう人だった。
まだ、この世界で君は生きている。
俺は、勇者で終わらない可能性を残している。
そう希望を託す流れ星を見せるように、その光りは何度も、何度も打ち上げられた。




