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第二話 ゲームの世界へ

「おじゃまします」


佐々木の部屋に来た俺は、辺りを見渡す。


オートロックどころか、何重にもセキュリティが張られていた。

――さすが高収入の人間だ。


「どうだ、俺の部屋。結構広いだろ。」


佐々木の部屋のリビングには、趣味と思われるゲームや漫画、アニメキャラクターのグッズが並べられている。


「で、何をするんだ。」


佐々木はゲーム器と思われる物を取り出した。


「よくぞ聞いてくれた。私は汝をEmotional World の世界へ誘いにきた、伝説の勇者オルレアンだ。オルレアンと呼んでくれても構わない」


佐々木はノリノリだ。思わず辟易してしまいそうになる。


「お、おう…」


「さぁ、この装置を着けたまえ。さすればあなたを、情熱満ち溢れる世界へ、主が導いてくれるだろう。汝に主の祝福があらんことを」


――この装置を頭につければ、いいのか。


ビリビリッ!


「!?」


視界が裂けた。


――次の瞬間。


そこに“世界”が広がっていた。


広大な緑が辺り一面に広がり、遠くの方には廃墟と思われる建物がいくつか存在する。


そして、少し視界を横にずらすと中世ヨーロッパに見られるような街が広がっていた。

いくら妄想の世界とは言え、心を動かされそうになってしまう自分がいる。


「なぁすごいよな、現代技術っていうのは。翔太もそう思うだろ?」

「お前…佐々木か?」


そこには普段と全く違う佐々木の姿があった。佐々木の顔の上に”オルレアン”と書かれている。


「どうだ?かっこいいだろ、伝説の勇者の服装。この衣装手に入れるために結構課金したんだぜ。」


――うわ…どうすればいい。友人として素直に「ださい」と言うか、テキトーに流しておくべきか迷う。


「あと悪いけど、お前のアカウントは昨日テキトーに作ったから無課金仕様だ。

名前もあとから変えていいぞ。」

「機会があったらな」

「よぉし、まずは町を目指すとしますか。」


その後俺達は町へ向かった。


道中、俺はいくつかのモンスターと遭遇した。

モンスターを討伐すると、経験値やゴールドが手に入る。

経験値はレベルアップに必要で、ゴールドはアイテムを買うのに必要だ。


まぁ所謂いわゆるRPG。一般的なゲームとシステムは変わらない。

俺もゲームが嫌いとはいえ、やった事はあるので多少は分かる。


――昔はよく母さんとゲームしてたな…


俺が小さい頃に母さんは離婚して、ずっと一人で俺を育ててくれた。

そんな母さんも俺が中2の時に他界したため、俺はそれ以来ゲームをした事が無い。


懐かしいな…


「翔太ついたぞ、ここが”はじまりの町エルディア”だ」


――エルディア。


そこは――多くの人がひしめき合い、”情熱”に満ち溢れていた。


広場では、商人たちが声を張り上げ、商品を売りさばいている。

通りには荷馬車が行き交い、人の波が絶えない。

少し先には、冒険者たちが集う酒場やギルドが散見される。


――にしても、リアルすぎるな。佐々木の言ってた事も今なら分かる気がする。



「翔太、俺のおすすめの場所があるんだよ。ついてきてくれ」


佐々木に言われて向かった場所は、舞台と思われる施設だった。

まだ上演は始まっていないというのに、人々は目を輝かせて待っている。


――ばかなのか、こいつらは。


昔友達と映画を見に行くときの頃を思い出した。


映画の”上映開始時刻”と、暗くなって実際に映画が始まる時間にはズレがある。

上映開始から映画が始まるまでに、広告や「No More 映画泥棒」などが流されるからだ。


俺は映画だけを見たいから、「上映開始前に席に着く必要がない」と申したところ、

「広告とか見ないと、”映画館に来た”って感じがしないんだよな」

と友達に言われた。


――今目の前にいるこいつらも同じなのであろうか。

”舞台を見に来た”というよりも”舞台を感じに来た”という感覚。

あたかも自分が”その物語の一員である”と錯覚させるために、彼らは開始時刻の大分前から待機しているのだ。

ばかばかしい。作品の内容だけに集中しろよって思う。


「何が見れるんだ」

「まぁ見とけって」


――次の瞬間。


異世界特有の衣装と仮面を着た道化師と思われる人が登場した。


――あ、マジック的なやつですか。どうせおもんないだろうな。


俺は興ざめした。

マジックというのは、ほぼワンパターンだからだ。


観客の視線を誘導させ、死角を作る。

あとは元々用意していた器具を巧みに使えば簡単に人をだませる。

それに、マジックの手法は基本的に量産型だから、毎回見るたびにデジャブを感じてしまう。


どうせ退屈なんだろうなって思って見始める。


道化師と思える人物が繰り出すマジックや火を使った派手な演出に、会場は大盛り上がりだ。


――どこが、そんなにおもしろいんだか。


会場全員が”爆笑”してる中、俺だけは無表情だった。


まるで――「イロモネア(ランダムで選ばれた5人の観客を笑わせるバラエティ番組)」で、最後まで笑わない観客のように。


すると、観客で唯一笑わない俺は目立ったのか、道化師と目が合ってしまった。

仮面の隙間から見える彼の目に、どことなく恐怖を感じる。


ドクン、ドクン!


