↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/380

23 将を射んと欲すれば…


 手紙には稲葉宿で待つとしか書いておらず、何時とは書いていない。

 とりあえず、行けば分かるだろう。

 ただ、こちらは明後日、浅井の使者、遠藤直経との面談の予定がある。

 万が一があってはいけないので、稲葉宿には浅井の後に行くしかないな。

 まあ、3日ぐらいは待ってくれるだろう。

 浅井との面談は近江と尾張の中間。

 大垣宿で行うことが決まっていた。

 斎藤家の領地なので大丈夫なのかと思うのだが、向こうが言ってきたことなので大丈夫なのだろう。

 今回は馬で行くので、さほど時間はかからない。

 それでもここまで来るには1日掛かる。

 役職ももらい、お濃様の小袖も着て、お土産に「喫茶養生記」を差し上げようと思うので、これでかなり浅井との友好度はアップ出来るんじゃないかと思う。


 俺と柴田さんと坪内玄蕃は、朝一に出発して、夕方遅くには大垣に着いた。

 城下町見物をする暇もなく、明日の会談のための準備をする。

 柴田さんに相談するものの「すべてお主の考える通りで良い」と言うばかりで、全然アドバイスをしてくれない。

 まあ、居るだけでも箔が付く人だからかまわないんだけど、もうちょっと協力的でも良いんじゃないかと思うけどね。

 どういう運びになるか、出たとこ勝負なところもあるので、念のため柴田さんには「喫茶養生記」を一読してもらい、茶の湯の基礎を身に付けてもらった。

 そして、面談当日。

 面談会場である報恩寺というお寺に入る。

 小さな寺だが茶室っぽい部屋も有り、なかなか良い雰囲気である。

 浅井の方々は11時頃やってきた。

 こちらは9時前には既に待ち構えていたので、2時間以上待たされたことになるのだが、こういう交渉事では後から来る方が有利という説もある。

 先に相手の様子などを確認して、イライラソワソワしているなら、短気だろうから少々不利でも認めやすいとか、泰然としていれば逆に下手に出ようとか、作戦を立てやすくなるらしい。

