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88 ロレンソ

ちょっと短いですが、キリが良いところでアップしました。

 ロレンソ了斎は、なかなかに粘っこい性格のようで、簡単には誤魔化せないようだ。

 「あなたのような女子が、なぜそこまで世の中のこと、殊に経済とやらについてご存じなのか、興味深いですな」と、グイグイと迫ってきた。


 「立ち話もなんですから、汚いところですが、どうぞお入りください」


 そう言って俺は、荒ら屋のような南蛮寺に引き込まれてしまった。

 ヴィレラ神父は外で、お供の連中に勧誘を始めたようだ。

 まずいことになった。

 これじゃミイラ取りがなんとやらだ。



 「失礼だが、お年はいくつになられる?」

 「え〜と、確か19歳です」

 「あなたのお年でしょう?ハッキリしないのですか?」


 まあそうなんだけど、ゲーム年齢だからな。

 実年齢はあんたとあまり変わらないと言ったら、ビックリするだろうな。

 あ、でも目が見えないなら、関係無いか。


 「歳を数えるのを忘れるぐらい忙しいと言うことで……」

 「まあ、こんなご時世ですからな。人の上に立つ立場であれば色々とご苦労もありましょう」

 「尾張の、どちらでお生まれに?」


 俺はここで、自分の出自について全く知らないことに思い至った。

 俺って、どういう設定でここに居るわけ?

 神様〜?


 ※何だって良いじゃないですか。

  私だって考えてなかったですよ。


 ちょっとちょっと!

 神様がそれじゃ困るよ。

 いくらゲームで元服前のことがどうでも良いからって、何も決めてなかったんですか?


 ※それはどちらかというと、大谷さんの役割かなと……。


 それはちょっとぶん投げすぎじゃない?

 

 ※そもそもキャラ設定の時に列伝書かないからいけないんですよ。

  そこで人物像とかちょっとでもあれば、ずいぶん違ったものを。


 あ、人のせいにしてる〜。

 そんなチュートリアルの段階で、列伝なんか書くかっつーの。


 ※チュートリアルなのにいきなり架空武将で始めるあなたが悪いのです。


 あ、ひでぇ!

 ついに本性を現したな、このサボり魔め。


 ※……。


 あ、怒ったぁ?


 ※怒ってません。

  神は怒りません。

  もう勝手にいつもの調子で、出鱈目言っておけば良いじゃないですか。


 いつもの調子って、いつも出鱈目言ってるような口ぶりは、ちょっと心外だな。


 ※出鱈目じゃないですか。

  現代知識でチートとか、あり得ないですから。

  普通は。


 普通は?なにか、他にも事例が有るような口ぶりだねぇ。


 ※……。


 もしも〜し!


 ※………。


 おやおや。

 何やら地雷を踏み抜いたようだな。

 もしかして、これマルチプレーヤーだったりするのか?

 良くある、同じ転生者に行き逢い、そこで協力するか敵になるか迫られるというあれか?

 ちょっと、これは、真相を追究したくなるな。

 そもそも俺は本当に死んでいるのか?

 俺自身は確認していないしな。

 死んだんなら確認もクソも無いのだが、どうも怪しいな。

 だが、そこで了斎さんから「聞いてますか?」と、問い質されて思考は中断してしまった。

 仕方ない、適当に答えておくか。


 俺は、何とか核心に触れないようぼやかしながら、自分のことを説明をして、納得はされないまでもそこそこ腑に落ちる内容で、この話を強制終了にした。

 いろいろ聞きたげだったが、これ以上立ち入るな光線を出して…も見えないので、わざとそういう雰囲気にして追求を諦めてもらうことにした。

 そんなことより、今重要なのはこの二人を三好長慶に面会させることである。

 尾張に来るのは時間的・金銭的に余裕のある時で構わないのだ。

 なぜ最初からそれを言わなかったかといえば、もちろん現在もまだ戦闘継続中だからだ。

 史実通りならば、決着が着くのは6月頃のはずだ。

 俺はそんなものは待っていられないので、本人達が行く気になった事を確認できたらそれで良いのだ。

 そしてそのまま尾張に戻ろうと思っている。

 だからもしかすると、先に尾張に来てもらって、信長さんと会ってもらった後に長慶の慰問に行く方が良いのかもしれない。

 何しろ今、飯盛山城に入ったら暫くは出てこれない可能性もある。

 俺はそんなものに巻き込まれているヒマは無い。

 道三先生としては早めに対処したいと思っているだろうが、当の患者は戦の最中なのだ。

 医者の言うことだからといって、そうそう聞いてばかりいられないだろう。

 こっちはこっちで、これから美濃に戦を仕掛ける準備に入らなければならない。他人の戦に係わっている場合では無いのだ。


 「それで、我らを尾張にお招きくださる目的は何でしょう?」

 「そうですね、自由に布教活動をして良い代わりに、大殿様には地図などを使って世界の情勢をお聞かせいただきたい」

 「それだけですか?世界のことなら貴女の方がお詳しいようだが」

 「私のことはもう一つ信用されて無いと思うので、本物の外国人の宣教師から直に話を聞いた方が、説得力があるかなと」

 「なるほど、それが織田様への土産というわけですな。貴女自身は何をお望みで?」


 おっと。

 ずいぶん直球な質問で来るな。

 コイツに腹芸は通用しないようだな。


 「では、単刀直入に。外国人の技術者、特に船大工を、紹介して欲しい」

 「それはまた、ちと難題が過ぎますな」

 「ですよね。ですから誰か人脈の広そうな人を紹介してもらうのでも良いです」

 「それでしたらもう会われたではないですか」

 「あ〜、トーレス神父ですよね」

 「そうです。彼は日本におけるキリシタンの責任者ですし、商人や船乗りとも交流が深いです。彼に聞けば良いのではないですか?」

 「そうなんですけど、上手くはぐらかされてしまいましてね」

 「なるほど、それは貴女の我欲に囚われた心が彼に伝わったからではないですかな?己の目的のため他者を利用することを是とする、その考えが透けて見えたからではないでしょうか?」

