vingt et un
六月の初め、結婚式の日はよく晴れて、婚礼日和になった。
町の人々は各々正装して出掛け、教会に向かい、フォール家のよき日を喜び合った。町の最も古い家柄の次期当主の婚礼は、今でも特別な意味を持っている。
昨日の内に町のメイン通りには白いテーブルクロスのかかった長テーブルが一本の線のように長々と並べられ、当日は朝からコックや女たちが料理を準備し、ご馳走を並べた。男たちはワイン瓶を並べ、ビールの樽を運ぶ。子供たちは野原に向かって花を集め、篭に入れて教会に向かう。
フォール家の次期当主の婚礼は、町にとって大きな祝祭も同じだった。彼らの君主だったときから変らない行事。長く敬われ、現在も尊敬を集める町のリーダーであることの表れだ。
町を挙げての結婚式に、駅に着いたばかりのトリスタンとエロイーズも驚いて、顔を見合わせた。
仕事で当日を含めて三日しか滞在できない。大わらわのフォール家を慮って、トリスタンとエロイーズは町のホテルをとっていた。
ホテルにチェックインし、正装に着替え、トランクを置いてまた外に出ると、教会に行く人々で益々道は溢れかえって、騒がしかった。
「こりゃすごい。フォール家ってやっぱり大きな家なんだね」
「今でも工場とか農場とか持っているらしいから。マリーはともかく、セザルは緊張しているんじゃないかしら」
こんな会話をしていると、見慣れぬ都会人に目をつけたか、恰幅のいい老紳士が声をかけた。
「マリーお嬢様とセザルの友人かね?」
「あ、はい。トリスタン・アダムスと申します」
「私はエロイーズ・アダムスです」
「おおっ!もしや、『錬金術師メメント・モリの逸話集』を編集したアダムス先生!」
「はい、そのアダムスです。恐縮です」
「いえいえ、お会いでき光栄です」
老紳士はセザルの上司の弁護士ピエール・ロレーヌだと名乗り、エロイーズとトリスタンと握手を交わして、三人は教会へと歩き始めた。
「マリーお嬢様のご学友で、皆さんラテン語の勉強をされていたとか」
「はい、セザルとも一緒でした」
「セザルはいい男だよ。よく働くし、町の者とも親身に接する。寛容でしっかり者だ。マリーお嬢様はいい伴侶を見つけたよ」
機嫌良さそうにピエールが言うのを聞いて、エロイーズとトリスタンは顔を見合わせ、ほっと胸を撫で下ろした。
花嫁は教会の控室で準備を終え、待機していた。
たっぷりしたスカートの真っ白なドレスを着、淡いピンクの花を飾ったヴェールが栗色の長い髪に添う。耳たぶと首元にダイヤモンドの雫を光らせ、いつもよりしっかりメイクをしたマリーは、年相応の女性らしさと気品に溢れていた。
淡いピンクの花ばかりのブーケを手に、静かに座っているマリーとは対照的に、細身のヴァイオレットのドレスを着たフローレンスは控室をうろうろと歩き回っていた。
「ウエディングケーキもばっちり。工場の皆さんもご招待したし、向こうのご両親もきちんと案内人を送ったし・・・」
「お母さん、大丈夫よ、落ち着いて。あれだけちゃんと準備したんだもの。しっかりやれるわよ」
「そう、そうよね」
フローレンスはレースのハンカチをぎゅっと握りしめ、マリーに数回頷いてみせた。マリーはそんな母の様子に苦笑し、自分も少し緊張していると思って深呼吸をした。
ずっとフローレンスがフォール家の者として第一線に立ってきたとはいえ、町ぐるみの家の大きな行事を取り仕切るのは初めなので、娘の結婚式を成功させたいという気持ちが先立って、珍しく焦っているらしい。
はっとして、フローレンスがマリーを振り向いた。
「そういえば、メメ様は・・・」
「お母さん」
マリーは目を閉じて、少し強い口調で言った。
「私は全部彼の意思に任せるわ」
結局、当日までにメメント・モリから何の便りも、それらしい合図もないままだった。
