33 葬儀
すみません、遅くなりました
どういうわけか、竹中重元の葬式に俺も参列することになった。
半兵衛から手紙が届き、そこに、俺に是非来てほしいと書いてあったのだ。
生前、ていうか俺の生前だけど、いつも困るのが冠婚葬祭である。
まず着ていく服が無い。
どんな服が良いのかも良く分からない。
何を持って行ったら良いか分からない。
作法が分からない。
香典、またはご祝儀にいくら包めば良いかも分からない。
まあ、その度ごとにネットで調べて個別に対処していたわけだが、今は戦国時代。
この時代のしきたりや常識なんか全く分からない。
そう言う時はやはり、神様ですよね。
どうなんでしょう?
※ウィキペディ○でも余り詳しく書いて無いですねぇ。
ヤ○ー知恵袋で質問している人がいましたが、返事がイマイチ信憑性無いですし。
あの〜、この世界作ってるの神様ですよねぇ。
何でそれがウィキペディア頼みなんですか?
※まーほら、ゲームって骨格決まっちゃえば半分出来たようなもんでね、細部の要素は後から詰めてけば良いやって、けっこう後付けでやってたりするんだけど、こういう想定外のイベントが来ると割りとその場で考えてたりしますね。
ひでえな。
俺、そんな世界で生かされてるのかよ。
※とりあえず香典とかは要りません。
どうしてもと言うなら、お酒でも持って行ってあげたらよろしいかと。
そーですか。
段々、というか最初から、神様じゃないんだろうなぁ、とは思ってましたが。
今ので完全に怪しくなったな。
※因みに喪服はこの時代、白が基本ですので、お間違えないように。
えっ?
そうなの?
そうかぁ。
そこから死に装束とか白着ていると縁起悪いとか言われるようになったのか。
勉強になります。
と言うことで、俺は今、竹中家の菩提寺で竹中重元の葬儀に参列している。
葬儀の様式とかは今とさほど変わらないようだが、参列者は家族とその縁者と特に親しいものだけのようだ。
この頃はまだ檀家制度が無く、現代のようにゾロゾロと大勢で葬式を上げるのは、それこそ将軍とか大大名ぐらいで、戦国時代と言うこともあるのだろう、あまり親しくない者は呼ばれないようだ。
そういう意味で、俺が呼ばれたことは異例中の異例と言える。
参列者は奥さんと重治の兄、重行と弟の重矩、重行の奥さん、安藤守就さん、そして俺だけで喪主は重治である。
今なら密葬と呼ばれる程度の質素な葬儀である。
もちろん花輪とか香典を受け取る人とかもいないので、お供えするのは本当にお線香だけで良かったようだ。
お清めに使うかもと思い、清酒を持って行ったが、必要なかったようだ。
飲めるのは俺と安藤さんだけのようで、結局自分で飲むことになってしまった。
安藤さんが呼ばれた理由は、半兵衛と娘さんの結納が済んでおり、将来義父になることが決まっていたからだが、父親が亡くなったことで、結婚は家督相続の後という事になりそうだ。
そう言う点から見ても俺だけが部外者だし、ましてや敵方の武将である。
呼ばれた理由が分からない。
唯一思い当たるとすれば、あの雑炊だけである。
さすがに葬式に雑炊を持っていくわけにも行かないので、酒だけにしたのだが、半兵衛はあれを父への手向けにしたかったのかも知れない。
そこまでは考えつかなかった。
式が終わり、食事をする時になると酒宴の席には重治、重矩、安藤さんと俺だけになった。
兄夫婦と母親は帰っていったようだ。
どうも様子がおかしいな。
そう思っていると半兵衛がこちらに深々と頭を下げ、「本日は我が父の葬儀にお越しいただきありがとうございました」と例を述べた。
いやいや、お招きいただいたのはそっちじゃないすか?と思い、口をとんがらかして首をかしげていると、その様子が可笑しかったのか、半兵衛がプッと吹き出して笑い出した。
「貴女は楽しいお方だ」
「えぇ?何ですか?」
「これは失敬。実は貴女の人となりを我が家族にも知ってもらおうと思い、お招きしたのです」
「それなら、もっと普通の時に会った方が良かったのでは?そもそもまだ一度しかお会いしていないのに…」
「これは、我が父の願いなので、お呼びしないわけにはいきませんでした」
「お父様が呼ばれたと?」
「そうです、あの雑炊が美味しかったこともありますが、色々思惑が有って我が城に参られたことでしょう。それでもあの時父に会っていただき、その時示していただいた誠意は本物であると父は感じておりました」
誠意って言われても、会った後に病気の見立てを告げて、治療法は無いし感染るから注意してねって話をしただけだしなぁ。
「いやぁ、誠意と呼べるほどのことはして無いと思いましたが」
「貴女が帰られた後、父が申しておりました。あの者は信ずるに足ると、仕えるならあのような人に仕えよと」
「それはまた、随分と高い評価をいただき恐縮ですが、やっぱりそこまで褒められることをした憶えは無いんですけどねぇ」
「お義父上、如何です大谷様は」
「確かに女人にしては、大層変わっておるし言動は男子のごとしじゃ。だが、目に嘘が無い。そこが半兵衛が惚れた所以なのだろう」
「は?」
「な…何を仰いますか義父上」
今、惚れたって言ってなかったか?
