第6話 無能魔王、拠点を守る 前書き
拠点を見つけたノアたち。
しかし、そこは“空いていた場所”ではなかった。
今回は「拠点防衛+初めての集団戦」です。
夜は、思っていたより静かじゃなかった。
火は小さくしている。
煙が目立たないように、風向きも見ている。
見張りも立てた。
それでも。
落ち着かない。
理由は一つ。
あの咆哮だ。
森の奥から聞こえた、低く重い鳴き声。
あれはただの獣じゃない。
「……起きてる?」
隣から小さな声。
ミアだ。
「起きてるよ」
「やっぱり」
ミアは寝転がったまま、空を見ている。
子どもたちはもう寝ている。
大人もほとんどが疲れて眠っている。
でも、何人かは起きている。
トルグもその一人だ。
焚き火の向こうで、弓を抱えたまま目を閉じている。
寝ているようで、寝ていない。
「さっきの、何だと思う?」
ミアが聞く。
「分からない」
「分からないの多くない?」
「分からないものは分からないからね」
ミアは少しだけ笑った。
でも、その耳はずっと森の方を向いている。
警戒している証拠だ。
「でも」
僕は続ける。
「来るなら、こっちから行く必要はない」
「待つってこと?」
「うん。ここはもう僕たちの拠点だから」
ミアはその言葉を聞いて、少し黙った。
「……拠点、か」
「違う?」
「いや……なんか実感出てきた」
火がぱち、と小さく弾ける。
その時だった。
――ガサッ。
森の方から、明確な音。
ミアの耳がぴくりと動いた。
「来た」
小さく呟く。
僕はゆっくり立ち上がる。
「起こす?」
「まだいい」
音は一つじゃない。
複数。
でも、さっきの咆哮ほど大きくはない。
つまり――斥候か。
「様子見だね」
僕は前に出る。
盆地の入口。
南側の開けた場所。
そこに影が現れた。
小さな影。
でも、数が多い。
狼に似た魔物。
ただし普通の狼じゃない。
目が赤い。
牙が長い。
そして、動きが揃っている。
「……群れ」
トルグがいつの間にか起きていた。
「ブラッドウルフだ」
「強い?」
「普通の人間なら死ぬ」
「分かりやすいね」
ミアが小声で言う。
「ノア的には?」
「まあ、普通」
「その“普通”信用できないんだけど」
ブラッドウルフたちはこちらを見ている。
距離を保っている。
飛びかかってこない。
「様子見してる」
トルグが言う。
「数が多い……二十はいる」
確かに。
単体なら問題ない。
でも、集団で来るなら話は変わる。
村人たちも起き始めた。
不安そうな顔が増える。
「ノア様……」
ガルドが近づいてくる。
「どうしますか」
僕は少しだけ考える。
ここで一気に全部倒すのは簡単だ。
でも、それだと意味がない。
僕一人で全部やる国にはしない。
「ミア」
「なに?」
「みんなを集めて」
「え?」
「戦う準備」
「戦うって……この人数で!?」
「うん」
ミアは一瞬固まった。
でも、すぐに動いた。
「みんな! 集まって! ノアがなんかやるって!」
「雑じゃない!?」
「今はこれでいいの!」
人が集まる。
震えている人もいる。
武器なんてまともにない。
槍もどきの棒。
ナイフ。
石。
それでも、逃げてはいない。
「聞いて」
僕は全員を見る。
「僕が全部倒すこともできる」
ざわめき。
「でも、それはやらない」
さらにざわめく。
「え、なんで!?」
ミアが普通に聞いた。
「次も来るから」
僕は答える。
「その時、僕がいなかったら終わる」
村人たちが静かになる。
それは想像できたのだろう。
「だから、やり方を覚える」
「やり方……?」
トルグが眉をひそめる。
「この数を、どうやって倒すか」
僕は地面に線を引いた。
簡単な陣形。
「前に出るのは三人。トルグ、あと二人」
「俺か?」
「うん。狩人でしょ」
トルグは少し迷ってから頷いた。
「……分かった」
「後ろは石と槍。子どもは絶対前に出ない」
「はい!」
さっきの足跡係の少年が元気よく返事した。
「ミアは?」
「え、私!?」
「遊撃」
「なんかかっこいい!」
「横から来たのを止めて」
「やっぱり大変そう!」
少しだけ笑いが起きる。
でも、緊張は消えていない。
ブラッドウルフたちは、じりじりと距離を詰めてくる。
もう時間はない。
「最後に一つ」
僕は言う。
「怖くていい」
全員がこちらを見る。
「でも、隣に人がいることだけ忘れないで」
沈黙。
それから、誰かが小さく頷いた。
「……やるぞ」
トルグが前に出る。
槍を構える。
その瞬間。
ブラッドウルフの群れが、一斉に動いた。
速い。
一匹じゃない。
十匹以上が同時に突っ込んでくる。
「来る!」
トルグが叫ぶ。
最初の一匹が跳びかかる。
トルグが槍を突き出す。
当たる。
だが浅い。
ブラッドウルフは止まらない。
その横からもう一匹。
牙が振り下ろされる。
「ミア!」
「任せて!」
ミアが横から飛び込む。
体当たりで軌道をずらす。
二匹目が地面に転がる。
「今!」
「おう!」
後ろから石が飛ぶ。
ブラッドウルフの頭に当たる。
動きが止まる。
そこへ槍。
今度は深く刺さった。
血が飛ぶ。
初めての一体。
「や、やった……!」
誰かが呟く。
でも終わりじゃない。
次が来る。
群れは止まらない。
「押されるな!」
トルグが叫ぶ。
僕は少し後ろで見ていた。
手を出そうと思えば出せる。
でも。
「まだ大丈夫」
小さく呟く。
危険な一撃だけ、ほんの少し軌道をずらす。
誰にも気づかれない程度に。
完全には助けない。
でも、死なせない。
そのバランスを取る。
戦いは続く。
一体。
二体。
三体。
少しずつ、ブラッドウルフの数が減っていく。
そして。
最後の一匹が、逃げた。
静寂。
荒い呼吸。
倒れた魔物。
立っている人間。
誰もすぐには動かなかった。
それから。
「……勝った?」
ミアが言う。
「勝ったね」
僕は頷いた。
次の瞬間。
歓声が上がった。
「やったぞ!」
「倒した……!」
「生きてる……!」
涙を流す人もいる。
笑っている人もいる。
震えている人もいる。
でも、全員が立っている。
それで十分だ。
トルグがこちらを見る。
「……やれたな」
「うん」
「正直、無理だと思ってた」
「僕も少しだけ思ってた」
「思ってたのかよ!」
ミアが突っ込む。
僕は少し笑った。
これでいい。
最初はこれでいい。
戦えた。
守れた。
それが積み重なれば、国になる。
僕は空を見る。
森の奥。
まだ何かいる。
あの咆哮の主は、出てきていない。
でも。
「準備はできた」
僕は小さく言った。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
第6話では初めて「全員で戦う」展開になりました。
ノアだけの力ではなく、少しずつ“組織として戦える形”になってきています。
次回は
・森の主の正体
・さらに強い敵
・拠点の本当の試練
になります!
次回、無能魔王、本当の脅威と対峙する。
面白いと思ってもらえたら、ブックマーク・評価お願いします!




