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15 一蓮托生

すみません。

遅れた上に短めです。


2021/07/13:一部言い回しを修正しました。

 「ところで吉子、そちらの見目麗しき女子(おなご)はどちらさんじゃ?」

 「あ、これは失礼。ご紹介が遅くなりました。こちら、あの名高い曲直瀬道三先生のお弟子さんの有沢節さんです」

 「節です」

 「まなせどうさん?」

 「なんだ藤吉郎知らんのか。京で有名なお医者じゃ」

 「はぁお医者様とは、その若さで」

 「その上とんでもない酒飲みでな」


 節さんは「ちょっとそういう余計な話は…」と言って、顔を真っ赤にしている。

 なんか可愛い人だなぁ。

 だが、そんな俺の感想とは真逆の鋭い眼光で、秀吉は節さんを見ていた。


 「そんな大層なお医者様のお弟子さんが、わざわざこっちまで来たってことは…」

 「おっと、こっから先は秘中の秘じゃ。聞くには覚悟がいるぞい」

 「お、おう…」

 「小六ダメダメ!関係無い人の命を危険に晒すなよ」

 「そ、そうじゃな。止めとこう」

 「いや、そこまで言ってそれは無いじゃろう!」

 「そうじゃそうじゃ、寸止めは良くない」


 男どもが好奇心に駆られ身を乗り出して聞こうとするのに対し、寧々さまは危険を察知してか、そそくさと立ち上がり「わ、私は、昼飯の支度があるから…失礼するよ!」と言って、部屋を出ていった。


 「お、おう、寧々は下がっとれ」

 「よし、ここでの話を他所でも聞いたら、ここの全員をワシが責任を持って斬る。これでええか?」

 「全員は厳しいな。私と節さんはもう知ってるんだし」

 「いや、同じことじゃ」

 「でも節さんは…」

 「私もそれで良いですよ」


 節さんは関係無いと言おうとしたが、本人がそれを遮るように言った。

 みなさん覚悟良すぎ。

 生と死が隣り合わせのこの時代、侍だけじゃ無く人々がもれなくこういう感覚になっているのだと痛感させられる。

 現代人の感覚に、未だにどっぷりの俺としては「……あ、そう」と、煮え切らない返事をする他は無かった。


 「決まりじゃな」

 「よし、各々宜しいか?」

 「もったいを付けるな。はよ言え」

 「信長様の側室は知っておるか」

 「おう、ワシも嘗て世話になった生駒様のご息女じゃ」

 「妹はワシの嫁じゃ」

 「えっ?まさか…」

 「実は吉乃様の産後の肥立ちが悪くての」

 「放置すれば命も危ないんだ」

 「織田家のお世継ぎをお産みなさったのに、そりゃいかんのう」

 「だが、生駒家としては穢れがどうのと言って公にしたくないらしく、織田家に仕えている医者には診せられないと言うんで、こうやってわざわざ京都まで行ってお医者さんを連れてきたというわけさ」

 「この話は信長様は知っちょるんか?」

 「いや。だから命がけと言うんじゃ」

 「なるほど…」

 「バレずに吉乃さんが回復するのが一番良いのだが、バレても回復すればまだ良い」

 「そうじゃ、死んでしもうたら関係者全員打ち首じゃぞ!」

 「分かったか?」

 「お、おう、えらいものに手を出してしまったのう」

 「でも、あの吉乃さんの様子を見ちゃうとね…」

 「いや、分かった。そこまで行ったら一蓮托生じゃ。ワシらも出来るかぎりのことはするぞ」

 「その言葉だけでも有り難いね」

 「いや、本心じゃぞ、聞いたからにはこっちも命がけじゃ」

 「そうか、じゃ何か頼めることがあったらお願いするよ」

 「おう」

 「そっちの話はそれで良いな」


 話の決着が着いたと見たのか、玄蕃が別件の話を進めたい素振りを見せた。

 昼飯をここで食べていくつもりだったが、そういうことなら一度領地に戻ってそこで話すか。

 俺が「それはウチで話そう」と言うと、「実は…」と玄蕃が既に、寧々さまを除くここに居る全員に話してあると言うのだ。


 「ちょっと!何でそういう勝手なことするのさ」

 「いや、ワシもあの男には手をこまねいておっての」

 「はあ?任せろって言ってたじゃん」

 「だから、ここに居る全員で事に当たる以外無いと思うんじゃ」

 「えぇ〜?そんなに厄介なヤツなの?」

 「だから、ほれ、飯食ってけ」

 「えぇ〜…」


 なんだよそれ、と思いつつ、さっきの話の流れから行けば、もはやこいつらと運命共同体にならざるを得ない。

 まあ、川並衆勢揃いで当たれば大沢さんも態度を変えるかも知れないからな。

 俺は節さんに目配せして、それとなく外すように促す。


 「あっ、それじゃあ、私お昼のお手伝いしてきますね」

 「おぉ、済まんの」


 節さんの足音が遠ざかるのを確認して、玄蕃の方に目を向ける。

 玄蕃は頷き「では」と言って話しはじめた。


 玄蕃の話によると、大沢次郎左衛門はとにかく斎藤家に疑われるような真似は絶対にしたくないらしい。

 恐らくこちらの意図を見透かしているに違いない。

 鵜沼城と斎藤家をめぐる情勢と、斎藤家そのものの攻略の糸口として、どういう手段が考えられるか、川並衆の2トップと嘗てのトップ、さらに織田家中で伸び盛りの木下秀吉と俺が意見を戦わせた結果、結論として大沢次郎左衛門の心変わりを待つより、斎藤家内部に疑心暗鬼の火種を起こす方が簡単だと言うことだった。