こっちが惚れたの間違いじゃなくて?
「ブヮッハッハッハッ!お主も動揺することがあるのじゃな半兵衛!」
「何です?からかったのですか?お義父上も人が悪い」
「からかい半分、真実も半分であろう?」
ちょっと、ちょっと、どういうこと?
竹中さんは安藤さんの娘さんを貰う約束したんじゃないの?
「そのような戯れ言を…おいね殿に失礼ではありませんか」
「おのれの本心を隠し、結納を交わした娘の父と接する方が不義理とは思わぬか?」
「そ、それは…」
「大谷殿、挨拶が遅れ申した。安藤伊賀守守就にござる」
「あぁ!こちらこそ、大谷吉子です。よろしくお願いします」
うーむ。話を逸らすのに使われた気がする。
まあ、変な流れだったからこっちも助かったけど。
その流れに乗って、半兵衛は弟を紹介する。
重矩もイケメンには違いないが兄よりずっと体格が良い感じで、だいぶ男らしい。
「こちら弟の竹中久作重矩でございます。本日は父の葬儀ゆえ特別に外出を許されておりますが、普段は稲葉山にて客分となっております」
「要するに人質にございます」
自らの立場を吐き捨てるように言うと、徐々に怒りがこみ上げてきたようで、貧乏揺すりをはじめた。
「まぁ、それはご苦労が絶えないことでしょう。今日ぐらいはゆっくりとなさったらよろしいかと」
「ありがたきお言葉……」
そう言ったとたん重矩君はさめざめと泣き出してしまった。
随分とひどい目に遭っているのかと思ったが、ちょっと違うようだ。
「別にひどい目には遭っておらん。むしろ逆じゃ。某が泣いたは当主龍興の不甲斐なさじゃ」
そういうことか。
一説によればいつ織田が攻めてくるか分からないこの時期でも、相変わらず酒色に耽り、政務軍務を顧みず、斎藤飛騨守などの奸臣をそばに置き、三人衆や半兵衛の諌言を無視し続けたという。
斎藤飛騨守は半兵衛の容姿を馬鹿にし、小便を掛けるなどの愚行をしたため、後に稲葉山城を半兵衛らが乗っ取った時に討たれたという話だ。
「正直を申さば、某も今の斎藤家を立て直せるとは思っておらん。されどこのまま織田に取られるのも癪でのぉ」
と安藤さんは本音を漏らした。
一応俺は織田の家臣なんだけどな。
「我ら、今一度、当主様に目を覚ましていただくため、奸臣どもを葬る策を練っておる所でな」
「安藤様!それはまだ…」
「良いのじゃ、大谷殿に話しても漏れはせぬわ」
随分と剣呑な話になってきたな。
まさか俺にその話に一枚加われってことにはならないよな。
「すみません、私は聞かなかったことに…」
「甘いですぞ、大谷殿!」
「えぇ〜…」
「そうですね、ここまで聞いたら、ただでは帰れませんよ」
うわっ、そのまさかだったよ。
半兵衛と安藤さんがニヤリと悪い笑顔でこちらを見る。
それを見て俺が脂汗を流し、作り笑いをうかべ、たじろぐ。
その様子を見て重矩君が薄ら笑いをうかべる。
四者三様の笑いの構図が暫く続いた後、安藤さんが急に真顔になり、俺に詰め寄ってきた。
「大谷殿、貴殿には我らが乱を起こすを見計らい、大垣を攻めてもらいたい」
「えぇ〜っ!」
「大丈夫です。桑原様とはもう話が付いております」
「攻め掛かる振りだけで良いのじゃ。真に攻め取っては桑原殿は腹を切らねばならなくなるからな」
なんか凄い話になってきたな。
そっちのお家事情に巻き込まないで欲しいんだけどなぁ。
