神幸祭
午後十一時半。夜の帷がすっかり落ちてなお、小高い丘の上は熱気に包まれていた。
赤い蝋燭の大群が整然と並び、やわらかな眩い光を放っている。十万本ともなると、蝋や油が燃えて出る黒っぽい煙も物量を伴って迫ってくるようだ。期待感に満ちた人々のざわめきと、燈火の燃えるジリジリとした音が一帯となって響く。
寳徳山稲荷大社の「神幸祭」。毎年十一月二日の深夜十二時になると、八百万の神々が奥之宮に集まり、国が栄えること、人々が安全に暮らせること、さまざまな仕事や産業が発展することを願って、祭りが執り行われる。
年に一度、神様たちが集まる特別な夜。蝋燭に火を灯し、感謝と真心を込めて願いを届ければ、神様が願いを一つ叶えてくださると伝えられている。
その時に、神々の象徴が現れるのだ。皆それを一目見ようと待ちわびている。
私は両親の間に挟まり、振る舞いに配られた、とびきり甘い甘酒を両手で抱え、ちびちびとすすって暖をとっていた。
目の前は焼けるほどに熱いが、十一月の寒さは小学生の身体に堪える。というか、超眠い。姉と兄は蝋燭に書かれた願い事を見て回っているが、そんな元気は昼間に置いてきたんだ。
「ねえ、なんか蝋燭燃えてるだけだよ?眠いし帰ろうよ」
「もう少し待ってて。十二時になると、鳳凰が飛ぶんだ。父さんそれを見てみたいんだ」
「ほら、母さんの甘酒もあげるから、もうちょっと我慢だよ」
「むぅ」
そんな超常現象なんかおきないよー。現象は科学でほとんど説明できるんだから。蝋燭の火も、風も一定に吹いている。イレギュラーが起こる要素が無いよ。というか、鳳凰てなに。空想の鳥が飛ぶんだと言われてもなぁ。
と、そこで違和感に気付く。
火が少し小さくなって、煙が少ない?周囲の人々も静まりかえっている。え、ほんとに来るの?
父の腕時計が十二時を指し示した、その瞬間。
ボワッと、光を吸い込むような濃い黒色の煙が一気に立ちのぼり、視界いっぱいに両翼を広げた、大きな鳥の形をとった。
「おおっ!!」という人々の歓声に包まれた『鳳凰』は、三秒後には儚く宙に溶けて消えた。
「……ほんとに出た」
「いやー、出たね!見れて良かった!」
「神様が帰られたんだね。ね?待ってて良かったでしょ」
「……うん」
遠くから頬を紅潮させた姉たちが駆け寄ってくる。
「すっご!今のが鳳凰でしょ!?」
「でっかかった!すげー!!」
と私たちの周りをぐるぐると駆け回っていた。
「よしよし、じゃあ皆で帰ろうか」
「はーい!」
「家に着いたらちゃんと布団で寝るのよ」
「いえーい!」
「もう、この子たちったら」
そんな家族の会話を上の空で聞きながら、人の流れに乗って足を動かした。
不思議現象、まじで見ちゃった。これは、眠れそうにないなぁ。
【創作メモ】
本文執筆:作者
AI利用:情報収集・アイデア出しの補助
辞書利用:なし




