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63 バリスタをアップグレードしました

寒天はまだ出来ません

 いや、確かに発射の速度を上げたいとは言ったよ。

 それは訓練してと言う意味でね、そのために弓の強度を高めたわけだからね。

 目の前の連弩はかなり大きな作りで、二人でもギリギリ運べるかと言うくらいの代物だ。

 そもそもあれだけ強度の問題で苦労していたのに、こんな複雑な構造にしちゃって大丈夫なのかね。

 機構としては、弦を引っ張る言わばコッキングレバーを、回転するハンドル式にして、一回転するごとに弦がいっぱいまで引かれ、そのまま更に回転させれば、弦を引っ張っていた留め具が外れ、矢が発射される。

 発射が終わり、弓が元の位置に戻ると、次弾が自動的に装塡される。

 引き続きハンドルを回せば、再び弦が引かれ次弾が発射可能になる。

 つまり、ハンドルを回し続ければ弾が尽きるまで発射し続けるという、言わば手回しマシンガンである。

 ダメでしょうこんな物作っちゃ!!

 そして発射されるボルトも、全金属製では無く、弾頭部分だけ鉄製で軸は木製なのだが、かなり太い。

 長さは40cmぐらいだが、直径は3cmほどはあるだろうか。

 そしてこのボルトには、普通の矢尻と違って返しが無い。

 飛行を安定させる羽根も無い。

 その代わり軸の後端は細くなっており、軸に挟むような形で紙製の安定翼が付いている。

 魚雷のような形と言えば分かりやすいだろうか。

 完全に1本の棒状になっており、軸の直径からはみ出す物は無い。

 そんな形にしたのは、おそらくジャミング防止と思われるが、その弾を入れるカートリッジには50発入るという。

 カートリッジと言っても、海外旅行に行く人がよく持ってる、コロ付きのハードケースぐらいの大きさがある。

 弾が入ったケースを持ってみたが、間違いなく30kg以上ある。

 本体はおそらく100kg以上あるんじゃないか?