「すみません、大垣を攻めると言っても、手持ちの兵が400しかいないし、秀吉の兵と合わせても900ですので、そんなので攻め込んでも笑い話にしかならないと思いますよ」
「そうでしょうか?来年の夏頃には1000ほどに増えていると見込んでいるのですが」
うっ。さすが半兵衛。
確かに今のペースで人口が増えれば、来年の夏には兵数1000を達成できるだろう。
秀吉の方も、おそらくそのくらいの兵は確保できていると思われる。
それでも2000だけどな。
まあ、この前墨俣に攻め込んだ桑原さんにやり返すみたいな形になるわけだ。
やるのは夏頃ということか。
そう言えば、犬山を攻めるのもそんな時分という話だったな。
そうやって美濃の足元を一気に揺るがす事態が連続して起きれば、さすがのお坊ちゃまも真剣に取り組まざるを得なくなると言うわけだ。
「では、夏頃を目指し、兵を蓄えるとしましょう」
「無理なお願いと承知しております。何とぞよろしくお願いいたします」
「無論、他言無用でしょうが、信長さんには話しといた方が良いかもしれないですね」
「いや、それはお止めください。織田様の攻め手に緩みが出てはいけません。秘中の秘で、お願い致します」
「分かりました」
話は纏まったとばかりに、安藤守就が手を叩いて気分を切り替えた。
それぞれが杯を掲げ、「これにて我ら一蓮托生なり」と安藤さんが宣言して全員で杯を一気に飲み干す。
「では、これにてお開きと致そう」
そう安藤さんが締めくくると、そのまま本当に散会となった。
さっきの惚れたのどうのと言う話が気になってしょうがないが、ツッコんでも蛇しか出てこないだろうから、俺もそのままうやむやにして帰ることにした。
特に細かい取り決めとかして無いけど、今日のメンバーは織田に寝返ると考えて良いんだろうね、多分。
しかし、何で俺なんだろうな。
地理的に大垣に近いことは確かだけど、俺意外にも織田の家臣で城持ちの武将はたくさんいるし、俺以上に有力な武将で協力してくれそうな人はいるだろうに。
まてよ、俺って実は竹中さんに逆に釣られたんじゃね?
父親が危篤という弱みを晒すことで、それを使って接近してくる織田の武将を狙っていたとも考えられるな。
クーデターを起こすタイミングを、こちらの襲撃と合わせることで、美濃のあちこちで侵攻や襲撃が起きてる印象を与え、他の武将の離反を促していると考えられなくもない。
予め自分達がレールを敷いていたと言えば、織田家に入った後、扱いが他の武将とは変わるであろう。
そこまでは考えすぎかな。
そんなことを考えながら夜の美濃路をひた走っていた。
目立つ白装束から普段のグレーっぽい着物に着替えてはいるが、深夜女が馬で一人で走っている姿は、さすがに目立ちすぎだったようだ。
いつの間にか後に10騎ほどの騎馬武者が追いかけてきていた。
追いかけて来るというのが、なかなか尋常では無い事態だ。
夜盗なら待ち伏せするであろうし、竹中さんたちが忘れ物を届けるため追いかけて来てくれてる訳でも無いだろう。
このまま尾張に連れて来るわけにもいかないので、どこかで対処しなければならない。
確か以前にこの辺りに攻め入った時に、間道のような物があったはずだ。
そこに逃げ込み、様子を見ることにしよう。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
利用するつもりが利用されていたということですね。
なかなか策士ですね、さすがは名軍師殿であります。