マリーはそれはそれで仕方がないと思っている。二度と会わない、と自分で言ったことを守るつもりなのだろう。それこそメメント・モリらしいと思えた。
父親代わりにメメント・モリがマリーとヴァージンロードを歩けないか、とフローレンスは思っていたようだった。マリーとメメント・モリの想いが同じだったことを知らない母からしてみれば、仕方のない発想だった。
本も出版されているのだから、町の皆に今もメメント・モリが生きているのだと知れ渡ったら大変なことになると説明して、マリーはフローレンスを納得させたが、フローレンスはやはり、結婚式にメメント・モリが来ないことを気にしているようだった。
保護者として、恋した人として、当人同士は分かり合っているのだからいいではないか。
そう思うも、セザルやフローレンス、使用人さえ、メメント・モリのことを訊ねてくる。
そんなに言われたら、段々とメメント・モリの不在が寂しくなってくるというのに。
「マリー様、お時間です」
「今行くわ」
これからずっと、寄り添うのはセザルなのだ。
マリーはきりっと目を開いて、立ち上がり、教会に向かった。
ヴァージンロードは町長が父親役を務め、セザルと並んだマリーは滞りなく誓いを済ませ、指輪を交換した。
多くの関係者に見守られ、祝福されて自然と笑顔になった二人は、夫婦として公の場に立つため、教会の外に向かう。
教会のドアを出た瞬間、祝福の鐘が鳴り、多くの人々の前に成婚した二人が披露された。祝福の歓声と拍手が鳴り響き、花やライスシャワーがマリーとセザルの上に降ってきた。
フローレンス、使用人たち、町の人たちに囲まれ、参列する中にエロイーズとトリスタンを見つけ、セザルと共に手を振り、マリーは幸福を感じた。
柔らかい笑顔を浮かべ、ありがとう、と祝福する人々に会釈していたマリーは、ふと知った顔ぶれの中に意外な人を見つけた気がした。
茶色の巻き髪の、人懐っこい笑顔を浮かべる精悍な男は、カフェ『冒険者』の店長だ。
その隣にいるのは、シルクハットに、モノクル、白い髭。なんと、錬金術の商人だ。
その時、マリーは自分の迂闊さに気付いた。
そうか。心地良いあのカフェ『冒険者』の空間は、錬金術の不思議に満ちていたんだ。
そうだったんだ。そうだったのか。
「マリー?」
急に涙を浮かべて見上げたマリーに、セザルは驚いた表情をする。
マリーは首を横に振って、カフェの店長が来ている、と言おうとした。
その時。
マリーを祝福しに集まっていた町の人々がどよめいた。
背後の教会の鐘が鳴る尖塔を指差す人々に気付き、マリーが見上げると、真っ白な輝きが次々にひらひらと翅を羽ばたかせて降ってくるところだった。
青空を背景に、真っ白に輝く光の蝶々は、何十匹、何百匹と幻のように、鐘のある空洞から降ってくる。
蝶々はマリーとセザルを囲み、降っては、次々に弾けて消えて行った。
マリーはこれが何だか知っている。
幸福と切なさと愛情で入り混じった思いでいっぱいになったマリーは、空を見上げて、涙が一筋流れた。
「すごいな、これ」
隣でぽかんと口を開けて見上げていたセザルがぽつりと言葉を零した。
人々はただ歓声を上げて喜んで、「神様が祝福しているんだ!」と騒いでいる。
蝶々の意味が分かっているのは、参列者の一握りだっただろう。
顔を見合わせて微笑むトリスタンとエロイーズ、涙をハンカチで押さえるフローレンス、泣いたり笑ったりして、黙って喜ぶフォール家の使用人たち。
フォール家の不思議の背後にいるのは、必ず彼だ。
メメント・モリはマリーの結婚式に来ていた。
今回は趣向が少し違うけれども。
マリーは自分を取り囲み、次々に消えていく『羅針儀付き連絡蝶』の夥しいメッセージをそれぞれ聞いていた。
幸せになれ
笑っていられるように祈る
どんな困難も乗り越えられるように
セザルをきちんと頼りなさい
いい伴侶を見つけてよかった