 こうなると、もはや設置用以外の使い方は難しいだろうな。


 「じゃあ、試しに撃ってみようか?」

 「では、あそこに的がありますので」

 「ん?遠くて見えないけど…あれか」


 だいたい400mほど離れた先に白い箱のような物が置いてある。

 ここから撃って当たるのか?あんなに小さい的。

 俺は思いっきりハンドルを回したところ、けっこう重いのだが、力はさほど要らない感じだ。

 弓が大きくしなった後、バッシン!という音と共にボルトがはじき出された。

 弾速はこれまで見たどの弓よりも早く、400m先の標的まで2秒ほどで到達し、白い箱のような物は文字通り粉砕された。

 隣にあった目標にも、今度は連続して3発打ち込んでみたが、一発目で粉砕してしまったので、2発目以降が当たったかは分からない。

 俺たちは駆け足で目標物まで確認に行った。

 標的だった白い箱は、1m四方ぐらいある木の箱だったようなのだが、跡形も無く粉々になっていた。

 これでは歩楯や竹束など、なんの防御にもならないだろうな。

 鐵之助曰く、全て鉄で作った物より、弾頭だけ鉄にした方が飛距離も破壊力も大きいことが分かったという。

 あくまで同じバリスタから発射した場合という意味だが、楽に400m届いて、しかもこの破壊力である。

 こんな物連射されてみろ、たまったもんじゃないぞ。

 ハッキリ言って家康の使ったカルバリン砲より有用だろうな。

 30mm機関砲みたいなもんだからな。

 そう、直径が30mmもあるなら火炎弾とか炸裂弾とか作れそうだな。

 おっと、ここで俺が口走ると、コイツ本当に作っちまうからな。

 気をつけないと。


 「ところで中谷さん」


 と呼びかけたが、本人の自覚が無いのか気付いてない。


 「自分の苗字ぐらい覚えとけよ、て・つ・の・す・け!」

 「あぁっ!これは申し訳ない!」

 「これ、耐用試験は?」

 「まだです、今ので102発目です」

 「これだけの連射性能だからな、本当なら500発と言いたいところだが、後200発撃って壊れなかったら、量産に移ってくれ」

 「ははっ!畏まりました!」


 秀吉はどうしたことか、先ほどから一言も発していない。

 あまりの威力に恐れをなしたかな。


 「どうかね秀吉君、欲しくなったかな?」

 「……正直、ワシはおみゃぁが恐ろしゅうなったわ」

 「なんで?」

 「吉子は、これで人が撃たれたらどうなるか、考えたことあるんか?」

 「まあ、木箱がこんな有様だからね。かすっただけでもただじゃすまないだろうね」

 「そうじゃろな。これで死ぬんはどういう者たちだと思う?」

 「はあ?」


 何言ってんだコイツは。

 戦なんだから、弾が当たりゃどんな人間かなんて関係無いだろう。

 ははぁん、何となく言いたいことが分かったぞ。


 「確かに、武将も雑兵も分け隔てなく殺すね、こいつは」

 「そうなんじゃ、普通、戦が終われば兵はまた農民に戻る。だがコイツで皆殺しにしたらどうなる?」

 「農村は立ち行かなくなるかもな」

 「そうなんじゃ、仮に戦で勝っても何も残らんことになる」

 「まあ、そのための兵農分離なんだと思うがね」

 「そうじゃな、それしか無いじゃろうな」


 農民出身の秀吉らしい発想だが、やるかやられるかの戦争で、そんな悠長なことは言ってられない。

 少なくとも、俺が見聞きして知っている戦争はそんな物じゃ無い。

 まあ、機関銃が戦争で使われるようになって、騎士道が消え去ったように、この連弩によって戦争の形が変わっていくかも知れないな。


 さて、そんな感傷に浸っていてもしかたがないので、頭を現実に戻そう。

 鐵之助これ作るのに10日ぐらい掛かってたよな。

 色々試しながらだろうから時間が掛かったと思うが、それでもいくら効率アップしても3〜4日で出来上がるとも思えない。

 まあ、月に4〜5台出来れば良い方か。

 となると、作戦発動までに揃えられるのは10台ぐらいか。

 馬車に積むのは4台程で良いとは思うが、まずは実用試験だな。

 馬車に載せて使えるのかどうか確かめてみなくてはな。

 連弩がもう一台完成したら、やってみるか。


 秀吉が寧々さまや家臣に、ういろうを買って帰りたいというので、尾張家で町子ちゃんがういろうも作ってるから、昼飯がてらそこへ行こうと言う話になった。

 お付きの方々も外で待たせるのも可哀想なので、一緒に店に入るといきなり威勢の良いかけ声で迎え入れられた。


 「らっしゃい!!」

 「あれ?男の店員が増えてるな」


 その若い男の店員がやってきて聞いた。


 「お客様何名様でしょう?」

 「視たとおり5人だけど」

 「はい!五名様おこし〜!」


 そう言うと店中から「ありがとうございます!」の声が上がる。

 何だ何だ?

 どこの居酒屋チェーンだよここは。


 「ちょっとさぁ、大谷だけど、店長いる?町子ちゃん」

 「はぁ、大谷様。ご予約ですか?」

 「違うよ、この辺りで大谷って言ったら私しかいないでしょう!」

 「はあ、少々お待ちを」


 怪訝な顔をしながら店員は厨房に戻っていく。

 何なんだ。

 首をかしげるのはこっちだよ。

 どうなってんだこの店は。

 どんどん劣化していくぞ。

 しばらく待っていると、町子ちゃんを筆頭に店の人間全員がゾロゾロ出てきて一斉に頭を下げて謝った。


 「申し訳ございません!ご領主様には、大変失礼をいたしました!」

 「ちょっとちょっと止めてよ。恥ずかしいから」

 「店員の教育が出来ておりませんでした、申し訳ありませんでした」

 「うん、まあ、そうなんだけどさ、ちょっと奥で話そうか」

 「申し訳ございません」


 そう言うと、秀吉とお付きの人たちには席に座って待っててもらい、俺と町子ちゃんだけ奥に入って高級割烹の何たるかを懇々と説教するはめになった。

 一応言い訳を聞いておこうと、町子ちゃんにこうなった経緯を質すと、まず俺が来るとみんな畏まってしまい、仕事にならなくなるので、店員を総入れ替えして、あえて俺のことを教えずにいたと言う。

