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第六話 ダンジョンブレイク

「今日は噂のゴーレム討伐でもするか」


昨日、クソみたいな食事会を経て、俺が唯一得られた収穫がゴーレムに関する情報。


――近くのダンジョンにいると聞いてここに来たのだが


ダンジョンの中は薄暗い。

所々、壁についているランプによって、かろうじて明るみを保てている。


――まぁとりあえず進んでみるか。


すると、奥の方から何かやってくる。


「きたな」


お目当てのゴーレムの登場だ。

図鑑に書いてあった通りの見た目だ。

その図体は人間よりもはるかに大きく、岩のような物質でできている。


よし、新しく手に入れたスキルを使うとしますか。


「たはは」


俺はゴーレムに向かって、”苦笑”した。


――どれどれ。


『摩擦係数増減 10%』

『+か-を選択してください』


――さすがに、感情がこもってないから値は小さいな。

まあ、いい。軽くしてみよう


俺は-のボタンを押した。


次の瞬間。


「!?」


ゴーレムの体勢が、一瞬崩れた。

ローションで濡れた床の上に立っているかのように、足元がツルリと滑りかける。

巨体が、わずかによろめく。


――いけるな、これ。


あの巨体が、右往左往している姿は実に面白い。

自らを守るはずの重い岩が、今や自らの動きを縛る足枷になっている。


「ぷふぁw」


俺は”嘲笑”した。


    《質量》 

-50% ← → +50%


――《質量》-50%


――どうだ。


次の瞬間。


ゴーレムはもはや立つこともままらずに、床に転げ落ちた。


――やべぇ。くそおもろいんだが。


思わず、口角が上がった。


そのまま動けなくなったゴーレム。

俺は近づいて一方的に、刺し殺した。


――ふぅ。この調子でレベル上げでもするか。


硬いが、身動きが取れないゴーレムは格好の獲物だ。

俊敏性があり、刃物を持っているゴブリンよりも倒しやすいかもしれない。


レベルアップしました(9→10)。スキルポイント6を獲得します。



――よし。今日はこの辺にしときますか。どのスキルに振るか、後で考えるとしよう。


俺はもと来た道を戻った。


――にしても。簡単だな、モンスター討伐って。

俺のスキルが強いのか、敵が弱いのかどっちなのか分らん。


すると、どうやら周りが騒がしい。


――ん、なんだ。


俺は来た道をずっと戻っている。


ダンジョンの構造を簡単に説明すると、通路があって、所々二手に分かれてる。

俺は来る道を全て左を選んできた。


そして、どうやら右の方の通路から、何か声が聞こえる。


「大変だぁぁ!ダンジョンブレイクだ!」


――ダンジョンブレイク?何だそれ。少し気になるな。見てみよう。


叫び声を辿っていくと、見たことのない空間へと繋がった。


ずっと狭い通路だけがダンジョンだと思っていたが、そうではないらしい。


――広いな。


っていうか、何で叫んでる――


「キャァァァァァッァッァ!!!」

「うわぁぁぁぁっぁぁっぁぁ!!!」


視線の先に、悲鳴を上げる冒険者たちがいた。

なぜこの人たちが悲鳴を上げているのか。その答えは、すぐ分かった。


――でかい。

ゴーレムより、遥かにでかい。緑がかった灰色の肌は分厚く、全身に無数の傷跡が刻まれている。

頭は小さく、その割に顎が異様に張り出していて、黄ばんだ牙がはみ出している。

目は小さいが、鈍い光を宿していて、それが逆に不気味だ。


そして何より――その右手に握られた、巨大なこん棒。

木を丸ごと引っこ抜いたかのような代物で、地面に引きずるたびに床が軋む。

振り回すだけで、そこら辺の生物なら恐怖のあまり逃げ出すだろう。


――あの生き物はなんだ。


「もう無理だよぉぉ!!」


泣き叫ぶ冒険者たち。すでに何人かが、地面に倒れて動かなくなっている。


――助ける義理なんてあるのか。


俺があいつを楽に倒せるほど強かったなら、話は別だ。

だが自分の命を賭してまで、見ず知らずの人間を助けることはできない。


悪いが、ここは帰らせてもら――


「ちょっと、あなた!トロルを倒すの手伝って!」


突然、背後から声が飛んできた。

振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。冒険者だろうか。周囲の混乱をよそに、こちらをまっすぐ見ている。