綺麗だ
どうか生きて幸せになって
死を忘れるな
『羅針儀付き連絡蝶』に込められた祈りはどれも幸福を祈るもので、手書きですべてメッセージを書き込んだのかと思うとマリーは胸がいっぱいになった。
「どうやら見てくれていたようだね、マリー」
セザルに話しかけられて、マリーは微笑んで頷いた。
特別幸せそうな顔をして蝶々をその手に乗せるのを見て、セザルは複雑そうな表情をして呟いた。
「やっぱり強敵だなぁ」
尖塔を見上げ、降ってくる方を眺める。
マリーは透明な蝶々を手のひらに乗せると、ちゅっとキスをして、尖塔の天辺に向けて飛ばした。
いつになく町が賑やかで、騒がしい。
それもそうだ。かつてこの地域を治めたフォール家の娘が婿を取るのだから、盛大な式こそ相応しい。
この祝福の嵐はマリーの人望のためでもあろう。そう思うといっそう喜ばしい。
尖塔の天辺の屋根の下、鐘はぴたりと止まったまま、沈黙して影の中に佇んでいる。
巨大な鐘の音を響かせているのは自動人形が回す手回しオルガンだ。目をくるくるさせて手回しオルガンは鐘の音を再生し、ラッパが音を増幅させて響かせている。
そして、オルガンには大砲のようなものがついていて、自動人形がハンドルを回す度に次々に夥しい量の『羅針儀付き連絡蝶』を外に放出して飛ばしていた。
「三千枚の『羅針儀付き連絡蝶』を作ってくれと言われたときはどうしようかと思いましたよ。錬金術の商人が手伝ってくれたからどうにかなりましたが。それにまた、三千枚に全部、手書きでメッセージを書くなんてね」
ポロロン。
ひっそりした鐘の近くで、相応しからぬ軽いメロディーが流れた。
影の中に、ふっと異質な白が動く。
輝かんばかりに光を集める金髪の、白い衣服を纏っている背の高い男は、アコースティックギターを抱えて、柱の影から下界の様子を見守る。
美麗な顔に甘やかな笑みを浮かべた。
「そう、やることがいつになく極端。思い人への心がダダ漏れです、〝メメント・モリ〟」
人間らしからぬ輝きを放つ人物は、鐘の近くに隠れて座っている人物に長し目を送る。
真っ黒な髪を頬の削げた白い頬に添わせ、真っ黒な衣服を纏った、死人のような雰囲気の男。
メメント・モリ。夥しい量の蝶々の送り主は、灰色の暗い瞳で、じっと光の下で祝福を受ける花嫁を見守る。
「お前は意地が悪い。お前には世話になったが、〝詩人〟」
「いえ。なかなか面白かったです。私は錬金術師のわりに目立ちたがり屋なので、しがないバイオリン弾きのふりをしてふらふらしているのは楽しかったですよ。あなたの思い人を見守るために、ね」
柔らかな雰囲気にどこか含みを持たせる〝詩人〟は、錬金術師にして『羅針儀付き連絡蝶』の制作者だ。
そして、マリーが町から出て寮で暮らした際、学校の近くに現れ、バイオリン弾きをしてマリーの同級生のハートを射止めた男と同一人物だった。
美麗な見た目に加え、面差しの優しさから女性に好意を寄せられることの少なくない男だが、メメント・モリは彼がかなり錬金術師として偏った人物だと知っている。自分の芸術性のある作品作りのためには手段を選ばないようなところがある。
メメント・モリに敬意を払って、その意にそぐわないようにしているから人間でいられるようなやつ。
というのが、大体の錬金術師が〝詩人〟に下す評価だ。
鐘の後ろから二人分のブーツの足音が響き、メメント・モリと〝詩人〟は振り向いた。
シルクハットにマント、首から宝石やら虫眼鏡やらを下げ、モノクルをつけた白い髭の装飾的な男と、正装なのに無頓着に星の滑車がついたブーツを履いた、人懐こい笑顔のくるくるした茶髪の男が現れた。
「手回しオルガンは役に立っているようだね」
「マリー嬢の式に参列してきましたぞ」
「ああ・・・礼を言う」
錬金術の商人と、カフェ『冒険者』の店長こと錬金術師、通称〝冒険者〟だ。
