第十五話 都合の良い死
さてここからは想像だが、彼らがちゃんと金を用意するなんて事は有り得ない。
それぐらい僕だってわかってる。
まずは支部長が詰め寄られるだろう。
「どうするんだ!」
なにせ、魔術の事は素人な政治屋の連中だ、わかんないくせにえばりちらして、責任を押しつける事だけは得意なんだ。
弱りきった支部長にできる提案は、コレしか無い。
「待の防衛機構を使って、彼を撃ちます。さすがの彼でも防ぎきれ無いはずです」
そう、龍すら貫く防衛機構の放射。都市の機能を一時的にダウンさせて、その全てに使用している強力な魔生石のパワーを一点集中で僕に浴びせる。
「殺そう、そうだ、殺すしかない!」
「あんな化け物は生かしてはいけない、魔王と同じだ」
そう騒ぎ立てる、人々を横目に支部長は追い詰められる。選択肢は他にない。
そして、数時間後、彼は浮遊魔法を使って空の上に浮かび上がり、補佐官をぶら下げた化け物に迫るわけだ。
「今、約束のものを渡すから、人質の彼を」
僕の爪に染み込ませていたネイルの痺れで身動きがとれなくなっている補佐官に手を伸ばすだろう。
約束のもの、と言ったけど、多分馬鹿げた大きな袋の中には金は入ってない、ダミーの何かが詰まってるんだろう。
勲章がたくさん入ったローブを揺らして、そいつを寄越せとばかりに腕をブラブラさせるので、支部長は投げる。
それと同時に補佐官の拘束が外れて、落下。
支部長はそれを受け止めて、生きて寝ているだけだと気がついて、心底ホッとしながら、その地点から離れる。
そうして唱えるのだ。
「縫止めよ」
多分、そんな感じの古典的な詠唱だろう。支部長って、あんまり遊びがないタイプだし、安定して使えるやつばっか教えてるし使ってそう。
「おい、どうなってる!?」
「わからんが、磔にされてる!今ならいける!」
うつむいたまま、両手を広げて罪人のように貼り付けにされて、さぞ勲章も悲しい気持ちになったんじゃないだろうか。
「今だ!」
「やれ!」
そんな汚い応援の声を受けて、支部長は詠唱するだろう。
「稲妻よ 轟け 汝の敵を貫き給え」
街は一時的に全ての明かりが消えるが、まぁ夜明け前の深夜だから、気づく人間は少ないだろう。
何人かは気づいても、気にもとめない。
朝焼けの方向に飛んでいった強烈な光線に「ああ、きっとモンスターか何かを退治したのだろう」と防衛機構が働いた理由に想像も巡らせない。
まぁ、これからはもっと発動する機会が増えるし、仕方ない。今から慣れないと、魔王軍の進軍になんて耐えられない。
そうして、光線が立ち消えた後、無になった空間を見て彼らは叫ぶのだ。
「やった……」
「やったぞ!」
「力を合わせれば、我々人間でも、あの強力な魔術師を倒せるのだ」
一つの化け物を倒したみたいに、連帯感に酔いながら、肩を叩きあって喜び、抱きしめ合う。
おっさんたちのソレは醜悪で絵面も酷いのだろう。
「君は良い兵器を開発した、国に持ち帰って評定をもらう」
「もっと誇らしげに笑っていいんだぞ、支部長」
そんな風に、褒められても支部長は疲れ切った様子で、補佐官を抱きとめて曖昧に笑うことしかできない。
「とんでもない……ただ、やるべきことをやっただけなので」
そうして、これ以上、巻き込まれないよう。自分の引き際を理解した彼はこう言ったのだろう。
「疲れました……私は引退します」
さて、これぐらいの事件が起きると数日とかけずに勇者の一行にも連絡が行く。
伝書使い魔が、交代で飛んで、飛んで、そうして二日後ぐらいの夜中にブレイブに速報を届けるだろう。
支部長の引退の情報と共に。