 何より斎藤龍興の若さと、その行動が自らの首を絞めることになるだろうと言う意見で一致した。

 だからと言って、依頼を受けてしまった以上、何らかの手を打たないわけには行かない。

 どれだけ交渉しようとしても、頑として譲らないのであれば、面会したという事実を作る以外の方法をとる必要がある。

 例えば、ニセの密書を置いておくとか、織田家中の者との接触を匂わす物でも土産として送りつけるとかである。

 そうなると、とてもじゃないが金4000で収まる話じゃ無くなる。

 ただまあ、先々のことを考えれば、ここでタダ働きしてでも調略の流れを作っておいた方が、今後攻略する上で、敵の結束を崩すことが容易くなるだろう。

 まだまだ織田家中では新参者である我々が、今後中心的な役割を担えるかどうかも、この任務の成否に掛かっていると言っても過言ではない。

 だいたいの流れは決まった。

 ここからは、では実際にどういう手段を取るかである。

 誰が何をやるかでも良い、具体的な話を詰めなくてはならない。

 川並衆の面々も、それぞれ得意分野というものがある。

 統率力では前野長康。

 武力では蜂須賀小六。

 知略では坪内玄蕃。

 そして、経済力で木下秀吉。

 俺はまあ情報収集担当だろうな。

 会議の取っかかりとして、俺がまず斎藤家の家臣団とその系統図を書き上げた。

 スラスラと何も見ずに偉い人順に名前を書く姿を見て、一同感心していた。

 こっちの内部では家臣の一覧表をただ順番に並べただけなんだけどね。

 書いていて思ったが、やはり美濃の武将は優秀な人が多いな。

 この人達がまともに機能してたら、こっちが逆に占領されててもおかしくなかっただろう。

 まずは美濃三人衆と呼ばれる、安藤守就、稲葉良通、氏家直元。

 さらに、史実では後に秀吉の軍師となる竹中重治。

 他にも不破光治、原長頼、遠山友忠、加藤光泰など、その後織田家で名を上げた武将が数多くいる

 明智光秀も以前は斎藤家の家臣だったことを考えると、斎藤道三がもうちょっと息子を信用していたら、斎藤家が天下を取っていても何ら不思議は無かっただろう。

 即ち、これらの家臣団がまともに機能しないようにする必要がある。

 つまり、龍興を孤立化させるのだ。

 色々手段は考えられるが、史実では流言飛語の類が意外と効果的で、特に稲葉山城に詰めている武将の間に広まれば、難攻不落の稲葉山城も内部から崩壊させることが出来るかもしれない。

 俺は史実を知っているので、竹中半兵衛あたりが攻めどころと分かっているのだが、ここに居る人たちはまだ彼の実力を量り切れてないようだ。

 一致しているのは、美濃三人衆を重用させてはならないという事だ。

 だから、むしろ龍興側に三人衆は信用ならないと吹き込むのが手っ取り早い。

 やはり問題は手段なのである。

 これに関しては、意見百出でなかなかまとまらない。

 なので、今は意見を出すだけ出して、後でふるいに掛けることにする。

 他にも使者として立てるのが小六のままで良いのか、とか細々とした議題が次々と出されていった。

 そんな感じで会議は結局朝まで続いてしまった。

 寧々さまと節さんは、いつの間にか仲良く一緒に寝ていた。

 朝、鳥の鳴く声を聞いてもなお、意見がまとまらない様子なので、仕方なく各自一旦持ち越しとなった。

 まず、先に節さんを小折城に送り届けなくてはならない。

 そこで必要な物があれば手配するなどして、その後もう一度寄り合って再び攻略法を話し合うことにした。

 ひとまず3日後に、今度は俺の領地に集合することを約束して今回は解散となった。


 次の日、小折城に向けた三人旅が再開された。

 眠そうな小六を尻目に、節さんはすこぶる元気そうである。

 久々に寧々さまと女同士の話ができて楽しかったそうだ。

 俺の場合、中身はオッサンだからな。

 ガールズトークなんぞ出来るわけが無い。

 節さんは道中、最初のうちは楽しそうに話していたが、小折城に近づくにつれ徐々に口数が減っていき、那古野城を過ぎてからはほとんど会話もしなくなってしまった。

 やはり緊張というものもあるのだろう。

 何しろ命がけである。

 すっかり京都にいる時の節さんに戻っていた。


 小折城に着いたのは結局、深夜になってしまった。

 生駒家長は城には居らず、家臣の方が一人ずつ泊まる部屋を用意してくれた。

 明日の朝、一番で吉乃さんのところに行くことを家臣の方に告げ、我々は眠りについた。


ここまでお読みくださりありがとうございます。

ちょっと3日ごとの更新が難しくなってきました。

やはり素人に連載2本は無謀だったかもしれません。

少し更新のペースが落ちるかも知れませんが、ひきつづきよろしくお願いします。

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