〝詩人〟とも挨拶を交わし、四人は下の様子を向こうからは見えないように窺う。
新郎新婦が寄り添って、共に尖塔の上の方を見上げている。
「それにしても、よかったのですかな?〝メメント・モリ〟」
「・・・何がだ」
「彼女を愛しているのでしょう。あの子も〝メメント・モリ〟に恋していた。共に歩む選択はなかったのかね」
「・・・嘆かわしい。私にそんな選択肢はない」
錬金術の商人の訊ねに、メメント・モリは静かに答えた。
そんなメメント・モリに〝冒険者〟は苦笑する。
「それにしても、最も古き〝メメント・モリ〟が〝メメ様〟とはね」
「我々にとっては驚きでしたよ」
「じいさんも意外であった。メメント・モリが恋をするなど」
口々に驚きの言葉を言われても、メメント・モリは表情を変えず、ただ遠くのマリーを見つめていた。
メメント・モリのために集まった三人の錬金術の関係者は、いずれも三百歳以上生きた強者だが、メメント・モリはそれより更に年長者だ。
如何に錬金術で不老不死になったとしても、百五十歳を過ぎると、研究することが尽きて発狂する者も少なくない。
そんな中で、メメント・モリという人物は、彼らにとって驚異と畏怖を抱かせる怪物だった。常に理性的で、尽きることのない探求心と使命感。未だに死に没頭している錬金術師の飽くなき研究に、誰もが脱帽している。
親切な心と崇高でやや歪な思想を持ったメメント・モリに助けられながらも、未だにおいそれと近付けない錬金術師も多い。
死に対する姿勢も自分自身の心を抉るほどの思いが窺えるが、それに加えて数多くの発明も目を見張るものがある。屋敷をほとんど改造し、地下の舞踏会場の天井には町の人々の喋り声や物音などを、メメント・モリにとって必要な音のみが通るフィルターを設置しているのも、彼の驚異的な頭脳を示している。多くの陰謀や敵を察知する高性能のフィルターは、メメント・モリにしか作れないものだ。永遠の命の研究をしながら、いつそんなフィルターを考え付くのか、思考回路の不可思議を感じさせる。
そんな、闇に生き、死と向き合い、思想と研究にしかまったく興味がないと思われていた彼が、苦悩を背負いこみながら一人の少女を愛したことは、〝詩人〟〝冒険者〟と錬金術の商人にとって新鮮な驚きと感動だった。
三人はかつて迫害された折に、彼に救われた深い恩がある。尊敬し、慕うメメント・モリという長老の想いは、それまで自己犠牲をし続けた彼にとって希望ではないかと考え、できるかぎりメメント・モリの願いを叶えたいと、マリーの結婚式の演出に協力した。
〝詩人〟は三千の『羅針儀付き連絡蝶』を作り、〝冒険者〟は鐘が鳴り『羅針儀付き連絡蝶』を大量に飛ばす手回しオルガンを制作し、錬金術の商人は材料集めに奔走した。
メメント・モリが灰色の瞳で静かに見下ろす姿からは感情は窺えない。しかし、いつになく集中している姿に、三人には感じるものがあった。
と、〝冒険者〟がちょっと心配そうにメメント・モリを見た。
「なあ思ったんだけど」
「何だ」
「メメント・モリ。これからも長生きするつもりだろ」
メメント・モリは何も答えない。
〝冒険者〟は言葉を重ねた。
「あなたはマリーの死さえ看取るつもりか」
〝詩人〟と錬金術の商人ははっとした表情でメメント・モリを見る。
メメント・モリは何も答えない。
これまで、多くの死を目撃し、あらゆる場合の死を見つめてきた灰色の瞳が、これまで一度も経験し、見ることのなかった死がある。
『最愛の人の死』
悲しみと嘆きに生きてきた優しい人物は、自らの幸せなど考えず、愛を得ようと思わず、ただ見守り、助け、最期さえ看取ろうとしている。
何故あの子だったのだろう。
メメント・モリは心底不思議に思う。
焼けつくような胸の痛みと、連れ去りたいくらい荒ぶった想い。今まで子孫を助けたことは幾度もある。無情なほど多くの死も見てきた。死ねば皆同じ、なのに、嵐のような思慕を抱いたのは、マリーだけだ。