 男性店員が増えたのだが、みんな無口で喋らないので、もうちょっと元気よく明るい店にしようと言うことになって、かけ声を一斉に言うようになったのだそうだ。

 まあ、気持ちは分からんでもないが、こういうことをすると店の格が下がるから止めろと言って、受け答えは上品に、そのお客当人に聞こえれば良いんだから、全員に聞こえるようにする必要は無いと念を押した。

 そして、町子ちゃんが厨房に入るのなら、ホールを取り仕切る責任者、つまり女将を置くように進言した。

 蛇足ながら女将に相応しい人の要件として、頭の回転が速く客商売の経験がある人、上品で華がある人、礼儀作法がきちんと身についている人、諸事に通じていて聞き上手な人などどして、出来れば美人が良いが品があって性格の良い人ならなんとかなると付け加えた。

 町子ちゃんが「そんな人いるんですか?」と聞いてきたので、まあ、あえて言うなら前田利家の奥さんの、まつさんなんかピッタリだよね、と答えておいた。

 一抹の不安はあったが、さすがに本当にまつさんに頼んだりしないだろうと思うので、その場はそれで話を終わりにした。

 秀吉達には天ぷら蕎麦に舌鼓を打ってもらい、お土産にういろうと鶏の唐揚げをお買い上げ頂いた。

 我ら一行は、再び墨俣に向け出発しようと思ったのだが、お土産を買いすぎて馬に乗せて行くには、ちょっと厳しい感じになってしまった。

 俺は秀吉達を店で待たせ、弥四郎と再び工房に戻ることにした。

 さっきバリスタの試射をしていた時、木工工房の隅にほぼ完成していた量産型馬車の2号車を確認していたのだ。

 もう完成していてもおかしくないだろう、そう思ったのだ。

 そして、実際、後は馬具を付けるだけとなっていたようだ。

 さっそく鐵之助に金具だけ付けてもらい、馬車2号が完成した。

 弥四郎も馬具を付ける作業を手伝い、一時間ほどで店に戻ることが出来た。

 待っている間に秀吉達は、さらにお土産を買い足していた。

 はなから馬車で行くものと決めて掛かっていたようである。

 この辺の柔軟さはさすがと言うべきか、貪欲と言うべきか…。

 いくら馬車でも、ここから墨俣に着く頃には夕方になっているだろう。

 何か夕飯の足しになるものでも買っていくか、と思い市場に寄ってみることにした。

 秀吉に「何か墨俣で手に入りにくい食材とかあるか?」と聞いたところ、やはり海の物は手に入りにくいという。

 長良川の畔に建っている城なので、川を上ってくれば海と直接行き来出来るのだが、尾張の中心地からは距離があるため、墨俣までわざわざ売りに来る者は居ないらしい。

 なので、海産物が欲しい場合、自分達で船を出して買い付けに行くのだそうだ。

 ウチの領地も距離的には似たようなもんだが、幾分尾張に近いのと、飲食店が多く、そこでの需要が見込めるので尾張の港から買い付けてこっちで売っても商売が成り立つのだろう。

 それでもさすがに、この時間に新鮮な魚は手に入らないだろうと思ったが、一応覗くだけでも行ってみようと言うことになった。

 既に3時過ぎで、店じまいしている店舗も多く、客も疎らだったが、何軒かはタコやイカなど、魚以外の海産物が売れ残っている店がある。

 タコなどは酢で締めれば、日持ちするし酒のつまみにちょうど良いかなと思い、買っていこうと売り子に声を掛けようとしたら、何とその店員は一昨日テングサを売っていた鈴○奈々であった。


