62 馬車1号とバリスタ
またまた妙な時間で、すみません。
※11/26、一部表記を修正しました。
試作2号車から7日ほど経った1月20日。
量産型馬車1号が出来上がった。
試作型からさらに構造を簡素化し、鎧を着た槍兵6人+御者と侍1人が乗れ、荷物だけなら400kg程度の物まで輸送可能である。
弥四郎は1週間で馬車の扱いはほぼマスター出来たようで、後は馬との付き合い方、育て方を徐々に覚えていってもらう段階だ。
弥四郎がとりあえず俺専属の御者として付くことになったので、彼の後継として農民兵の中から見込みのあるものを紹介してもらう事になった。
弥四郎が連れて来たのは3人で、皆、見るからに農民という出で立ちなのだが、確かに身体は頑丈そうで面構えもふてぶてしい。
己之助、茂吉、玉三郎と名乗った3人のうちの1人に見覚えがあった。
正月に錦之輔達を労うためにチキン南蛮を作った時、侍達に混じって小汚い風体の奴がいると思ったが、その時の男が茂吉と名乗る男だった。
弥四郎によれば、茂吉はとにかく身のこなしが軽く、軽業師のようだという。
そういうことなら忍者の修行でもしてきてもらおうかな。
己之助と言う男はとにかく腕力がすごい。
腕相撲ではエドが一番だと思っていたが、彼を負かすほどの腕力があった。
こいつには大槌を持たせて、施設部隊を率いてもらおうかな。
玉三郎は一番農民らしくないのだが、彼は背が高く手足が長い。
物を遠くに投げる才能に秀でているという。
拳ぐらいの石なら80mは飛ばせるという。
現代なら間違いなく野球選手だろうけど……う〜ん、擲弾兵とかかな。
そんな兵科無いけど。
さらに弥四郎が御者になったことで、当初、俺専用の御者だったエドには、新たな使命として、とにかく早く日本語を覚えてもらうことになった。
そのため、俺の側で護衛の仲間に加わってもらい、剣術と日本語を覚えつつ、試作品だったクロスボウを与えて、持ち前の弓の腕前を活かしてもらうことにした。
既に片言でわずかな会話は、出来るほどにはなっていたが、いずれ外洋航海の技術も教えてもらわらなくてはならないことを考えると、俺の英語力じゃ追いつかないし、かと言って船乗りが全員英語を喋るような事になっても困る。
本人がいつまで日本にいる気かは分からないが、せめて日本近海程度は自由に航行出来るくらいの、人材と技術を残していって欲しいものである。
馬車の方は順調に進んでいるようだが、バリスタの方はなかなか捗っているとは言いがたい。
やはり、単純に倍にすると言っても、ことは簡単では無いようだ。
バネ鋼は無事手に入ったが、それ以外の構造体が今度はバネの力に耐えられない事態が発生し、今はそれを一つずつ解決していっている状態だ。
更に根本的な問題として、撃ち出す矢、というかボルトの問題がある。
全金属製の方が射程は落ちるが、当たった時の衝撃は木製とは比べものにならない。
ただ、非常に高価な物になってしまうし、射程が短くなればアウトレンジからの一方的な攻撃というメリットが無くなってしまう。
だから、今は相手との距離に応じてボルトを使い分ける、という方向で考えている。
射程が最大に得られる木鉄混合のボルトの製作も頼んであるが、まだそれには手が付けられてはいない。
バリスタを支える銃架も、用途に応じて開発する必要がある。
車載用、設置用、野戦用ではそれぞれ構造も役割も違う。
先は長そうだな。
美濃攻めには間に合わないかもな。
せっついても良いことは無いだろうし、鐵之助に任せるしか無いようだ。
1月になったので尾張でも雪が降る日が何日かあった。
このところ朝は連日、氷点下になっている感じだし、少し標高が高いところでは池でも分厚い氷が張っている。
ちょっと気分転換に、以前神様から提案のあった、寒天の製造に乗り出してみようかな。
寒天は心太から作られる。
心太はテングサと呼ばれる海藻を日にさらして乾燥させた後、再び淡水に浸して柔らかくした物を潰して流水にさらし、不純物や塩分、色素を取り除く。
これに他の海藻(オゴノリ等)と混ぜて沸騰したお湯に入れ、酢を加えて3時間煮込む。
徐々に冷ました後、麻袋に詰めて絞り出した液の上澄みを容器に入れ、凝固させれば心太の完成である。
