流氷5
人類の生存は確認された。
殺し合ったが、生かし合うこともあったのだ。
玉髄やマリアたちが地上に戻る。
その頃には、吹雪はもうなかった。疑似太陽が誇らしげに輝いている。その光を、積もった雪が反射する。眩しいことが分かる。だが、眩しさを感じる者はいない。
ルイがマリアに問いかける。
「で、どうするつもりだ?」
マリアは沈黙する。
横から玉髄が答える。
「思うに、僕らは償うべきだろう。この場合の償いというのは――自己満足や慰めのこと。三賢者が受けた罰は南極送りだったんだよね」
「ええ、そうよ」
マリアは肯定する。もう玉髄が何を言いたいのかは分かっている。本当はずっと前から分かっていた。あまりに優しく、それゆえに恐れた。
言葉の続きをじっと待つ。。
「でも今や南極こそが安息の地になってる」
「――まさか」
ルイが驚きの声を上げ、ケントは話しの流れを掴みかね、柘榴はしかめっ面になり、不撓は豪快に笑い、瑠璃は少し微笑んだ。
「流刑だ。僕らは外に行く」
外の人に会いに行こう。
彼らの助けにもなろう。
よき隣人として、肉の手と、鉄の手で握手をしよう。
「マリアは、それでいい?」
「――いいわよ。仕方ないから一緒にいてあげる」
「ありがとう」
二人は笑い合う。
が、そうもいかない者もいる。
「待った」
をかけたのはルイである。どう考えても話が性急すぎる。
殺人や騒動などを罪に問うというのであれば、まず法を定めなければならない。その後、それぞれの行動を振りかえり、罪と罰について検討する。それが文明人というものだ。
「罪というのはまずもって法がなくては成り立たないだろう」
「真面目すぎるな、お前……」
不撓は呆れてしまった。そもそも無法なのが南極都市である。明文化されたルールもあるにはあるが、集団ごとのものだ。都市としての法はない。
それでも最低限やってきたのだ。
「今さらだろ」
「なら聞くが、どうやって南極の外に行くつもりかな」
ルイの指摘はもっともだ。当初の計画では「船」を奪う算段だった。しかし南極都市の監視船はとっくの昔に沈んでいるだろう。
南極からの移動手段がない。
「玉髄さんのシールド? を足場にすればいいんじゃないですか?」
なんとなしに蛍が呟いた。
「その上に車走らせたら行けるだろうなぁ」
と言ったのは鷹目である。
「待った」
ルイはあくまでも否定する。
「危険すぎるだろう。玉髄に何かあったら終わりだ」
この場合、全員が海に沈むことになる。サイボーグは浮かない。防水性はもちろんあるが、水泳の経験がない。
「な、な、なら船を造れば?」
「誰にそんな知識が……」
ケントは自分を指さしている。
「造れるのか?」
「う、う、うん」
「人手がないだろう」
「単純作業なら「軍」の連中でもできるさ。つーか実弾銃とか造ってるしな。あとあれ、間に合わなかったけど戦車の開発計画も――」
「戦車?」
ルイはもしも生身だったら青筋を浮かべていただろう。それほどの怒りだった。
「これだから人間は」
「ま、でも滅んでなかったろう」
不撓がにやりと笑った。ルイは上唇を噛みながら唸る。
「細かいところはおいおい詰めていけばいいさ。そうだろう、探偵どの」
マリアは頷く。
「どうにでもなるわ――協力してくれるならね」
かくして、造船計画が始まるのだった。




