065 旅の記憶[11]
盗賊かと身構えた相手は、どうやら馬主であるポールの知り合いだったようだ。
安心したのか、二人は久々にあった旧友との再会を喜び、世間話を始めた。
「誰かと思えばマモンさんじゃないですか! お久しぶりです!」
「お前どうしたんだこんな所で。盗賊の話は聞いてないのか?」
「色々ありまして……。今は商人やってるんで、セルバ村へ行商に行く所なんですよ」
「ほう、お前も冒険者辞めちまったのか……。寂しくなるなぁ」
「いや、籍は置いてるんで辞めてはないんですけどね」
「おっと、その話は後だ。こっちの仕事させてもらおうか。そっちの二人は護衛か?」
「えぇ。二人は魔術師でして、セルバ村に行くらしいので付いてもらったんですよ」
「そうか、ポールが世話になった。私は冒険者のマモンだ。よろしく頼む」
「はい、こちらこそ」
無精ひげを生やしたがっしりとした男は、丁寧に自己紹介したのち、嵌めていたグローブを外し握手を求めた。その手を取り挨拶を返し、私は疑問を投げかける。
「ポールさんとはお知り合いなんですね。盗賊の話もあったので心配していたんです。
冒険者ギルドの方と聞いて安心しました。もしかして討伐依頼があったんですか?」
「いや、依頼ではないんだがな。その盗賊の件もあって警備に回っているんだ」
「警備……、ですか」
「あぁ。依頼がなきゃ討伐はできんが、そのくらいはしようって事でな」
「え? マモンさん暇なの?」
「暇も暇、超暇だ。なんたって盗賊の話のせいで人が来ねぇ。おかげで護衛依頼もねぇ。
だからこうやってボランティア活動に精を出してんだよ」
「へぇ……。んで助けた相手から駄賃を貰うと?」
「んなもんで食っていけねえよ。まーちょいと狩りして食うモンは確保するがな」
ガハハと笑うが、話を聞く限りやはり冒険者はどことも生活が苦しそうだ。
冒険者とは、魔族の活動が穏やかなこの時代を素直に喜べない人達なのだ。
「ま、そういう事もあってだな、盗賊どもと繋がってる奴等をしょっぴくのに商人を検査してんだ。
悪いが荷物の中身確認させてもらうぞ?」
「えぇ、どうぞ。箱に正規ルートの証明書も付いてますよ」
「相変わらずバカまじめな奴だ。おかげで確認も楽だがな」
「ははは、心配症なもんで。俺は立ち会いするから、その間二人は休んでてくれ」
そう言い残し、ボールとマモン達は荷台へと向かう。
休んでてくれと言われても、私達はずっと何もしていない気がするが、首を突っ込んでも邪魔するだけだ。お言葉に甘えさせてもらおう。
「ハロン、にんじんととうもろこし、どっちがいい?」
「……」
「そうかそうか、にんじんがいいか。
ハロンはにんじんが好きなんだね〜」
お気楽な言葉とともに、ミズキは両手に持ったエサを選ばせていた。この馬は本当に大人しく、手に持つ好物さえも奪い取ろうとせず、静かに鼻をつんつんと当てて右手に持ったにんじんを催促したのだった。
「馬なんだから、にんじんが好きなのは普通じゃないの?」
「そうでもないよ? 果物も好きだし、とうもろこしも甘いから好きな子は多いよ?」
「へぇ、馬好きは馬の好物にも詳しいのね」
「好きなのは馬だけじゃないけどね。
あ、汗かいてるし塩分も取らせないとね」
ここまでの間彼が座っていた木箱には、馬の餌と共に岩塩も入っていた。それを取り出し、鼻先まで持っていってやれば、ハロンはべろべろと長い舌で舐める。
「本当に好きなのね。大人しい子だけど、普通はもっと怖がるものよ」
「んー……。動物ってさ、怖がってるってのを感じ取るんだよね。だからふりだけでも怖がっちゃいけないんだよ」
「へぇ、そんなもんなの。ところで、馬以外も大丈夫かしら?」
「へ? まぁ大抵の動物は大丈夫だけど?」
「犬も?」
「うん、平気。アレルギーもないし」
「そう、良かったわ」
「え? それだけ?」
「えぇ、それだけよ」
「何かあるよね?」
「そうね。それは後でのお楽しみよ」
「なんだよー、気になるじゃんか」
「ふふっ、秘密よ」
私の意味ありげな言葉に、彼は顔を覗き込み何を考えているのか探るように見つめてくる。
なんだか妙に気恥ずかしくなってふいと顔を背ければ、さすがに諦めたようだ。
「まぁいっか。んー、楽しみだねぇ!」
「本当に楽しそうね」
「もちろん! 君は楽しみじゃないの?」
「答えを知っているクイズなんて楽しいかしら?」
「ん? あぁ、さっきの話とは別。
君はこの旅自体が楽しくないのかなって」
「……」
思いもよらない言葉だった。旅が楽しい?
私にとってこの旅は強くなるための、いわば修行の旅だ。世界を知り、己の力の使い方を知る。そして、いずれ倒すべき敵と対峙するための力を得るための旅。
そんな考えで始めた旅だった。だから楽しいとか、そんな気持ちが湧く前に、楽しいものになるという想定すらしていなかった。
「そうね、楽しみよ」
その言葉に嘘はない。けれど、本当に楽しいものにできるとは、どうしても信じられなかった。
「おーい! 二人とも、そろそろ出発するぞー」
モヤモヤした居心地の悪さの中、ポールの声が耳に届く。ただ今は何も考えず進むしかない。
この先に、求めるものがあると信じて。
次回は6/19(金)更新予定です。