これを棒状に加工したものを凍結させ、完全に凍結した後に日に当てて氷を溶かし、乾燥させて水分のみを取り除いた物が寒天となる。
神様が言うように、寒天があると甘味関係の世界が大きく広がる。
あんみつなど寒天そのものを使った物以外にも、羊羹や杏仁豆腐などプルプルしたお菓子には大抵寒天が使われている。
お菓子以外にも、液体をゲル状にするゲル化剤としても使えるのだが、まあそう言った用途は、生産が安定してから追々考えるとしよう。
まずは心太である。
心太自体はかなり以前から日本に入っていたようで、尾張などでも心太売りが売るにくることがあるが、だいたいは夏場である。
この時期はおそらく、テングサを乾燥させた段階で止まっているはずである。
心太が入手出来れば話は早いが、多分無理だろう。
こういうのは、誰に聞くのが良いんだろうねぇ。
市場に行ってみるか。
そう言えば、法令を発布した時ぐらいだよな、市場に入ったのって。
どんな物を扱ってるかじっくり見たこと無いな。
テングサ以外にも、色々欲しくなるかも知れないしな。
もしかして大荷物になるかもしれないので、念のため馬車で市場に向かう。
一人でも行けたのだが、新九郎が許してくれないので弥四郎に御者を頼み、護衛のため前田さんに一緒に来てもらった。
市場は既にお正月気分など全く無く、人々で賑わっていた。
この領地の特産の欄にまだ、魚と書いてあるだけあって、品物の大半が魚介類である。
そこに、小麦粉や砂糖など、あまり一般的では無い食材が売られるようになったのは、間違いなく俺のせいだろうな。
例の氷入りの行李を背負った小僧さんが何人もいて、海産物や生野菜を入れて、駆け足で何処かへと向かって行く。
岡部さん考案の行李が、実際に流通の場で活躍していることを、初めて実感したのだった。
そんな市場の一角に、全く客がいない店舗があった。
30絡みの、美人だが少し苦労の色が見えるご婦人が売り子をしている。
だが、売れている様子はほとんど無い。
扱っている品は乾物類なので、そう飛ぶように売れるというものでも無いが、それにしても辛気くさい。
見れば俺が求める、乾燥したテングサと思しき物も売っている。
しょうがない、これも一つの縁という物だ、ここで買うとするか。
「これは、テングサですか?」
「はい!いらっしゃい!」
急に弾けるように返事をした売り子さんは、先ほどまでのどよーんとした雰囲気と打って変わって、はっちゃけたような、急にマイクを振られた鈴木奈○みたいになっていた。
「テングサですよ、はいはい」
「こっちがオゴノリかな?」
「はい!オゴノリで、はいはい」
「テングサはここにあるだけ?」
「あっ、ここに、この後の全部テングサです!」
「おや、ずいぶんあるね」
「はいはい、まだウチに帰ればたくさん有ります」
「まあ、さすがにそんなには要らないけど、でもその一箱はもらおうかな」
「はい!!ありがとうございます!」
「あ、このワカメと昆布も一個ずつもらおうかな」
「ありがとうございます!!!」
「全部でいくら?」
「はい!金200になります!」
「高っ!テングサでしょ?海行けばそのへんに生えてるヤツでしょ?」
「じゃ100で」
「なんだよ、急に下がるな」
「本当はいくらなの?」
「40です…」
あらあら。
急に元気がなくなっちゃったよ。
仕方ないなぁ、ここはちょっと大人買いしてやるか。
そう思い金100を渡そうとしたところ、前田さんがそれを遮った。
「ダメですよ吉子さん。これはコイツの手です。実際は20ぐらいですよ多分」
「えぇ?そうなの?」
「そうだろ?」
そう言いながら前田さんはその鈴○奈々を睨みつける。
鈴木○々は急に蓮っ葉な感じになって、「チッ」と乱暴な舌打ちをしてみせる。
「わかった、100渡すから、その後の全部よこしなよ」
「あ、ありがとうございます!!」
「本気ですか?」
○木奈々、再び復活である。
忙しいヤツだ。
4箱あったので仮に20だとしても、そんなに損でも無いだろう。
鈴木奈○は、馬車に荷物を積むのを手伝ってくれた後は、とっとと店を畳んで帰ってしまった。