 「おっと、痛いところを……」

 「私は盲ですが、人の心は良く見えるのですよ」


 そう言うと、了斎さんはニヤリと笑った。

 俺と、年はあまり変わらないのに、完全に人として負けてるな。

 やれやれ、どうしたものか。


 「ただまあ、尾張での布教活動のお話しは、こちらとしても有り難いことです。見返りついてはご期待に添えないかもしれませんが、私の知っている貴女と気の合いそうな商人をご紹介して差し上げましょう」

 「それはありがとうございます。それと、これは私からではなく、曲直瀬道三先生からのお願いなんですが」

 「おやおや、かの高名な曲直瀬様ですか。それはどのようなお話しで?」

 「彼の患者である三好長慶の心を、神の教えでもって癒やしてもらえないか、と言う依頼です」

 「それはまた、ずいぶんと難題ですな。三好様はたしか細川様と戦の最中ではなかったですかな?」

 「そうですね、実際闘ってる相手は六角と畠山ですが」

 「そんな戦乱の最中に一方の当事者の当主に会うのは、なかなかに危うきことでございますな」

 「いや、さすがにすぐにとは言いません。戦乱が落ち着いたらで構いません。曲直瀬さんと共に、飯盛山まで行ってもらい、三好修理太夫様の心を解きほぐしてもらえたら助かります、と言っておりました」

 「なるほど。色々と表沙汰に出来ぬ話もありそうですが、曲直瀬様のご要望は承りましたとお伝えください」

 「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

 「それで、尾張にはいつ頃伺ったらよろしいですかな?」

 「そうですね、早めに来ていただけるなら4月中までに、それ以降でしたら、1年ほどお待ちいただいた方が良いかと」

 「それでは5月から戦を始めると喧伝しているようなものですよ」

 「あぁ…まあ、そうですね」


 了斎さんは笑いながら、「分かりました。なるべく早くお伺いいたしましょう」と言って、俺をそこで解放してくれた。

 何だ、もっとゴリゴリキリスト教で押してくるのかと思ったら。

 以外と物分かりが良いな了斎さん。

 あるいはコイツには押してもダメだと感じたのかな?

 俺たちが外に出ると、そこではヴィレラ神父がゴリッゴリに押しまくっていた。

 新九郎が「それ以上言うと斬るぞ!」とまで声を荒げるほど、神の教えを聞かせ倒してました。


 「ヴィレラ神父。そのように無理強いするものではないですぞ」

 「オ〜、モウ話オワリマシタカ?オオタニサマモ神ノシモベニナレマシタカ?」

 「この人はご自分がお強いから、なかなか難しいですな」

 「ナォン!ロレンソガ手コズルトハ、オドロキデス」

 「ヴィレラ神父。前から言っているように、相手の心を開かせるのがまず肝要なのです。そうやって頭ごなしにやっては伝わる話も伝わりません」

 「ロレンソノヤリカタ時間カカリマス。ワタシハヒトリデモオオク、オ救イシタイノニ」

 「焦っても結果は良くなりません。一人ひとり、相手を良く見て着実に根付かせることが大事ですぞ」

 「ソレデモ玉尾ハ、ワタシガダキシメタラ、スグニ信ジテクレマシタョ」

 「そういうことは稀だと思いなさい」


 やっぱりか。

 玉ちゃんはただ単にイケメンが好きなだけだったんだな。

 おかしいと思ったんだよな。

 あれだけ人心を操る手腕を持ちながら、こんな日本語もたどたどしい宣教師に丸め込まれる訳がない。


 「それよりヴィレラ神父。我々はすぐに尾張に向かいますぞ」

 「スグニ?キョウデスカ?」

 「いやいや、四、五日のうちにですよ。尾張までは3日ぐらいかかります。それなりに準備が要ります」

 「オ〜、ワカッタヨ」

 「尾張ではまず、大谷様を訪ねたらよろしいのでしょうな」

 「そうですね、吉又城に来てくだされば歓迎いたしますので」

 「では、そういうことで、よろしくお願いしますぞ」

 「こちらこそ、無理を聞いていただきありがとうございます」



 我々はその後すぐに啓迪院に戻り、2人の神父からは承諾を得たこと、戦乱が落ち着いてから飯盛山に行くことを道三先生に伝えた。

 先生からは感謝の言葉と、すぐには無理という事で若干落胆の色が窺えたが、こればかりは致し方ない。

 それまでの間、2人は尾張で布教活動をすることにしたことも伝え、2ヶ月ぐらい経ってから、南蛮寺を訪ねるように言って、地図も描いて渡しておいた。

 俺は先生に丁寧にお礼を述べると、そのまま京都を後にすることにした。


ここまでお読みくださりありがとうございます。

次はいつ更新出来るか分かりませんが、なるべく一週間以内には何とかしたいと思っております。

ひきつづきよろしくお願いします。


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