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24 接待

 3日後、俺たちは鵜沼城に居た。

 俺たちというのは、俺と町子ちゃん、そして蜂須賀小六、そしてなぜか柴田勝家というメンバー。

 言わば大谷家一同が集まり、大沢次郎左衛門を囲んでの天ぷらパーティーである。

 特別に取り寄せた菜種油とごま油、大きな鍋と選りすぐりの食材を持ち込んで、もちろん酒も一樽用意した。

 鵜沼城に詰めている、位が上の武将らも10人ほどが特別に招かれた。

 天ぷらなので、本当ならビールか辛口の冷や酒が合うのだが、まだこの時代では一般にはどぶろくみたいな酒しか出回っていない。

 ごく一部、やんごとない方々と高位の公家のみが、澄んだ透明な酒を飲むことが出来た。

 あと10年ぐらい後の信長さんであれば、手に入れることも出来ただろうが、ようやく一国の国主と認められたばかりの織田家の、その家臣ごときにそのような高級な酒を調達するすべは無い。

 ここは甘い酒で我慢するとしよう。

 さて、ここは大沢さんに是非、天ぷらというものの虜になっていただこうと思うので、舞茸だけでは無く、海老とかホタテ貝とか茄子とか蓮根とか、特に天ぷらにして美味しい食材を用意した。

