第2話 無能魔王、初めての家臣を得る
奈落から生還したノア。
第2話は「初戦闘+仲間化」です。
※今回はちゃんと戦います。
荒野の風は、乾いていた。
砂が舞うたびに、視界が少しだけ白く霞む。
遠くには岩山が連なり、空はくすんだ灰色のまま動かない。
何もない。
正確には――何も“なさすぎる”。
「……ごめん、さっきの訂正していい?」
隣を歩いていた少女が、ぽつりと言った。
「何を?」
「ここに国作るの、無理じゃない?」
僕は少し考える。
見渡す限り、荒野。
草もない。
水も見えない。
「まあ、ちょっとハードモードだね」
「ちょっとじゃないでしょ!?」
いい反応だ。
僕は小さく笑う。
「でも、ゼロから作る方が楽しいでしょ」
「楽しいかどうかで国作るの!?」
「重要だよ。続かないと困るし」
少女は頭を抱えた。
「……ほんとに大丈夫なの?」
「たぶん」
「たぶん!?」
不安そうな顔。
当然だ。
突然現れた謎の少年に「国作ろう」と言われて、はい分かりましたと頷く方がおかしい。
「そういえば、名前聞いてなかったね」
「あ……」
少女は少しだけ迷ってから言った。
「ミア」
「ミアか」
覚えやすい。
「僕はノア」
「それは聞いた」
「じゃあ交渉成立だね」
「何も成立してないよ!?」
ツッコミが早い。
悪くない。
その時だった。
風の音が変わった。
微かに混じる、鉄の匂い。
血と、油と、戦の気配。
僕は足を止める。
「ミア」
「なに?」
「さっきの兵、あれで終わりじゃないみたい」
ミアの顔色が変わった。
「え……?」
次の瞬間。
地面が震えた。
重い足音。
複数ではない。
もっと重い、もっと強い――“個”の気配。
岩山の陰から、それは現れた。
全身を黒い鎧で覆った巨体。
手には大剣。
目の部分だけが赤く光っている。
「……嘘でしょ」
ミアが震える。
「“処刑兵”…」
「知ってるの?」
「戦争の魔王の直属……逃げられない相手」
なるほど。
つまり、ちょっと強いってことか。
処刑兵はゆっくりとこちらを見る。
「標的確認」
低い、機械のような声。
「対象:ノア」
少しだけ面白い。
ちゃんと名前が伝わってる。
仕事が早い。
「排除を開始する」
大剣が持ち上がる。
空気が裂ける音。
「ノア、逃げて!」
ミアが叫ぶ。
でも僕は動かない。
「大丈夫」
「どこが!?」
「まだ試してないことがある」
僕は右手を上げる。
処刑兵が踏み込む。
速い。
巨体に似合わない速度。
大剣が振り下ろされる。
普通なら終わりだ。
でも。
「自作魔法」
空間に文字が走る。
「拒絶結界」
――ガンッ!!
金属がぶつかる音。
大剣が、僕の目の前で止まった。
見えない壁に阻まれている。
「……っ!?」
ミアが息を呑む。
処刑兵がさらに力を込める。
だが、届かない。
一歩も。
「近づくっていう行為を、ちょっと禁止してみた」
「なにそれ意味分かんない!」
「僕も説明はできない」
処刑兵が一度距離を取る。
そして、剣を構え直した。
今度は魔力が集まる。
赤い光。
グラムの力。
「魔力強化……!」
ミアが叫ぶ。
「次は防げないよ!」
「そうかもね」
僕は頷く。
「じゃあ別の方法にしよう」
処刑兵が突撃する。
地面が割れる。
速度がさらに上がる。
今度は確実に当てるつもりだ。
なら。
「自作魔法」
僕は静かに言う。
「反逆詠唱」
空間が歪む。
処刑兵の周囲に浮かんでいた魔力が、一瞬でねじれる。
「……?」
処刑兵の動きが止まった。
いや、違う。
動けない。
「その魔法、借りるね」
僕は軽く指を鳴らす。
次の瞬間。
処刑兵の体にまとっていた赤い魔力が――僕の手元に移動した。
「え……?」
ミアが固まる。
処刑兵が初めて“困惑”の動きを見せた。
面白い。
「使い方は、こうかな」
僕はその魔力を圧縮する。
形を整える。
剣じゃない。
もっと単純でいい。
「投げる」
赤い魔力の塊を、軽く放った。
――ドンッ!!
衝撃。
処刑兵が吹き飛ぶ。
岩に叩きつけられ、地面を転がる。
「……うん、使えるね」
僕は小さく頷いた。
処刑兵は立ち上がろうとする。
だが動きが鈍い。
装甲が歪み、魔力の流れも乱れている。
これで終わりでもいいけど。
「せっかくだし」
僕はもう一度手を上げる。
「黒炎葬送」
黒い炎が走る。
今度は装甲を焼く。
じわじわと。
逃げ場をなくすように。
処刑兵が崩れ落ちた。
動かない。
完全に停止。
静寂が戻る。
風の音だけが、また荒野に流れた。
「……終わった?」
ミアが恐る恐る聞く。
「たぶん」
「たぶん!?」
同じ反応、二回目。
僕は少しだけ笑った。
「強かった?」
「普通よりは」
「普通って何!?」
ミアは完全に混乱している。
でも、さっきより表情が明るい。
恐怖が、少しだけ消えている。
それでいい。
僕は処刑兵の残骸を見る。
「素材として使えるかな」
「素材!?」
「国作るなら、こういうのも必要だよ」
「発想が怖い!」
でも、間違ってない。
資源は重要だ。
僕は振り返る。
「ミア」
「な、なに?」
「改めて聞くけど」
手を差し出す。
「僕の国に来る?」
ミアは少しだけ黙った。
風が吹く。
荒野。
何もない世界。
でも、その中に僕がいる。
そして今。
彼女もいる。
「……本当に、守ってくれる?」
「うん」
即答した。
迷いはない。
「じゃあ」
ミアは、ゆっくりと手を伸ばす。
そして――握った。
「行く」
その瞬間。
何かが、確かに始まった。
城もない。
兵もいない。
国なんて、まだどこにもない。
でも。
最初の家臣がいる。
それで十分だ。
「決まりだね」
「ほんとにいいのかな、これ……」
「大丈夫。なんとかなるよ」
「根拠は!?」
「僕がいる」
ミアは少しだけ黙ってから。
小さく笑った。
「……それ、ずるい」
「そう?」
「うん。でも」
彼女は前を向く。
「嫌いじゃない」
いい返事だ。
僕は歩き出す。
荒野の向こうへ。
まだ何もない未来へ。
「次は?」
ミアが聞く。
「食料」
「やっぱりそこ!?」
「重要だよ」
笑い声が、また風に混じった。
その遠くで。
戦争の魔王の領域が、不穏に揺れている。
ノアの存在は、もう隠せない。
なら、いい。
どうせ戦うことになる。
だったら――
「準備しようか」
僕は静かに言った。
「国を作るために」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
無能魔王ノア、初戦闘でいきなり“やりたい放題”です。
そしてついに――最初の家臣、ミア加入!
次回は
・食料探し(のはず)
・でも普通にトラブル発生
・少しずつ“国っぽさ”が出てきます
※次回も戦闘あり+ちょっと日常あり
「続き気になる!」と思ってもらえたら
ぜひブックマーク・評価お願いします!
次回、無能魔王、初めての“生活”開始。