 「あれ?あんたテングサ売ってた人じゃない」

 「あっ!その節は、ありがとうございました!」

 「今度は魚売ってるわけ?」

 「いえいえ、魚は売ってないです、はい」

 「え?でもタコ売ってるじゃん」

 「はい、そうですね、タコとイカしか売ってません」

 「はあ?何それ」

 「だから、タコとイカしか売ってません」

 「なんで、そんな変な仕入方するのさ」

 「まあ、安かったからとしか…」

 「なるほど、あなたはそうやって他所でたたき売りしてる物を仕入れてきては、高値で売り付けてるわけね」

 「高値だなんて、とんでもない。お客さんの納得するお値段でお売りしてるだけですよ」

 「じゃあ因みにこのタコはいくらよ」

 「金50ですね」

 「高いわ!普通に買えば10前後でしょうが」

 「じゃあ10で」

 「だからさ、その金50ってなんなのよ」

 「お婆ちゃんから教わったんです、最初に高く吹っかけろと。それで相手が嫌がったら徐々に下げていけって」

 「徐々にじゃないじゃん、いきなり半分以下になってるし」

 「まあ、こんな時間ですし、いくらでも売れれば良いんです」

 「その口ぶりからすると、仕入は5より下だね」

 「それは言えません」


 そんなやり取りをしながらもう一度タコをしっかりと調べてみたところ、足が途中で千切れてたり、帽子が他の魚にかじられたりした痕があった。

 ちょっとこれ、捨てられてたヤツだな、多分。


 「お姉さん、このタコだいぶ痛んでるようだけど?」

 「違いますよ、それは生まれつきです」

 「おいおい。あんたこのタコの生まれた時の様子知ってんのかよ」

 「……し、知ってますよ!」

 「苦し紛れにいいかげんなこと言いなさんな、まったく。金2で良いでしょ?こんなの、手間賃入れてもおつりが来るでしょ」

 「分かりました、2でけっこうです」


 俺らのそんなやり取りを横から見ていた年配のご婦人が、突然割り込んできた。


 「ちょっとお待ちよあんた!金2なんて払う必要ないよ!」

 「な、何ですかあなたは!」

 「この女はね、ドブ浚いの奈々と言って、ゴミ同然の魚や貝を拾ってきちゃぁ、こうやってとんでもない値段で売ってるのさ」


 ははぁん。

 そういうことか。

 しかし、奈々は合ってるんだねぇ。


 「ちょっと人の商売邪魔しないでくださる!?」

 「何が商売だよ!こないだのテングサだって、どうせ何処かからかっぱらってきたもんじゃないのかい」

 「失礼な!ちゃんと辺りに人が居ないの確かめました!」

 「それみろ!やっぱり盗んだもんじゃないか!」

 「盗んだんじゃありません、道に落ちてたんです」

 「そりゃ落ちてたんじゃなくて、置いてあったんだよ、この泥棒が!」

 「そうだとしても、誰も見張ってないんだから、要らなかったんでしょう?だから私がこうやって必要としている人に格安でお渡ししてるだけですよ」

 「言うに事欠いて、何を言い出すかと思えばこの女はまったく!」


 さ〜て、俺としてはどうするべきかなぁ。

 この○木奈々はどうやら不正をはたらいてそうなんだが、今のところ証拠は無い。

 だが、俺の決めた法令に、盗品の売買は禁止と書いてあったはずだ。

 違反すれば最大で流刑になる、けっこう重い罪だ。

 ゴミを拾ってきて売るくらいなら咎められることは無いと思うが、盗品はいかんな。

 ただ、被害届が出てなきゃ、なかなか犯罪には問えないかもな。


 「とりあえずさ、この市場の元締めというか組合長みたいのは居ないの?」

 「ああいるよ、この辺の御領主の右腕、中村錦之輔様の妹さんの玉尾様だよ」

 「うそぉ!!玉ちゃん?」


 何でアイツが元締めになってるんだよ!


ここまでお読みくださりありがとうございます。


寒天が出来る前に、話がどんどん明後日の方向へ…。

次回は引き戻しますんで、ひきつづきよろしくお願いします。

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