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89 神様の懸念

大変お待たせいたしました。

ようやく執筆再開です。

 吉又城に戻ったのが3月30日だった。

 何とかギリギリ月が変わる前に戻ることが出来た。

 5月の侵攻作戦に向けて、準備を始めるにはもはや遅すぎたかもしれないが、当初から俺の軍は兵の数より質で勝負するつもりでいたので、慌てて兵をかき集めるようなことをするつもりは無かった。

 それでも総勢800では、いかにも少なすぎるし、そのうち100は警備用に割いているので、実質700だ。

 やはり城攻めをするにあたり、せめて1000の大台には届かせたいので、新たに兵を300名、雇い入れることにした。

 本来この時期に募兵をするのは宜しく無いとされている。

 何より、春と秋は農民が一番忙しい時期でもある。

 だから、こういう時に募兵をすると、集まるのは流れ者や山賊の類で、他国の間者なども紛れ込みやすいのだ。

 そういった素行の悪い連中が集まれば、治安が悪化するのは自明のことで、民忠も大きく下がることになる。

 さらに、そうやって集まった兵は、敵の武将が強かったり、ちょっと形勢が悪くなったりすると、真っ先に逃げてしまうので、戦力にならないことが多い。

 用兵なども含め、そこは束ねる人間の器量が問われるところだろう。

 1000人規模と言えば、現代の軍隊で言えば大きめの大隊か小規模な連隊というところだろうか。

 もちろん装備の種類で変わるので、一概には言えないところだが、それなりの数ではある。

 そう、我が軍は装備が特殊なので、単純に人数では比較出来ないが、指揮官もそれなりに高い能力がないと務まらない規模である。

 まあ俺なんだよな、指揮官。

 ゲーム上では全軍指揮していた訳だが、どうなることやら。

 肝心の装備の方だが、先ほど工房を覗いたところ、馬車が10台、牽引式連弩が4台、自走式連弩が2台完成していた。

 5月までには増えても3〜5台ずつってところだろう。

 牽引式連弩と馬車は1セットなので、連弩が8台出来たとしたら、馬車も8台必要になる。

 連弩の操作にあたる兵は1台につき3名が基本だが、連弩の周辺を守る兵が必要になるため、もう一台馬車を付けて、そちらに6名守備隊を帯同させると、最低馬車が16台必要になる。

 さらに物資運搬用にも大量に馬車が必要となるので、牽引式はあまり増えても機動戦には使えないことが、予想される。

 旧日本陸軍のように、人が運んでも良いのだろうが、それではどちらにしても機動力は発揮出来ない。

 やはり電撃戦はまだ無理か。

 それは、美濃攻略が本格的になってからだな。

 だからと言って、さほど時間的余裕がある訳では無い。

 大垣城の方はおそらくだが、一週間ほどで決着が着くだろう。

 何しろ、中の人が最初から寝返るつもりな訳だし、徒に時間を掛けて良いことなどは無い。

 敵が準備を整える前に、すぐさま犬山城攻略戦へと移らなければならないのだ。

 ただ、この際も、攻城戦なので機動力はさほど必要は無いだろう。

 むしろ連弩の遠距離射撃で防御施設を破壊することが求められるので、これには牽引式の方が良い。

 物資の輸送も重要になるので、馬車がもっとたくさん必要だ。

 そうなると、当面は馬車と牽引式の連弩を増産して、自走式は後で牽引式を改造する形で作ることを考えた方が良いな。

 それは鐵之助に伝えておこう。

 本格的な機動戦をやろうと思えば、やっぱり馬車が100台規模で必要になるだろうから、今の工房じゃ到底追いつかない。

 こんど岡部さんに頼んでみるかな。


 さて、月末の領地チェックである。


○吉子村

 領主:大谷吉子

 所属:織田家

 人口:3281人

 石高:418石

 金収入:9012

 米収穫:2950

 総兵数:800(うち雇い兵200、警備兵100)

 商業:1105

 農業:580

 木産:140

 鉄産:60

 民忠:66

 特産品:魚・菓子

 

 ◇施設

 市場:2

 工房:1

 城郭:1(吉又城)