思わず心拍数が高くなる。


「ソコノ君!チョット舞台二アガッテキテ!」


道化師は俺を指さして、舞台に上がるよう命じた。


――おい、嘘だろ。だるいんだが。


「行って来いよ!」


本当は行きたくなかったが、隣の佐々木に促され、渋々壇上に上がった。


「ミナサン!ショーノ、クライマックスデスヨ!」


「うぉー―!!!!!」


会場の声が最大級に盛り上がる。どうやら今日の大目玉のショーが始まるらしい。

早く終わってくれ。


「ミナサン、コチラニ人間ガハイル箱ガアリマス!」


――箱。ああ、あのマジックか。


道化師が今から行うのは、「箱の中に人が入って、そこに剣を刺したりしても、箱を開けたら中の人は無事出てくる」というやつだ。


タネは良く分からないが、どうせ「反対側から見たら人が逃げれるスペースがある」とかだろう。


俺は道化師に言われた通り、箱の裏側へ行き、中へ入ろうとする。


――あれ、おかしい。逃げ道がない。


どういうことだ。なら「剣そのものが箱を貫通しない」とかか。


まぁどうせ大した事のないトリックだろう。


「ミナサン、コノ中二ヒトガイマスネ!」


道化師に言われるがまま俺は箱の中に入った。

中は窮屈だ。早く出してほしい。

出る時、わざとらしいリアクションをしないよう気をつけよう。


「今カラ!コノ剣デ、ナカノヒトヲ刺シチャイマス!」


「え――!」


観客の悲鳴が聞こえる。

耳障りだ。人間を不快にさせる周波数の声を出さないでくれ。


「サァ、イキマスヨ!!!」


グサッ!


――ん!?なんだ!?背中に激痛が…


「マダ剣ハ、タクサンアリマスヨ!ハァッ!!」


グサッ


「ゴホッ!!」


――血が出ている。


これは”ショー”じゃない。明らかな”殺人”だ。

痛覚まで再現されているのか、このゲームは。めちゃくちゃ痛い。


そして、俺の意識は段々遠のいていく―


「ハァ…ハァ…、どこだここ?」


意識を取り戻した俺は、道の真ん中で倒れていた。


――なんか、見たことあるなここ。ていうか、傷の跡が全くない。

あの後どうなったんだ。


少し歩くと、はじまりの町エルディアに着いた。

門番の人が立っている。


「君、許可証は?」

「なんすか、それ?」

「知らないわけあるか、エルディアに入るなら必ず必要だ。君どこから来たのかね?」


――どこから?現実の世界の出身を言えばいいのか。


「東京ですけど」

「聞いたことないな…まぁいい。ギルドで許可証を発行の手続きをしてくれ。」

「いや、そういうのいいんで。勇者みたいな恰好をしたオルレアンって人知りませんか?ログアウトしたいんですよ」

「知らないな、全く。いいから、警備兵と共にギルドまで行け!」


――だっる。あいつまじで何をしてんの?責任もって俺のところまで来いよ。


俺はなす術もなく、ギルドまで連行された。


――ここで一つ違和感があった。


誰一人として、頭の上に名前のある人間がいない。

佐々木や他のプレイヤー、町にいるコンピューターで作られた人間。

全員が頭の上に、自身の名前が表示させられていた。


なのに、町を歩く人誰一人して、”名前”が無い。


佐々木の言葉を思い出す。


――確か、この世界は……


俺は意識を集中させる。

設定パネルを開く。

通常なら、キャラクター情報、システム設定が出てくるはずだ。


――開け。


固有スキル【冷笑】 Lv.1


獲得条件:異邦人が、この世界を満喫せず、蔑み笑うこと


発動条件:冷笑を行うこと

(※感情・動作を伴わない構音のみの冷笑は無効)


効果:対象の運動を一秒間(Lv.1時点)停止させる

クールタイム:5分(Lv.1時点)


――……なんだ、これ。

ゲームの設定画面じゃない。

紛れもない“能力”だ。


――しかも、「異邦人が、この世界を満喫せず」って俺の事じゃないか。


もしかして、これって――


「……ゲームの世界が、“現実”になったってことか」

























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