まあ、もっと安かったとも考えられるが、しかし、何でこの時期にテングサあんなに売ってたんだろうな。
それはともかく、大量にテングサが手に入ったので、ここに来た目的は簡単に達せられた。
後は、砂糖を買い足したのと、小豆を2kgほど買って帰った。
馬車で来て正解だったな。
荷物は軽いのだが、嵩張るので人や馬では運べなかっただろう。
早速城に戻り、寒天づくりに取り掛かるとしよう。
俺は、城の厨房のお姉さん2人と、前田さんの部下の人4人で大量のテングサを水にさらし、汚れや不純物を取り除く作業に入った。
すっかり柔らかくなったところで、全員でテングサを丁寧に磨り潰す。
何しろ量が多いので、大変である。
一箱に約10kgのテングサが入っていたが、体積としては一抱えほどもあるので、水で戻すとおよそ10倍ぐらいの重さになるのだ。
それを一房ずつ丁寧に磨り潰していくのだ。
そうしたあと、釜に入れて3時間ぐらい煮込む。
後はゆっくり冷ますのだが、結局その日はその作業だけで1日が終わってしまった。
翌日、まだ少し熱が残っているテングサの煮汁を、布で濾し取りながら型に注いでいくのだが、わざわざ立派な木枠を作る必要は無い。
俺たちは竹を縦に半分に割った物に、絞った煮汁を注ぎ込んでいった。
節の部分がちょうど手頃な長さの仕切りになり、後で切る必要も無い。
ナイスアイディアである。
後はこれを2日ぐらいかけて凍らせた後、それをまた天日に当てて氷を溶かして乾燥させれば出来上がりである。
問題は凍るスピードである。
あまりすぐに凍ってしまうと、寒天成分と氷が分離してしまいスポンジ状にならない。
逆に遅すぎるとカビが生えたり、変色したりしてしまうのだ。
現代よりは平均気温は低いと思うが、氷点下になるかどうかは微妙なところである。
おそらく墨俣より奥に行けば、確実に氷点下にはなるだろうと思うのだが、そんな理由で大垣まで出向いていくのもどうかと思うので、とりあえず墨俣に持ち込んで様子を見ることにした。
墨俣は川沿いにあるが山に近いため、ウチの領地より寒く感じる。
ちょうど天気も昨日からぐずついた感じで、レーダーを見れば南岸低気圧が近づいている。
明日は雪になるかもしれない。
ということで、竹で出来た不思議な物体を馬車で秀吉の領地まで運び、3日だけ置かしてと頼み込んだ。
秀吉は訳が分からないという顔をしていたが、馬車が早速活躍しているところを見て、「ワシも欲しくなってきたぞい」などと言い出していた。
その日は弥四郎とお付きの人とともに、秀吉のところに泊まり、馬車やバリスタの話を自慢げに話してやり、秀吉の悔しがる顔を見ながら酒を飲むことにした。
翌朝はしっかり雪が積もっていたが、天気は良く無い。
まだ、前線が近くに残っている感じで、雲が抜けるのは今夜遅くなってだろう。
寒天には風雨を凌ぐカバーを掛けておいたが、凍ったのは表面だけで、中はまだ水っぽい感じだ。
今日日中は冷暗所に置いて溶けないようにして、明日の朝氷点下になって、カチンカチンになっている、というのが理想だな。
寒天を載せたまま馬車ごと氷室に置かしてもらい、俺は一旦城に戻ることにした。
そうしたら、秀吉がバリスタを見たいと言い出した。
さんざん自慢したからな、まあ興味がわいて当然である。
俺達は秀吉から馬を借りて、領地に戻るとそのまま真っ直ぐ工房へ向かった。
工房では鐵之助が「お待ちしておりました」と、出迎えてくれた。
え?出迎えなんて珍しいことも……。
あ!もしかして、完成した!?
こちらが問を発する前に、鐵之助は自慢げな顔で「どうぞこちらに」と、おくまでみんなを案内してくれた。
これはどうやら、いよいよ完成を見たようだな!
だが、鐵之助が指をさした先にあった物は、当初のクロスボウとは似ても似つかぬ、大がかりな”連弩”だった。
「あれ?違うもんが出来ちゃったよ!」
思わずそう叫んでしまった俺の言葉に、鐵之助の顔が引き攣る。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
またしてもマイウェイな開発をしてしまう鐵之助。
果たしてその性能はいかに?
乞うご期待でございます。