 町子ちゃんと俺とで下ごしらえをする。

 待つ間、小六がお酒をみんなに配り、会話で間をつなぐ。

 15人分の天ぷらというのもなかなか大変で、先に揚げた人と後で揚げた人とでは味が変わってきてしまう。

 全部いっぺんに盛り付けようとすると、どうしても不公平になるので、一種類ずつ上がった端からお出しして、揚げたてを食べてもらうことにした。

 高級天ぷら店などでよくある、カウンター越しに一品ずつ揚げたてを出してくれるようなスタイルを狙ってみたのだ。

 温度計が無いので油の温度が良く分からないが、揚げカスの浮き具合で見分けるほかは無いようだ。

 衣はややダマが残る程度に、かき混ぜすぎないようにする。

 この際、予め粉も卵も水も冷やしておくことが大事。

 食材には最初に薄力粉をうっすらとまぶしておくと、衣が剥がれにくくなる。

 やはり天ぷらといえば海老であろう、ということで先ずは海老から。

 やや高めの温度でサッと1分ほど揚げる。

 会場にも香ばしい香りが漂い、皆さんソワソワと落ち着かなくなってきた。

 そしてキレイに揚がった海老の姿を見て、生唾を飲み込む者も何人かいた。

 揚げ物など食べたこと無くても、香りと見た目で旨そうに見えるのであろう。

 舞茸が出てくるものと思っていた大沢さんは、最初意外そうな顔をしていたが、海老があまりに美味しそうなので、今は食い入るように見つめている。


 「みなさん、この付けダレに少し浸してお上がりください」

 「いただきます!」


 最初に大沢さんがかじりついた。

 普通こういう時は毒味役というのがいて、食べて大丈夫か当主より先に食べて調べるものだが、それだけ信用されているのか。

 あるいはそれだけ揚げたてが食べたかったのか。


 「なんじゃぁこれはっ!!」


 しかし突如大沢さんが叫んだ。

 続いて食べようとした家臣達が慌てて食べるのを中止し、こちらを睨む。


 「ものっ凄く旨しっ!!」


 見れば、またしても涙を流しモシャモシャと全て口に放り込んで食べていた。

 ああ、ビックリした。

 刀を持ってこっちに向かおうとした者もいたのだ、変なリアクションはやめてもらいたいなぁまったく。

 その後、家臣達も続いて食べて、やはりそのおいしさに天を仰ぐもの、海老を拝むもの、一度に食べ過ぎてのたうち回る者が続出した。

 ウチの柴田さんも、なぜか分からないがイタリア人のような仕草で、旨さを表現していた。

 では次、烏賊である。

 短冊に切って皮を剥き水気をよく取る。

 海老よりは低めの温度で2分ほど揚げる。

 海老よりも見た目が地味なので、先ほどよりは皆さん落ち着いて食べられたようだ。

 生以外では焼くか煮るしか食べたこと無いだろうから、油と絡んだ烏賊のおいしさに驚いた者も多かったようだ。

 大沢さんも今回は泣かなくても済んだようだ。

 さて、いよいよ舞茸である。

 温度は先ほどと同じ、やや低め。

 衣を付けすぎないようにして、3〜4分揚げ、油をしっかり切ってから出す。

 お膳に並べられた舞茸を見て、烏賊の時と違い、おお!と言う歓声が上がる。

 大沢さんも「これだ、これ!」と期待に胸を膨らましている。

 そして期待通りのリアクション。

 もう、顔面で塩がとれるんじゃ無いかと思うぐらい、サクサク噛むたびに滂沱と涙を流している。

 ウチの小六君がさっきから何も喋っていないのだが。

 あの宴会男が一心不乱に天ぷらを食べている。

 まったく何のために連れてきたんだか。

 まあたしかに、この舞茸は自分でも上手く出来たと思う。

 実に美味しそうである。

 一口食べようとしたが、町子ちゃんに怒られてしまった。

 その後も、茄子、ホタテ貝、カボチャと徐々に味の濃い物にして行き、最後にかき揚げを出して終わりとなった。

 一応、ご飯と漬け物も出しておいたのだが、皆さん天ぷらだけで腹一杯になってしまったようだ。

 勿体ないので、これはおにぎりにして皆さんに持って帰ってもらうことにした。

 酒も無くなったところで、お開きにして我々は帰ろうとしたところ、大沢さんがやってきて、2人だけで話したいというので、町子ちゃん達は先に返して2人だけで別室に移った。


 「お主の料理、旨すぎて恐ろしいばかりであるな」

 「いやいや、物珍しいだけでしょう。慣れてしまえばどうということは無いですよ」

 「いや、それは違う。あのような料理は見たことも聞いたことも無い。もしや南蛮の料理ではないのか?」

 「まあ、南蛮といえば南蛮かな」

 「やはりそうか。お主は色々と変わった知識を持っているようだな」

 「そうですねぇ」

 「織田の要望というのは、犬山を攻めるときに手出ししないと言うだけであったな」

 「ええ、そうです」

 「本当にそれだけか?」

 「と言いますと?」

 「斎藤を滅ぼした後、改めてここを攻め取る腹ではないのか?」

 「そんな無駄なことしませんよ。味方になってくれるならありがたいですが、そう右から左へとは行かないでしょうから、最初は様子見で良いですよ」

 「実はな、武田からも同じような申し出があっての」

 「あら、良いんですかそんな大事なこと話しちゃって」

 「いや、地の利から言って此処だけ武田が取ってもあまり意味が無い。やはり犬山と両方持っていないと拠点となり得んのじゃ」

 「そうですねえ。武田がここまで来るより、すぐ目の前は尾張ですしね」

 「つまりは織田も武田も、犬山を取りたいが為の工作をワシに向けて仕掛けてくる訳じゃ」

 「良いじゃ無いですか、どちらにも良い顔をしていれば。どちらも敵方に付くなよと言ってるだけなんでしょ?」

 「そうなのだが、やはり城主として、そのような日和見な態度は下の者に示しが付かぬであろう」

 「大丈夫ですよそのくらい。今のご時世、皆さん生き残ることに必死ですから、多少の日和見ぐらい。真面目ですねぇ大沢様は」

 「しかしなあ、人の上に立つ身としては下の者の範とならねばなるまい」

 「なるほど、そういう不器用なところを家臣の方は慕っているのかも知れませんね。まあ、私も嫌いじゃありませんけど」

 「い、いや、そのような…」


 おっ照れている。

 可愛いな大沢君。


 「じゃあこちらもとっておきの情報を…」

 「な、なんじゃ?」

 「織田家は浅井家と同盟を結ぼうとしてるのはご存じ?」

 「うむ、斎藤家からの話では浅井の三将は申し出を断ったと聞いたが」

 「実は、私が交渉役なんですよ。浅井の方々にも今日みたいに色々と歓待しようと考えています」

 「なんと!」

 「さらに御当主長政様に、婚姻のお申し出も考えていることを付け加えておきます」

 「むう」

 「仮に浅井との同盟が叶った時には、斎藤家の命運は尽きたも同然と言えましょう」

 「まだ武田、今川が居るではないか」

 「武田は上杉対策でそれどころではないですし、今川に至っては没落する一方です」

 「ううむ」

 「ともかく武田は関東が落ち着かないことには、こちらに手を延ばす余裕は無いと思います。それよりは信濃平定を優先するでしょう。もしかすると今川を追い落とす可能性も考えられます」

