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31 海の幸のちらし寿司弁当

すみません、ちょっと短めです。

 またまたすぐに帰ってきた我々を見て、町子ちゃんは慌てて後ろ手に何かを隠した。

 今さらと言うものだが、そこは追求しないでおこう。

 戻って早々、お弁当のレシピで頭を悩ませる。

 現代であればハンバーグだとか、生姜焼きだとか、唐揚げだとか色々と選択肢があるのだが、この時代、肉系がほぼ全滅なので、選択肢として残るのは唐揚げぐらいだろうか。

 ジャガイモがまだ日本には伝わっていないので、ポテトと付く物は出来ない。

 この他、お弁当の定番野菜であるブロッコリーは言うに及ばず、タマネギ、ニンジン、ほうれん草などもまだ日本には伝来していない。

 携帯食と考えるとかなり選択肢が狭まってくるのが分かる。

 いかに現代の食事情が恵まれているかである。

 やはりタンパク質とビタミンを摂れる食材が圧倒的に足らないのだ。

 竹中半兵衛も結核で亡くなったと聞く。

 現代であれば結核に感染していても発症しないことも多い。

 それは現代人の食事情と大いに関係があると思われる。

 彼の父親がどうのような病気かは知らないが、彼自身の死期も含め、食事で改善出来ることもあるかもしれない。

 さて、お弁当の候補は最終的に3つに絞られたが、どれも捨てがたいので全員で投票して決めることにした。


 ・あさりご飯と鶏唐揚げ弁当 4

 ・海の幸のちらし寿司 5

 ・鰻の櫃まぶし弁当 2


 1票差でちらし寿司に決定したわけだが、やはり見た目のインパクトが一番あるからだと思われる。

 そして、冷めても味に影響しないところも票を集めた理由であろう。

 そうと決まれば、早速食材集めである。

 何しろ明日1日しか仕込む時間が無く、相手は更に増えることが予想されるので、最低でも30人分は必要だ。

 食材の種類が多いので、家臣全員で当たらなくては、とうてい間に合わないだろう。

 弁当用なので、全て火を通すか干物に限られる。

 まず思いつくのが、海老、烏賊、タコ、アワビ、蟹あたりである。

 それに加え、かまぼこ、錦糸卵、紫蘇の葉で、見た目の色味を整える。

 ただ、このままだと若干ビタミンバランスに問題がありそうなので、急遽、鰻と枝豆を加えることにした。

 現代で食べたとしても、なかなか贅沢な弁当になってしまったが、インパクトと栄養価には代えがたい。

 更に現代では当たり前に手に入る鮭やイクラ、ホタテというものが、ほとんど手に入らない。

 東北・北陸地方の大名と懇意になっていれば、贈答品として手に入ることはあっても、市場などで手に入れることはほとんど出来ないのだ。

 やはり、そこは戦国時代である。

 なるべく早く流通改革を進めたいものである。


 最低30人前に加え、もちろん自分達も食べたいので、+11人前である。

 40人あまりの寿司飯を用意するのも大変である。

 午後から食材の調達に走り、ようやく夕方に全ての食材が揃う。

 生の物は全て火を通し、氷室にしまっておく。

 まずは手間のかかる鰻の仕込みから始める。

 正直言って、鰻など調理したことは無い。

 それは職人の技がそう簡単に身についたら、苦労はしないのである。

 だが、ここはゲームの世界。

 レシピさえ知っていれば再現出来てしまうのだ。

 ねえ、神様?


 ※原則的にはそうなんですが、包丁の技術であるとか盛り付けのセンスとかは別です。

  以前にも言いましたが、大谷さんが食べたことがあるものより美味しいものは出てきませんので、悪しからず。


 それって、なんかさあ、夢も希望も無いよね。

 老後とか何を楽しみに生きていったら良いんだ?


 ※若い子をはべらせるとか。


 それって、誰得なのよ、まったく。

 そんなことより、鰻の蒲焼きの作り方って、どこかに書いてないですかね?


 ※そんなこと言われましてもねぇ。

  そう言うのって、このボスの倒し方が分からない、とゲーム制作会社に聞くようなモンですよ。


 ですよねぇ。

 まあ、子供の頃近所の魚屋さんが、蒲焼き焼いてるのを間近で見てたんで、ある程度は覚えてるんだけど、細かいところがね、良く分からない。

 あと、タレの作り方とか。


 ※仕方ないですねぇ。

  もう天ぷらが出てきた時点で、だいぶ違反ぽいんですがまあ、いいでしょう。

  もう料理で、天下統一でも何でもしてください。


 おぉっ!何か、急にいろんな料理のテクニックが!頭ん中に!

 ん?「OL一人暮らしでもここまで出来る!料理の極意100選」って何ですか?


 ※あ……、タイトルまで送っちゃった。


 なんか、これ、まとめサイトか何かじゃね?

 女神さん、一人暮らしなんですか?