 ただ、こちらとしては初対面だし、まさかいきなり待たせるなんて、現代人の感覚ではあり得ないので、真面目に朝からお待ちしておりました。

 浅井方からは遠藤直経と宮部継潤が出てきた。

 遠藤直経は、やはりゲームのイメージ通りで、いかにも強面の武闘派という感じである。

 対して宮部継潤はやっぱりお坊さんな感じで、にこやかな表情が印象的である。

 ただ、後から来たからと言って、お待たせして済まないとか、申し訳ないといった言葉も態度も無い。

 至極当然といった感じで、席に着いた。


 「初めまして。大谷吉子と申します」

 「遠藤喜右衛門である」

 「柴田権六にござる」

 「宮部継潤です」

 「坪内玄蕃でござる」


 一通り名のり終えたところで、最初にお土産を渡す。


 「ま、お近づきの印にこちらをどうぞ」

 「これは?」

 「浅井の御当主様に如何かと思いまして。あ、中身は中国のお茶の本です」

 「お茶?」

 「おや、喫茶養生記ではございませんか」

 「さすがは宮部様。よくご存じでらっしゃる」

 「なるほど、ありがたく戴いておこう」


 と、相手のガードが下がったところで、まずは軽いジャブから。


 「浅井長政様は当主になられる前に、既に六角承禎と一戦交え、これを打ち破ったと聞きました。とてもお強い方なのですね」

 「なに、前の御当主と方針が違うだけで、六角ごとき何時でも近江から追い出せるのだ」

 「前の御当主は弱腰だったと?」

 「そうでは無い。無益な争いを避けたまで。それよりは国内を充実させることに力を注いだのだ」

 「なるほど、ご立派な方ですのね」

 「現在は朝倉様の所で食客のような立場になっておりますが」

 「なので、織田の殿様には、絶対に朝倉と闘わないでもらいたい、とお伝え願えますかな。そうで無ければ同盟は果たせぬと」

 「わかりました、必ずお伝えいたします」


 それでも、前向きに検討してもらっているようで、案外すんなり行きそうな感じだがな。

 まあ、ここに居るのは同盟に前向きな2人だからだろうけど。

 浅井には海・赤・雨三将と呼ばれる宿将達がいる。

 それぞれ海北綱親、赤尾清綱、雨森清貞の頭文字を取って、浅井三将と称された。

 浅井ではこの三人が納得しなければ、話が進まないと言われるほど影響力が大きい。

 浅井久政を隠居させ長政を当主に据えたのも、この三人と言われている。

 遠藤直経も実力のある武将で、この三人と並び称されることもあるようだが、開明的な視野の持ち主である遠藤さんと、この三将とでは見ているものが少し違うのかもしれない。

 ここで玄蕃が、少し勇み足とも思える発言をする。


 「まだ気が早いと仰るでしょうが、長政様のお相手がまだ決まっていないご様子。織田信長様の妹君、お市様も浅井の若き御当主に興味がおありのようで、行く行くは…」

 「気が早すぎるわ!たわけ」

 「ちょっと玄蕃!まだ同盟を結ぶかどうかを検討している段階なんだから」

 「まあ、無事同盟の話しが進みますれば、そう言ったことも考えられますでしょう」

 「すみません、ちょっとこいつ先走る癖がありまして」


 もちろんこれも作戦のウチである。

 浅井には既に、同盟にあたり織田方の条件として、斎藤攻めに加わる必要は無いこと。

 六角を攻める際は、織田も兵を出す用意があること。

 六角を排除した後、南近江は浅井が治めることなど、かなり浅井側に有利な同盟となっている。

 それ程までに、この同盟を織田は求めている、ということを訴えることが狙いである。

 もちろん足もとを見られることもあるだろうが、それよりも関係構築を最優先と考えてますよという、意思表示だ。

 婚姻関係まで見据えているとあれば、長期的な同盟関係を求めているわけで、こっちから裏切ることはありませんよ、という意味でもある。

 浅井としても現在、朝倉以外全て敵と言って良い状態で、本来宿敵であったはずの六角に恭順してまで、領地を守らざるをえなかったことを考えても、織田との同盟は意義深いものではあるはずだ。

 織田は斎藤攻めに専念できるし、浅井も三好・六角の連合軍に対し織田が友軍として加わってくれるなら、十分対処しうるであろう。

 そこへ浅井が朝倉を攻めないことを条件に加えても、今は何の問題も無いように思える。

 だが、これが将来浅井の裏切りへと繋がってしまう遠因であることは、現代人の俺には分かっているので、これを何とかしなくてはいけない。

 そもそもの原因として、朝倉が一向宗と和睦し、彼らに活動拠点を与えたこと、美濃を攻略した後の織田と小競り合いを繰り返したことで、織田の敵と見なされてしまったことにある。

 この話は足利義昭という男の存在を抜きには語れないのだが、今はまだ義輝が健在であるため関係無い。

 だから、なるべく早く美濃を攻略し、上洛への道筋を付けることである。

 そして、出来れば義輝を三好に殺させないでおきたい。

 まだこちらは三好に手出しできる状態では無いため、そういう意味でも浅井との同盟は、急務である。

 お市様との婚姻はオプションみたいなものと考えて、まずは防共協定的なものを早急に結ぶ必要があるだろう。


 「さしあたっては、こちらが美濃を攻略する間、斎藤側に回らない確約だけでも、いただければと思います」

 「うむ、まずは家中の意見を聞いてみないと何とも申しあげられない。ただ、某の個人的な意見としては、この話、渡りに船というもの。むしろ婚姻まで話を進めて、強固な同盟関係とするのが望ましいと考えておる。だが、ご存じの通り家中には正反対の考えを持つ者も居るのでな」

 「ごもっともでございます、皆様のご意見を聞いた上でご判断ください」

 「某からもひとこと言わせてもらおう」


 これまでずっと沈黙していた柴田権六さんが、この時急にしゃべり出した。

 予定に無かったことなので少々驚いたが、止めるわけにも行かないのでそのままにしたが、いったいどういうつもりだ?


