第1話 無能魔王、処刑される
無能と呼ばれた魔王が、裏切られて落とされて、それでも全部ひっくり返す話です。
※ショタだけど中身は元魔王です。
魔王会議の間は、静かすぎた。
音が消えている。
足音も、呼吸も、存在そのものが押し潰されているみたいに。
円形の広間に並ぶ六つの玉座。
そのうち一つだけが、黒い鎖で封じられていた。
僕の席だ。
「ノア」
低い声が響く。
戦争の魔王グラム。
大きすぎる体。
傷だらけの腕。
その視線だけで、普通の人間なら気絶する。
「お前は今日をもって魔王の資格を剥奪する」
あっさりした言い方だった。
でも、その言葉は重い。
世界のルールを変えるくらいには。
なのに――誰も驚かない。
支配の魔王セレスティアは微笑んでいる。
生命の魔王イグドラは目を閉じたまま。
創造の魔王バルガンドは退屈そう。
死の魔王ネクロスは、ただ僕を見ていた。
みんな、知ってたんだ。
最初から。
僕がここで消されるって。
「理由、聞いてもいい?」
僕は静かに言った。
怒ってない。
焦ってもない。
ただ、確認。
グラムの眉が動く。
「まだ余裕か?」
「余裕じゃないよ。ただ、どうしてそうなったのか気になるだけ」
空気が変わる。
圧力。
五人分の魔王の力が一気に降りかかる。
重い。
普通なら立ってられない。
でも僕は、動かなかった。
「ノア」
セレスティアが笑う。
「あなたは危険すぎるのよ」
「無能の僕が?」
「ええ。無能だからこそ」
彼女の目が細くなる。
「あなたには“型”がない」
型。
グラムは戦争。
セレスティアは支配。
イグドラは生命。
バルガンドは創造。
ネクロスは死。
みんな、自分の“役割”を持ってる。
でも僕には、それがない。
決まった力がない。
決まった領域がない。
だから――無能。
六人の中で一番弱い魔王。
そう言われてきた。
「底が見えないものは怖いの」
セレスティアは言う。
「だから、消すの」
「そっか」
僕は頷いた。
納得じゃない。
ただ理解しただけ。
「最後に言いたいことは?」
グラムが聞く。
「特にないよ」
即答。
「……本当に?」
「変わらないなら、意味ないでしょ」
少しだけ沈黙。
そして――
「消えろ」
世界が壊れた。
落ちている。
どこまでも。
上も下も分からない。
体が壊れていく。
魔力が削られていく。
存在が薄くなる。
完全な処刑。
普通なら、ここで終わり。
でも。
「……なるほど」
僕は落ちながら呟いた。
「だから危険、か」
全部、奪われていく。
でもその代わりに。
気づいた。
「ああ……そういうことなんだ」
僕の力は、最初から一つ。
ただ、それはどれにも当てはまらなかった。
炎でもない。
氷でもない。
支配でもない。
だから無能って言われた。
でも違う。
「枠が合ってなかっただけだ」
手を伸ばす。
何もない空間に。
「作ればいい」
文字が浮かぶ。
見たことのない魔法式。
「これは、炎」
黒い炎が生まれる。
「黒炎葬送」
空間が壊れた。
奈落が裂ける。
そして僕は――地面に立っていた。
荒野。
何もない。
城もない。
仲間もいない。
「……何もないね」
思わず口に出た。
世界征服するには、だいぶ足りない。
「まあいいか」
僕は歩き出す。
「国って、人がいないと始まらないし」
その時。
遠くから足音。
振り向く。
小さな影。
ボロボロの少女。
獣人だ。
その後ろから兵士たち。
「逃げて!」
少女が叫ぶ。
自分が追われてるのに。
面白い子だ。
「うーん」
僕は兵士を見る。
そして少女を見る。
「じゃあ君、僕の国に来る?」
「は?」
「今ちょうど人を探してたんだ」
「タイミングおかしくない!?」
いい反応。
僕は少し笑った。
「大丈夫。守るから」
兵士たちが迫る。
「そいつを渡せ!」
「断るよ」
僕は手を上げる。
「自作魔法」
空間が歪む。
「拒絶結界」
兵士たちが弾き飛ぶ。
「なっ!?」
「うん、やっぱり使えるね」
黒い炎を灯す。
「黒炎葬送」
武器だけが消える。
兵士たちは逃げた。
静かになる。
少女が僕を見る。
「……あなた何者?」
「ノア」
「いやそれ名前」
「元魔王」
「意味分かんない!」
僕は手を差し出す。
「来る?」
「どこに?」
「僕の国」
「だからないでしょ!」
「これから作る」
少女は頭を抱えた。
でも、少し笑った。
それでいい。
「行こう」
僕は歩き出す。
何もない荒野。
でも問題ない。
僕はもう知ってる。
国は、魔法で作るものじゃない。
人で作るものだ。
そして今。
最初の一人がいる。
「まずはご飯探そっか」
「スケール小さい!?」
笑い声が響いた。
世界のどこかで、魔王たちが動き出す気配がする。
でもまだいい。
今は。
この一歩で十分だ。
(続く)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
無能魔王ノア、まさかの「国民1人スタート」です。
世界征服どころか、まずはご飯から始まります。
次回は
・初めての共同行動
・ちょっとした戦闘
・少女の正体のヒント
が出てきます。
※次回、戦闘あり+ちょっと笑いもあり
「続き気になる!」と思ってもらえたら
ブックマーク・評価ぜひお願いします!
次回、無能魔王、初めての“仲間”と生き延びる。