 「まさか」

 「今川が今のままではお荷物にしかなりませんからね」

 「そうなると、北条との同盟はどうなる」

 「もちろん破棄することになるでしょうね」

 「そうなってはとても、美濃どころではないな」

 「なので、付く相手を間違えないでね、と言うわけです」


 大沢君は暫く腕を組んで考えていたが、意を決したようにこちらに向き直って言った。


 「まだ、答えは出せぬ。だが正直に申せば、気持ちは八割方、織田に与しても良いと思っておる。ただし、あの当主の上総介だけは好きになれん」

 「だから、織田の家臣じゃなくても良いんですってば」

 「うむ。そうじゃな」

 「まあ、まだ時間はありますから。じっくり考えて」


 そう言って、部屋を出ようとしたとき、後からひと声掛けられた。


 「主の家臣にならなってもよいぞ」


 俺は振り返り、微妙な笑顔で返すことしか出来なかった。

 完全な城持ちの国人を部下にするなど、立場がアベコベである。

 川並衆の面々も未だに俺の家臣にできないのは、そういう理由からだ。

 こちらが答えられずにいると、更にひとこと…


 「だから、もそっと出世してくれ」


 と付け加えて、次郎左衛門は笑いながら先に部屋を出ていった。

 なかなか良いヤツだな。

 やっぱり早く大きな城を任されるくらいにならないとな。

 その申し出、考えておこう。


 領地に戻った時は既に深夜。

 日付が変わる間近だった。

 なんか今月はあっと言う間だったな、もう30日ですか。

 ところでゲーム内時計はグレゴリオ暦に変換されているようなのだが、記録上の年月日と齟齬が出ないんだろうか?

 ねえ、神様?


 ※えー、ウィ○ペディアに倣えです。


 はい?


 ※○ィキペディアも、色々と混乱している部分もあるようですが、日付などは基本的に旧暦に倣っていると思います。


 ぶん投げにもほどがある。

 こっちはその中で生活してるんですけど。


 ※分かりやすいようにという配慮と思っていただければ。


 ゲームとしてならね。

 だったらせめて武将図鑑の年月日を、括弧付きで良いから新暦表示も入れて欲しいな。

 うっかり旧暦で亡くなった日と間違えて、お悔やみ送ったりしたら大恥どころじゃ澄まないかも知れないからな。


 ※はぁ……検討します。


 うっわスッゴイ嫌そう。

 まるで昨夜徹夜して仕事してたOLさんに、今夜もまた仕事頼んじゃった時みたいな反応だなぁ。


 ※ははは…大丈夫ですよ〜。


 よ、よろしくね。

 どう聞いても大丈夫じゃなさそうな感じだな。

 ともかく、今月も内政の指示出さなきゃ。


○吉子村

 領主:大谷吉子

 所属:織田家

 人口:2025人

 石高:410石

 金収入:3050

 米収穫:2800

 総兵数:400(200)雇い兵

 商業:480

 農業:510

 木産:100

 鉄産:150

 民忠:65

 特産品:魚

 

 ◇施設

 市場:2

 城郭:1(建設中)

 港:2


 お、ついに人口が2000人突破ですね。

 よしよし、これでもう少し兵を雇うことが出来るな。

 海老蔵に頼んでもう100人追加しようか。

 あ、でも今秋だから無理か。

 来月だなじゃあ。

 それにしても商業の成長がだいぶ早いな。

 道路整備の効果が出ているようだ。

 鉄産も投資の効果で150にアップしている。

 民忠が上がっているのは多分投資の効果だろうな。

 城も来月中には第1次普請は終了するので、この屋敷とも今月いっぱいまでか。

 特に感慨は無いな。

 では、来年のために大規模な開墾をするとしよう。

 石高をなんとか4桁にしたいところだ。

 と言うことは、今の倍は農地を作らなくてはいけない。

 ま、そのための道路整備でもあったのだが、一番外側の環状線沿いで、放射道路から距離がある地域を農地として開拓する。

 新規募兵対策として、兵舎を更に増設。

 道場ももう一件追加する。

 そうだ、この際だから領主直営の天ぷら屋でも始めようかな。

 特産品が天ぷらになるかもしれないな。

 どうなんでしょうシステム的に。

 ねえ、神様?

 あれ?

 もしもーし。

 返事が無いのは良いということなのかな?

 うーむ、本格的に臍を曲げたか、寝たかどちらかだな。

 まあ、今月はこんなもんだろう。

 では俺も寝るとしよう。



ここまでお読みくださりありがとうございます。

ブックマーク、感想書き込みありがとうございます。

是非最後までお付き合いいただければと思います。


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