 港:2

 店舗:2


 まだ、募兵前なので民忠がだいぶ高いが、ここで300取ると一気に落ちるだろうな。

 まあ、今回は仕方ない。

 農地は開墾したけど、まだただの野っ原のままなので、石高も米の収穫も変化は無い。

 農業値が微増しただけだな。

 商業は順調に伸びているが、鉄がまた下がってるな。

 これは、いい加減テコ入れしないといけないのだが、すぐに戦になるしな、今は放置する他は無いな。


 月が変わってすぐに新九郎に300名の募兵と、連弩部隊、輸送部隊の編成を命じると、又右衛門に金5000を渡し、馬と鉄砲の調達を依頼した。

 本来なら錦之輔に任せるところだが、今は前田玄以の招聘にあたっているところだからな。

 そう、そっちもどんな状況なのか気になるところだな。

 本来なら、堺なんかに行ってる場合じゃ無かったんだけどな。

 それでも、行った意味は大いに有ったと言うべきだろう。

 いろいろな人間と知り合えたし、今後どんどんと人脈が広がっていく切っ掛けになるだろう。

 錦之輔が今どういう状況なのか調べようとしたところ、蜂須賀小六が相談があるから尾張家に来て欲しいと伝えてきた。

 尾張家で会うと言うことは、何かしらの密談と言うことだろう。

 何かの動きを摑んだとかなら良いが、最近かまってやれなかったからな、辞めるとか言い出すんじゃ無いだろうな。


 小六の話は幸い前者の方だった。

 いや、幸いとは言えないか。

 どうも美濃が我々の動きを察知したようで、今盛んに武田との繋がりを強めているという。

 美濃が何処まで摑んでいるかは分からないが、近々織田が犬山城を攻めることは把握しているようだ。

 小牧山城が建設されてるから、それは誰でも判ることだろう。

 問題は半兵衛らのクーデターが漏れたかどうかである。

 小六によれば、何らかの内応の動きが有ることは察知しているようだが、具体的にはまだ何が起きるか分かって無いだろうと見ている。

 それよりも重要なのは、武田が動くかもしれないという話だ。

 例の長井道利がさんざん動き回って、美濃に変事あらば武田が駆けつけるとの約束を取り付けたらしい。

 こうなることを恐れたので、史実では織田は武田と婚姻関係を結んだ訳だが、史実よりも事態の進展が速いので、いろいろ対応が間に合ってない感じだ。

 ただ、それは武田軍にも言える話で、今の時点で武田はまだ箕輪城を攻略中で、主力は関東に集中している。

 美濃に割ける兵力がそれ程あるとも思えないのだ。

 それでも武田と織田には圧倒的な兵力の差があるのも事実である。

 武田の端っこの一部隊だけでも、織田にとっては全力で当たらねばならない相手となるだろう。

 だからこそ、電撃的に美濃を攻略する必要があるのだ。

 仮に武田が援軍を寄越すとして、美濃に武田軍が着くのにどれほど時間が掛かるかである。

 何千人もの兵が信濃から山越えしてやって来るのだから、少なくとも1ヶ月は掛かるだろう。

 俺としては、その間に美濃を落としたいと考えているのだ。

 主要な国人が一斉に寝返るとは言え、最終的には稲葉山城と斎藤氏を屈服させなければならない。

 1ヶ月でそれが出来るかといわれれば、普通は無理だろう。

 だがそこは、史実を知っているからこそ、可能とみているのだ。

 竹中半兵衛が弟の重矩をダシに使い、十数名の手勢だけで稲葉山城乗っ取りを成功させた逸話は有名な話である。

 今回は史実とは若干状況が違うとは言え、龍興が国政に無感心なのは変わらないし、奸臣が取り巻いている状況も同じだ。

 何よりここがゲーム世界であるなら、その手のイベントは必ず起こると確信しているからである。

 

 「信玄殺すにゃ刃物は要らぬ。1573年を待てば良い」


 「戦国の野望」をやっている時も、一人でこんな都々逸(どどいつ)を口ずさんではほくそ笑んでいたものである。

 おそらく、今回も竹中半兵衛が作戦を立て、行動すれば必ず成功するという、いわゆるフラグが立つ事態だと考えている。

 でしょ?神様。


 ※あ、いや、それは何とも言えませんね。


 フフフフ。

 まあ、神様としてはそう言わざるをえないよね。


 ※まあ、そうなんですが、実際問題史実とは重要な点で状況が違いますので、必ずそうなるとは限りませんね。


 重要な点?


 ※まず、年次が違う。

  史実では1564年です。

  その前年に竹中半兵衛が数で勝る織田軍を撃退した後だったので、完全に油断していたということがまず大きな違いです。


 ふむふむ。そうだね。


 ※さらに竹中半兵衛自身に、斎藤家を裏切る動機に乏しいこと。

  史実では、織田軍を撃退した功績があったにも拘わらず、相変わらず自分は疎まれたままで、彼がいなければ美濃は取られていたかもしれないのに、龍興は現実を見ようとしない、という背景があったからこその乗っ取りだったこと。


 ん?何が言いたいのかな?


 ※もしかして、大谷さんは竹中半兵衛に乗せられてませんか?と言う話です。


 えぇ〜っ!

 あれだけ俺の前で涙を流して?あれも演技だったと?


 ※そこまでは言いませんが、家臣が一斉に反旗を揚げた段階で、逆に斎藤家を守る動きに出る可能性もあるということです。


 どういうことよ。


 ※人の心理の裏を突くのが、兵法の真骨頂です。

  最悪美濃は差し出してでも、斎藤家は潰させない可能性が高いということです。

  彼が斎藤家を温存させるため、何の手立ても打っていないとは考えにくいですね。


 う〜む。

 奴がそんなことするかね。


 ※最悪クーデターが起きた後、彼自身が稲葉山に籠城する可能性もあります。


 いやいやいや。

 そんなことになったら、落ちないじゃん、あの城。

 攻め倦ねているウチに武田に横槍を突かれてアウトだな。


 ※ちょっと大谷さんは、戦という物を楽観視しすぎではないでしょうか?

