第五話 スキル【苦笑】
「レディー達、皆とっても美しいよ。僕の瞳をこれ以上潤わさないでくれる?」
「ちょっと何言ってんの、ユリウス様!大げさすぎですよぉ」
「僕が一度でも君たちに嘘を言ったことがあるかい?」
「ありません!ユリウス様のような立派なお方が嘘をつくはずないです!」
「絶対あるからぁ。レイナ騙されなてるってばぁ。」
「え~そうなのかなぁ」
――地獄みてぇな空間だな。こりゃ。
どうしてこうなったんだ……
時間を遡るぼこと数時間前。
俺はいつものようにクエストを終え、ギルドで換金を行っていた。
しかし、そこで事件は起きた。
「ねぇ、君。今日暇かな?」
振り向くと、若い男が立っていた。
細身の体形に、整った顔立ち。
身に着けている装備は明らかに高級品で、一目で位の高い冒険者だと分かる。
――悔しいが、今の俺がこいつに勝てる要素はない。
「良かったら、今日の夜一緒に食事しないかな。」
――どうしよう、悩むな。人脈はあるに越した事はないが。
ていうか、俺みたいな人間と食事するメリットがあるのか。こいつに。
「えーと…」
「食事代は全部こっちで持つよ。今日女の子たちと食事会をするんだけど、男の人数が一人足りなくてね。見たところ、君って彼女いないでしょ?」
――そういうことかよ。合コンの数合わせってことね。
しかも勝手に彼女いないって決めつけてんじゃねぇよ。
……いないけど。
「じゃあ……行きます。」
「ありがとう。今日の夜7時にアストラ亭集合ね。」
――それで、今に至る。
「今日はみんな集まってくれてありがとう。とっても嬉しいよ。」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとうございまず!」
女性陣はみんなユリウスに惚れているようだ。
「ユリウス殿は冒険者として優秀なだけではなく、人間性も立派ですな!」
ユリウスの取り巻きの人間が手放しで褒め倒す。
「僕は言われるほど、立派な人間じゃないよ。自分の力不足のせいで、今まで多くの仲間を失ってきた……」
ユリウスはアンニュイな表情を浮かべ、しおらしく落ち込んで見せている。
――うーわ。出たよ。
悲劇のヒロインぶる奴。元いた世界にもいたな。
「俺、こんなにつらい過去を乗り越えてきたんですよ」
「壮絶な経験をしたきたけど、今は幸せな生活を送っています。」
「人気者に見えるかもしれないけど、昔はいじめられてました」
うるせぇよ。
人間誰しも、つらい過去の一つや二つは背負って生きてる。
わざわざ口にするもんじゃない。
それに――本当につらい思いをしてきた人間は、大体そういう過去を自分から語ろうとしない。
躊躇って、隠して、それでも滲み出てしまうものだ。
「つらい過去があっても、ユリウスさんは今冒険者として活躍しています!凄いです!!」
案の定、浅はかな女性陣はユリウスに同情している。
――やれやれ。
自分の人生にストーリー性を見出して、物語の主人公を装うことで「私は特別な人間だ」とアピールする。手軽で、卑劣な手口だ。
そして厄介なことに――それに気づかない人間の方が、世の中には圧倒的に多い。
無意識下で「こいつは特別な人間だ」と錯覚してしまう。
しかも挙句の果てに、俺みたいに真理をついている人間は「考えすぎ」「人生楽しくなさそう」と一蹴される。
つまり――主人公気取りの言動は、するだけお得なのだ。
馬鹿らしい話だが、これが現実だ。
「ところで、そこの君は誰?」
「この子はショウタっていってね。さっき暇そうにしてたから食事に誘ったんだ。」
「へぇそうなの。よろしくね、ショウタ君。」
「…よろしく」
――おもんねぇ。アウェイで出席する食事会ほどつまらないものってないよな。
飯食ったし、早く帰りたいんだが。
「ショウタ君ってさ、なんかゴーレムに似てるよね」
「分かるぅ、ゴーレムが人間になりましたって感じ。」
「ゴーレム?」
「知らない?ゴーレムって、ダンジョンにいるモンスターなんだけど。こういうやつ」
女性の一人がモンスターの情報が書かれた図鑑を見せてきた。
そこにはゴーレムと呼ばれる人型のモンスターが描かれている。
全身が岩で出来ている見た目で、特徴的な声を発するんだとか。
「ねぇ、ちょっとゴーレムの真似してみてよ。」
――は?全く知らないし、見たことないんだが。
「いいね!ちょっとやってみてよ!」
女性陣は期待しているようだ。
――やらなきゃいけないやつやん。これ。
「ガガガ……ゴゴゴ…」
俺は図鑑に書いてあった情報だけを頼りに、物まねをしてみた。
――静寂。
滑り散らかした。
「全然似てないんだけど」
女性は不満そうだ。
「新モンスターの登場かな?ギルドに報告しないといけないな!」
ユリウスが静寂を埋めるように発言をする。
「あっはあっはあっは!ユリウス様面白すぎ!ショウタ君、そういう事だったんだね!」
「そ…そうだよ。当たり前じゃん…。あはは」
あまりにも尊厳を踏みにじられたため、俺はついつい愛想笑いをしてしまった。
――うぜぇし、おもんねぇな。昔、会社の社長と行った飲み会を思い出すわ。
新たなスキルを獲得しました。
――お、この音は。
固有スキル【苦笑】Lv.1
獲得条件:
【冷笑】保持者が、対象に対し苦笑を行うこと。
発動条件:
対象に対して、自身の動揺・不快・困惑などを抑え込む形で笑うこと。
※感情(動揺・不快)が強いほど効果は増大する。
※意図的な苦笑(感情を伴わない演技)は効果が減衰する。
効果:
対象物の摩擦係数(μ)を改変する。
(増減は任意。値は心理状態に依存)
変動幅:
±10~30%(Lv.1時点)
クールタイム:30秒Lv.1時点
――新しいスキルか。摩擦係数の変化…
嘲笑と組み合わせたら面白いことが出来そうだな。
こうして、俺は地獄のような時間を終えた。
そして、宿に帰って部屋で横になる。
「あーあ。退屈だったし、俺いた意味あったのか…」
――まぁ、いいか。
自尊心は傷ついたが、飯はタダで食えた。貧乏な今の俺には、それで十分だ。感謝しないとな。
――昔、金が無い時にバイト先の人に奢ってもらった時は嬉しかったな。
自分で金を稼ぐようになって、生活に困らなくなってからは、上司に奢られても嬉しく感じなくなった。
むしろ早く帰りたいと思っていたくらいだ。
たまにはこう言うのも悪くないかもな。《《たまには》》。
俺は明日のクエストに備え、就寝することにした。