 ※……


 あ、また返事が無い。

 何か都合悪くなるとすぐだんまりだもんな。

 いったいどこからこういう情報を得ているのやら。

 まあ良い、ともかく、あったあった鰻の捌き方。

 おーこれならすぐ出来そうです。

 ありがとうございました。


 まずはレシピ通りに鰻を捌き、串を打つ。

 意外と知られていないが、鰻の血と粘膜には毒があり、口にするとピリピリと痺れるので注意が必要だ。

 なので開いた鰻は良く洗う。

 串を打ったら、身の方から焼いていく。

 中まで火が通ったら裏返して皮を焼く。

 焦げ目が付いたら火から下ろし脂身を洗い落とす。

 その後20分ほど蒸してから、タレを付けて全体を焼いて完成である。

 今回は鰻重ではないので、さらに一口大に切って冷ましておく。


 その他の食材も、火を通すものは通して、冷ましておく。

 面白いのはかまぼこで、かまぼこというよりは焼きちくわに近い感じで、きりたんぽのような形で売られている。

 河原に育つ蒲の穂のような形で、鉾の先に塗って焼いたのが始まりと言うところから蒲鉾と付いたという話だ。

 まあ、かまぼこでもちくわでも大して違わないので問題は無い。

 下準備をした後、一晩氷室に入れておき、お重に入れるのは一番最後である。

 朝、一斉にお重に寿司飯と具材を詰めて、山葵と紫蘇の葉を入れ、封をして完了である。

 数が多いので、今回は忙しいところを頼み込んで錦之輔君にも来てもらった。

 5人で行くので一人6個持ってもらう勘定だが、自分の分もあるので1人7個もって行くことになる。

 あー、ホント馬車が欲しいわ。

 揺れても良いように、さほど綺麗に具材は並べなかったのだが、それでもひっくり返ったりしてはダメなので、馬をあまり速く走らせることが出来ない。

 なので普通の倍時間が掛かる。

 大垣までおよそ4時間と見込んでいるので、遅くとも朝8時には出なくてはならない。

 弁当は背負子(しょいこ)のような物を作り、重ねて載せて動かないよう縛り付ける。

 そんなこんなで、どうにか7時40分頃には出発することができた。

 朝からまさしく、てんやわんやであった。

 錦之輔君も、いったい自分達は何をやっているのか分からないと言った顔をしている。

 まあそうだよね。

 俺もそう思う。


 大垣には12時15分頃に到着した。

 不破さん達は既に茶屋を貸し切りにしてスタンバイしていた。


 「待ちかねたぞ!大谷殿!」

 「今日はまた、大荷物ですな」


 あんたらのせいだよ、と喉まで出かかったが、辛うじて堪えた。

 人数は一昨日よりも2人増えて28名になっていた。

 多めに作っておいて正解だったな。

 もし余りが出れば、それを持って菩提山城まで行っても良いだろう。

 お茶屋さんから全員に煎茶が振る舞われたところで、試食会開始となった。

 自分達もお重の蓋を開け、食べ始める。

 旨いっ!

 まさしく苦労しただけのことはある逸品である。

 特に鰻が旨い!

 これはぜひ町子ちゃんの店で出してもらいたいものだな。


 桑原さんたちの反応は、以外にも大人しい。

 口に合わなかったのかしら?

 と思ったのだが、良く見たら全員泣きながら食べている。


 「このような物…食べては、必ずや罰が当たろうぞ…」

 「これは、全部食いたいが、食えねえ。持って帰って皆に食わしてぇ…」

 「旨えよ…かあちゃん。俺、明日死ぬのかも知れねえ…」


 そんな言葉を皆が、口々に漏らしながら食べている。

 そして、桑原さんが泣きはらした目で言い放った。


 「この卑怯者め!!このような物食わされては、貴殿と争うことなど出来ぬではないか!」

 「よろこんでもらえて、なによりです」

 「これを、織田の殿様も食されたのか?」

 「あ、いや…まだなので、これは内密に…」

 「なるほど〜。それは信長殿に知れると大変じゃなぁ。フフフ」


 あれ、桑原さん何考えてるんだろう?

 まさかそれを強請(ゆすり)のネタにしようと言うんじゃないだろうな。

 いずれ織田の家臣になることを考えれば、ここで弱みを握られるのはまずい。

 帰ったらすぐにでも信長さんに献上しなくちゃ。

 そして不破さんはと言えば、こちらの手元に残っている2つの弁当を見て何やらほくそ笑んでいる。

 そしてとんでもないことを言い出した。


 「これを私に預けてくれれば、安藤殿と稲葉殿にも渡しておいてやろう」


 はい?

 ここから稲葉山までは、うちの領地に行くぐらい離れているんだけど。

 そのままではさすがにご飯が固くなっちゃうだろうなぁ。

 でも生ものも無いので、一旦蒸してもらえば大丈夫かな。

 いやいや、そう言うことでは無くて、これは一種の賄賂だよねぇ。

 いやぁ不破さん。

 今、もの凄く悪い顔してますよ。


 「では、よろしくお願いします」


 と、こちらも凄く悪い笑顔で返す。

 なぜか全員、凄く悪い顔でフフフと笑い合っている。

 実に不気味な集団と化していた。


 その後はすっかり料理の話で盛り上がってしまったので、領地に戻った時は夜になっていた。

 2人の城主様には、武将と分からない姿であれば通って良しと、お許しを得た。

 得てしまったのであれば、早めに竹中さんのところへ行っておきたい。

 まあ、信長さんに献上するのは後だな。

 じゃあ、手土産をどうしますかね。

 さすがに今回みたいな豪華な弁当は病人には厳しいだろうしな。

 高齢者でも美味しく頂ける、そして身体にも良いもの。

 うーん、雑炊かな。

 ちょっと火を通してもらわないといけないけど…。

 さんざん買い漁った食材がまだ残っているし、これを流用して海鮮雑炊にしよう。

 鍋に食材を放り込んだ状態にして持っていき、現地で暖めてもらえれば美味しく頂けるのではなかろうか。

 そうと決まれば早速、3種類の出汁をあわせてベースを作り、そこにご飯と食材を入れ一緒に煮込む。

 このまま一晩放置して、後は薬味を入れるだけにしておく。

 葱と生姜は行きがけにウチの船宿で買うとしよう。

 馬だと3人でもやはり目立つことが分かったので、今度は小六と2人で行くことにした。

 今度こそ竹中さんに会えるよう、三度目の正直となることを期待するとしよう。


ここまでお読みくださりありがとうございます。

次回、ようやっと竹中半兵衛が登場…するかも。

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