 「遠藤殿はなかなかに先を見通す眼力をお持ちのようじゃ。ならば、我が大殿がどのような思いで此度の話を持ちかけたかお分かりであろう」

 「某の眼力などへの突っ張りにもならんですわ。なかなか頑固者揃いの家臣団ゆえ、某ごときが何を言おうと簡単には聞き入れてもらえぬであろうな」

 「お市様はまさしく隔世の美女であり、兄様譲りの器量の持ち主。長政様もぜひ一度お会いいただければ、お考えも変わるやもしれませぬぞ」

 「わかりました、その件もお伝えはいたします。ただ、最後に決めるのは長政様でございますから」

 「もちろんでございます、じっくり検討してください。ですので次回お会いする日時も決めずにおきましょう。恐縮ですが、またそちらから日時と場所をお決めいただければと思います」

 「あいわかった」


 そのあとは少し世間話などをして、今回の面談はお開きとなった。

 初回としてはまあまあな感じではないだろうか。

 柴田さんには驚かされたが、どうやらお市さんのことを褒めたかっただけのようだ。

 いずれにしても問題は次回であろう。

 ここで話が進展していれば良し。

 さらに条件を加えてくるようなら厳しいかも知れない。

 浅井との同盟は清洲同盟と共に、重要な同盟関係である。

 まさに未来を決める決断と言って過言では無いのだ。

 本人達にその自覚があるかどうかはともかく。


 会談の内容を手紙にして玄蕃に持たせ、清洲に届けるように頼むと、俺はその足で稲葉の宿へ向かった。

 さあ、はたして大沢次郎左衛門は待っているだろうか。

 今からだと、到着は夜になってしまうだろうがな。


 結論から言えば、待っていてくれた。

 しかし、すっかり酔っぱらっていて、話もまともにできない状態だった。

 宿の人に聞いたところ、昼頃まではきちんとしていたらしい。

 だが、昼過ぎから「バカバカしい!真面目に待っていられるか!」と言って飲み始めてしまったそうだ。

 まあ、仕方がないな。

 明日の朝まで、付き合ってやるか。

 と思ったものの、2杯飲んだところで大沢次郎左衛門は完全に寝てしまった。

 それじゃ、俺も寝るとするか。


 朝、大沢次郎左衛門は全く爽やかじゃない顔をして現れた。

 間違いなく二日酔いだな。

 それでも、昨夜は失礼致したと詫びを入れてくるところは、真面目な人なんだなあという印象を受けた。

 そんな状態で食べ物の話をして大丈夫なんだろうかとも思うが、実際に作って食べるわけじゃないので良いだろう。

 というわけで、作り方を出力して渡そうとしたところ、お主が作って見せよと言う。


 「ええ?そんな状態で食べられるんですか?」

 「真に旨きものなら、これしきの二日酔い…うっぷ…」

 「あぁ〜、大丈夫ですかねぇ」

 「ほれ、この通り、特大の舞茸も持って来たぞ」

 「でっか!」


 まさしく一抱えはありそうな、巨大な舞茸である。

 こんなにたくさん要らないんだけどな。

 って言うか俺料理スキル無いから、上手くいかないんだよな。

 ちょっと神様〜。

 何とかならない?


 ※えーと、お話ししたとおり各スキルは3つまでという決まりがあることを覚えていますか?


 あー、そんなこと聞いた気がするね。


 ※ここで料理スキルを覚えると、製造スキルが1つ埋まることになりますがよろしいですか?


 大丈夫ですよ。

 どっかで料理スキル本、売ってない?


 ※この宿場町のよろず屋で売っています。

  「包丁聞書」というタイトルです。


 最近なにかと料理する機会が多いからな。

 一応女だし、覚えておいて損は無いだろう。

 大沢さんにはちょっと待ってもらって、早速よろず屋で本を購入。

 パラパラと捲っただけで再び神様がお出ましになられた。


 ※製造スキル「調理」を取得しました。

  効果:料理を美味しく作れる。

     食材を効率よく使える。


 この、効率よくというのは?