赤ん坊のときから知っている。
あんなに小さく、弱かった存在は、見事なまでに成長し、美しく、強い、人々を率いるに相応しい女性となった。
親のような心地で見つめるはずが、引き裂かれんばかりの悲しさを抱きながら見守る。
そもそも、あんなに長い間、傍にいるつもりはなかったのだ。
赤ん坊のとき、少しの間、面倒を見ようと思っただけだ。
なのに、ずっと傍にいてしまったのはどうしてだろう。
いや。
あの時、伸ばされた手に捕まえられて、あれほど必要とされて、親愛を滲ませた灰色の瞳で見上げられて、愛さないでいられただろうか。
フローレンスに抱かれていたときから、自分はマリーに囚われていたのだ。
「白く光る『羅針儀付き連絡蝶』がどんな意味を持つか知っていますか」
〝詩人〟の問いに、錬金術の商人が短く答える。
「純愛」
「正解」
「メメント・モリの連絡蝶はすべて純愛で光っている」
「あのセザル君は大変だな~。怖い怖いメメント・モリに目をつけられるぞ」
「案ずることはない。彼はよい伴侶だ」
静かに断言するメメント・モリの口調には信頼が滲んでいる。
あとの三人は「だから怖いんだ」とばかりに顔を見合わせて、苦笑する。
ときに彼らは研究至上主義で人道を忘れた錬金術師や魔術師と対峙することがある。三人はあっさり排除する方法を考えるが、メメント・モリは違う。「殺すのは信条ではない。嘆かわしい。」との理由で、「もうやらない」と言うまで『死ぬより怖い』思いをさせる。
三人からするとメメント・モリの方法はエゲツないものだが、本人にとってはそれが「優しさ」なのだから性質が悪い。
セザルは〝冒険者〟がカフェで観察していたときから好青年で、マリーとも仲が良かった。顔も頭脳もよいほうだ。信用に足る。だが、これからどんな振る舞いをするかで、うっかりメメント・モリの評価から外れるようなことがあれば、メメント・モリは途轍もなくがっかりし、容赦なくエゲツない所業を働くだろう。「嘆かわしい」とか言いながら。
〝冒険者〟は気付いたときはこっそりセザルを応援してやろうと小さな決意をし、目を下方にいる新郎新婦に再び向けたが、一匹の蝶々がひらひらと上昇してくるのを見つけて目を丸くした。
「おや。あれは一体」
「ああ、あれ」
〝詩人〟と錬金術の商人がにやりとした。
「〝詩人〟とじいさんの共作だね」
「返信用連絡蝶。特別に一匹だけ混ぜておいた。流石マリーお嬢さん、勘よく見つけることができたか」
メメント・モリは灰色の目をぱちくりさせて、意外そうに下方から飛んでくる蝶々を目で追う。
メメント・モリのもとまで、柔らかく飛んできたのは、純白の蝶々だ。
呆然とした様子で見つめているメメント・モリに近付いて、純白の蝶々はひらひらと飛び回る。
そして、メメント・モリの頬に近付いて、キスをして消えた。
一部始終を観察していた三人は顔を見合わせて口々に言った。
「まさか、純白とはね」
「じいさんもそれ思った」
「なんと叙情的なことか」
ポロロン、と〝詩人〟はアコースティックギターを鳴らす。
何にも言葉を発しないメメント・モリを不思議に思って三人が彼の顔を覗き込んだ。
と、三人とも目を丸くし、困ったように、仕方ないなとでもいうように微笑んだ。
「じいさんは今度からメメント・モリのことをメメ様と呼ぼうかね」
「私もそうしようかな」
「俺もメメ様と呼ぶことにしよう」
「おお、そろそろ自動人形が止まる」
鐘の音の再生と、蝶々の放出がまばらになる。
薄暗い教会の尖塔の下で、四人の錬金術師はその様子を見守り、目を転じて密かに祝福を送る。
眼下では人々の歓声と共に、太陽の光と花に囲まれて、幸せな花嫁と花婿がキスをしていた。
ぽろり。
誰にも知られぬ涙が、落ちて行った。