  というより、彼の言うことを信じすぎていませんか?

  軍事というのは、常に最悪の事態を想定しながら行うのが鉄則と言われています。

  世に兵法家と呼ばれる者は、何物も信じず常に必ず最悪の場合の保険を掛けているものですよ。


 いやいやいやいや。

 そう言う神様も、なかなかの軍師ですなぁ。


 ※ですから、半兵衛はその点も含めて、あなたの器量を見極めようとしているのかもしれませんよ。


 なるほど〜。

 わっかりました。

 その点も踏まえ、ちょっと信長さんに相談しに行こう。

 堺と京都に行った報告もしなきゃならないしな。




 「なんじゃ、そんなことなら、元より織り込み済みじゃ」


 俺が神様が言った懸念を信長さんに告げたところ、帰って来た返事がそれだった。

 仮に、そうなったとしても、こちらのすることは大して変わらないだろうという。

 無論武田に横を突かれれば、危険なことは間違い無いが、それを予測さえしておれば、対処の仕方はいくらでもあると豪語する。

 一番危険なのは、予測不能な相手なのだという。

 今回我々が優位な点は、まだ誰も見たことも無い兵器で奇襲を掛けるところだから、緒戦さえ勝ち抜けたら勢いのまま行けると考えているようだ。

 もっと自信を持ってはどうだ?と、逆に励まされてしまった。

 信長さんは、俺の渡した馬車と連弩を、早く実戦に使いたくてウズウズしているようだった。

 まあ、信長さんがそう言うのだったら、こっちも腹を決めて行くとするか。

 その他に、堺、京都での出来事を報告し、近いうちに宣教師がこっちにやって来るから会ってやってくれと頼むと「それは是非会いたい、楽しみにしておるぞ」と言ってくれた。

 そして、泉州海賊の連中を「なかなか面白き者ども」と評し、眞鍋七五三兵衛とも機会があったら会ってみたいと言っていた。

 織田軍は、尾張の港を抑えているものの、海の外のことに関しては皆、素人であることを自認していた。

 信長さんも九鬼水軍を味方に付けるまでは、実は海戦は苦手なのだった。

 そして、京都で流行っている茶の湯に関しても、並々ならぬ関心を示しており、今井さんの茶会で会った面々とか、今井さんがウチの領地の支店を中部地方の拠点とするつもりだという話を聞いて「さすが吉子じゃ!」と膝を打ち、よく分からないうちに「褒美を取らせる」と言って、以前俺が献上した馬上筒よりさらに小形の銃、「短筒」を頂いてしまった。

 まるで種子島のデフォルメしたミニチュアみたいな、ジョークアイテムのような長さ30cm足らずの鉄砲である。

 非常に重たいが、片手で撃つものらしい。

 こんな狙いも定まらないような鉄砲頂いてもなぁ、と思ったが、ふと、合図には使えるかもと思い、恭しくお辞儀をしながら信号銃として使うことを考えていた。

 だが俺としてはそんな褒美より、信長さんから掛けられた言葉の方が大事だった。


 「仮に半兵衛がそういった行動に出たとして、我らとしてはもはや動き出している以上、後には引けぬ故、其方の思うがまま行動するが良かろう。ただし、何が起きても動じぬよう腹積もりだけはしておけ」


 そう言ってくれたことが、今日のこの会談の肝だったと思う。

 それは、自分が指揮官であることを改めて自覚させられた言葉だった。

 神様の懸念は懸念として心に留めておき、万一の事態でも「そんなことは想定済みだった」と言える余裕が大事なのだ。

 指揮官が狼狽えてるようでは、兵隊は不安な気持ちになってしまう。

 当たり前のことだが、命を賭けて戦うのだ。

 指揮官を信用出来ずに戦なんぞ出来るものではない、ということだ。

 さすがは信長さんである。

 人間の器が違いすぎる。

 いやぁ、この人に代わって天下を盗ろうだなんて、おこがましいにも程があるね。

 この言葉だけで、己の身の程を知ってしまった訳だが、逆に腹も据わって気持ちはスッキリとした。

 これで迷いは断ち切れたと言える。

 後は、自分と自分の部下を信じ、闘うのみである。



ここまでお読みくださりありがとうございます。

投稿していきなりで申し訳ありませんが、忙しい状態はいまだに続いており、週2回の投稿はまだ難しい状況です。

しばらくは不定期(なんとか週1くらいのペースで)の投稿となってしまいそうです。

お待ちいただいている方には、大変申し訳ありません。

悪しからずご了承いただければと思います。

ひきつづきよろしくお願いいたします。

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