「悪いけど、俺には関係――」


「お願い!このままじゃ全員死んじゃう!あなた、さっきゴーレムを軽々倒してたでしょ!見てたんだから!」


――見てたのかよ。


「俺は別に強くなんか――」


「いいから!細かい話は後!」


有無を言わせない。そのまま腕を掴まれ、引っ張られた。


――なんなんだこいつは。


「私はフィオナ。あなたは?」

「……ショウタ」

「ショウタね。作戦を話すから聞いて」


作戦。この混乱の中で、この女は冷静だ。


「私が囮になってあいつの注意を引く。その間にあなたはスキルであいつを弱体化させて。ゴーレムに使ってたのと同じのを」


――それだけなら、まぁ


「……分かった」


気づいたら、頷いていた。


フィオナが前に出る。


「こっちよ!」


トロルの小さな目が、フィオナへと向く。こん棒を引きずりながら、ゆっくりと向き直る。


今だ。


「ぷふぁw」


俺は"嘲笑"した。


《質量》+50%。


「――ん?」


トロルの動きが、急におかしくなった。

さっきまでの重々しい威圧感はそのままに、体だけが言うことを聞かなくなったかのようだ。

自らの体を支えることが困難になる。

そのため、機動力の低下はもちろん、まともな攻撃動作も行うことが出来ない。


「今よ!」


フィオナが一気に踏み込んだ。的確に、トロルの膝裏へと剣を叩き込む。


バキッ。

「ガァァァァッ!」


膝から崩れ落ちるトロル。巨体が地面に叩きつけられ、ダンジョン全体が揺れた。


――速い。そして攻撃も滑らかだ。あれは熟練の冒険者だな。


「もう一撃」


フィオナが静かに言った。


――これは勝ったな。


俺は勝利を確信した。しかし――



「ぐおおおおおおおおおお」

「うっ!?」


トロルは瞬時に攻撃態勢を取り戻し、反撃を行った。

そしてそのまま、先ほどと同様のスピードを保っている。


俺はとある違和感に気づいた。


ゴブリンとゴーレム、そしてこいつでスキルの適用時間が違った気がする。

ゴブリンの時より、ゴーレムやこいつと戦った時の方が効果が切れるのが早かった。


――もしかして、スキルの持続時間は"相手の強さ"に依存するのか。


スキル【冷笑】以外、説明欄に持続時間の記載がない。

とはいえ、永久に効果が続くはずもない。何かしらの条件があるはずだ。


――そういうことか。


強い相手ほど、効果が短い。それがこのスキルの隠れた制約だ。


――なら


「ぷふぁw」


「ぷふぁw」


何度も同じことを繰り返すまで。


「ぐぁ!あっ!ああああああ!」


フィオナはまともに身動きがとれないトロルを一方的に切り続ける。


――これは勝負あったな。


そしてついにフィオナがとどめを刺した。


レベルアップしました(10→17)。スキルポイント10を獲得します。


――お。一気に上がったな。


俺は討伐し、レベルが上がった喜びを噛み締める。


「ありがとう。手伝ってくれて」

「別に。こちらこそ、感謝する」


短いやり取りの後、俺は改めてフィオナを見た。

さっきまで戦闘の混乱でよく見えていなかったが――相当な美女だ。

長い黒髪、切れ長の目に、凛とした顔立ち。

戦闘後だというのに、乱れた様子が微塵もない。


――なんというか、強さと美しさが同居しているな。悪くねぇ。


「今回の件は私が冒険者ギルドに報告しておくわ。あなたは何もしなくていい。」


――そうか。助かる。


「ではこれで――」



ガシャァァァン!


――なんだ!?


「何が起きたの?」


自由落下するような感覚。


「うっ!?」


――どこだ、ここは。


気が付くと、見知らぬ空間へと誘われていた。


辺りを見渡して、すぐに理解した。

火山の内部、あるいはそれに近い場所だ。

足元は黒く焦げた岩盤で、あちこちの亀裂から溶岩が噴き上がっている。


――ダンジョンの中に、こんな場所があったのか。


「暑い。どこなのよ、ここ。」

「知らねぇ。」


――お前が知らないなら、俺が知ってるはずがないだろ。


「というより、元に戻る方法を探さないとだめね――っていうか、あの像は何かしら」


視線の先には、騎士のような像が佇んでいた。


――不気味だ。今にも動きそうだ。


溶岩の赤い光を受けて、その像は不自然なほどくっきりと影を落としている。

全身を甲冑で覆った騎士の形。

だが、どこか造形が歪で、人間が作ったものとは思えない。


「ちょっと確認してみようかしら」

「そうだな」


俺たちは、慎重に像へと近づいていった。


――近づけば近づくほど、でかい。


そして、近くで見てより確信した。


――これは、ただの像じゃない。なんだ、この違和感。


次の瞬間。


キシ……キシ…キシキシキシ!ガシャァァァン!


不動の騎士像は突然動き出した。



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