 ※例えば今回の場合、舞茸が1kgあるのですが、調理スキルがないと1kgでも5人前しか作れません。

  しかし、調理スキルがあれば20人前まで増えます。


 そんなに誰が食えるんだよ。


 ※その辺にいる皆さんにお裾分けしてはいかがでしょう。

  このあたりは斎藤家の支配下ですが、大谷さん個人の人気が上がれば、今後の交渉で有利に働くかも知れませんよ。


 そーですか。

 まあ、いいや。

 早速料理に取り掛かろう。

 炊き込みご飯にするうえで、大事なのは出汁である。

 この場合、合わせ出汁が良いかな。

 さらに舞茸だけではちょっと物足りないので、ゴボウに鶏肉を少々くわえてごはんと一緒に炊き込む。

 1時間ほどすると、あたりに美味しそうな匂いが漂う。

 今まで嗅いだことの無い、かぐわしい香りにつられて、本当にその辺に居る人たちが集まってきてしまった。

 調子が悪そうだった大沢さんも、すっかり待ちきれない様子である。

 炊き上がったご飯をいったん混ぜて、もう一度蒸らす。

 多少火を付けて焦げ目を付けると、尚よろしい。

 ということで、特製舞茸飯の完成です。


 「さあ、おあがりよ!」

 「いただきます!」


 口に入れた瞬間、舞茸と出汁の香りが混ざったうま味を含んだ蒸気が鼻孔を覆う。

 舞茸のプリッとした食感と、シャキッとしたゴボウの歯応えが絶妙のバランスで口の中で踊る。

 そこに鶏肉の油分も加わり、濃厚な味の乱舞を繰り広げる。

 あ〜自分で作ったのに旨めぇ!

 見れば、大沢さんは大粒の涙を流して食べている。

 あれだけ調子悪そうだったのに、もうガツガツ掻き込んで食べている。

 廻りのギャラリーもヨダレを垂らし、今にも襲いかからんばかりである。

 ちょっと身の危険を感じたので、揉めないように整理券を配って順番に食べてもらうことにした。

 大沢さんはあっと言う間に平らげてしまい、お代わりを欲しそうにしていたので、最後に残ったおこげの部分を特別に差し上げた。

 最初、何だ焦げてるじゃないかという顔をしていたが、食べてみてその香ばしさのあまり、またしても涙を流し、あっと言う間に食べ尽くしてしまった。

 ま、喜んでくれて何よりだ。


 「大谷殿!ワシは其方に謝らねばならぬ」

 「ああ、襲われたことなら仕方ないです。自分でもそうしたでしょうし」

 「いや、そのことでは無い」

 「はい?」

 「ワシは其方を嘘つきだと思っておった。天ぷらとやらも上手く作れなかったので、此度もどうせその場の言い逃れと思っておった」

 「あぁ…そっちね」

 「一生のお願いだ、天ぷらとやらも作ってくれんか」


 なるほど〜。

 これは何としても次に繋げなきゃいけませんね。


 「では次回、鵜沼城に天ぷらを作りにお伺いしましょう!」

 「うっ…それは…」

 「城の皆さんにも食べていただければ、ねえ、きっと喜んでくださるでしょう」

 「い、いまこの場ではダメか?」

 「だって、材料が無いですし…」

 「ぐぬぬ…そうか」

 「行かない方が良いですか?」

 「うぐっ……」

 「天ぷらはね、油の温度が難しいんですよ。でも適切な温度で揚がった舞茸は衣がサクッとして香ばしくて、噛むと舞茸のしっとりした食感と良い香りで、とっても美味しいんですよ」

 「え〜い負けた!是非天ぷらを作りに来ていただきたい!」


 フフフ。

 これで鵜沼城は落ちたな。



ここまでお読みくださりありがとうございます。


どうも皆さん食い意地が張りすぎなようです。

ひきつづきよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。