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第一話 プロローグ

「ぷふぁw」


これは――当時付き合っていた彼女と別れる時に、俺が発したセリフだ。


俺の名前は”麗翔太れいしょうた”。都内の大手IT企業で働いている26歳だ。

早くして出世し、年収は1000万を優に超える。

はっきり言って俺は”特別”だと思う。


――さすがにこのスペックで謙遜したら、そっちの方が嫌味に聞こえるよね?


だから俺は、心の中では他人を見下しつつも、

”表面上”は相手をリスペクトするようにしている。

そのおかげで、友人も彼女も会社の人間とも良好な関係を築きあげてきた。


――だが、それも限界に近づいてきた。


なんでこいつらみたいなゴミ共の機嫌を伺わなければいけないのか、と。


「生きているだけで承認欲求を満たされ続ける人は、他者の承認欲求を満たす義務がある。」

そんな道理など、あるはずがないのだ。



そう思った日から、俺は明らかに”冷笑”し始めた。

他人が必死になって頑張っても、俺みたいな人間に敵うはずないのに。

それでも頑張る彼らを見ると、滑稽に思えてくるのだ。


 半年前に彼女と別れた原因は、

俺が彼女を馬鹿にした、ただそれだけだ。

彼女の知的レベルは、正直に言って低レベルだったと思う。


というより、俺が高すぎて、

「相対的に低くならざるを得ない」、と言ったところか。


「ねぇ、明日の誕生日ケーキ何がいい?チョコかな、やっぱり?」


――ああ。そういえばもうそんな時期か。


「別にいらねぇよ。」


なんてことのない発言だと当時は思った。


「なんで、そういうことをいうの!?」


彼女は、頭から火がでるほど怒った。


――なんで、俺がこんな目に合わなきゃいけないのだろう。


”俺の”誕生日なんだから、俺の自由にさせてくれればいいのに。


それ以降、関係は悪化し始めた。

彼女が最後に俺に言った台詞は――

「あなたと会った時は、運命の人だと感じたのに…」

だった。


それを聞いた俺は思わず


「ぷふぁw」


と言ってしまった。

そりゃそうだろ。なんだよ、運命の人って。


――思えば、小さい頃から俺ってこういう性格だったな。


俺は過去を振り返ってみた。


中学校の卒業式の時、大勢の同級生が泣いていた。

皆別れるのがよっぽど辛かったのだろう。

しかし――当時の俺は


「中学三年生になってまで、泣いてんじゃねぇよ。子供じゃないんだから」


と思ってしまった。

どうせ卒業しても、すぐに新しい友達と皆仲良くなるくせに。


都内の某有名大学に入った時も、同じような事があった。


大学っていうのは、大人の一歩手前。

在学中に、どれだけ将来を見据えた行動ができるか、それが全てだと思った。


 しかし、蓋を開けてみたら、飲み会だの、デズニーランドだの、SNSで承認欲求を満たされるための投稿だの。


下民共が脳内で快楽を得るために、ありとあらゆる手を使っている姿は一種の”エンターテイメント”であると思う。

極めて面白い、思わず”爆笑”してしまいそうだ。


 彼らが楽しそうにする行いは、俺にとっては”愚行”でしかなかった。

そんな彼らを横目に、俺は日々”実用的”なことをし続ける。

優越感を感じる毎日だ。


――そして今日も、”優れた人間”であるために、会社に向かう。


電車の中で死にそうな顔をしているサラリーマン。

顔だけ見たら死んでる高齢者。

間違いなく、将来痛い目に合うであろう大学生。


ああ、愉快だ。ただこの場所に存在するだけで、幸せだ。

自分よりも、下の人間がこんなにも多いなんて。


そんな愉悦に浸る毎日だったが、彼女と別れてから暇になる事が少し多くなった。


「ああ、暇だな今週末。会社の人と飲みに行く気分でもないしな…」


「翔太、今週末暇か?」


この人は佐々木。俺の会社の唯一の同期だ。


「ああ、暇だ」

「なぁ、翔太これやんねぇか。バーチャルオンライン"Emotional World"。

この前いとこにおすすめされてやったんだけどさ。めっちゃ面白くて。

なんかーこう、童心に帰った気がするんだよなぁ」


――童心に帰る?くだらん。そのまま受精卵まで時を戻して、人生やり直せよ。


「俺、そういうの好きじゃないって知ってるだろ」


――ああ。俺は嫌いだ、そういう類のものが。

ゲーム。アニメ。漫画。

全て、極めてくだらない。


なぜくだらないのか。

”妄想”という非生産的行為が、あたかも生産性のある行為として認められているからだ。

現実を直視している俺にとって、理解しがたい行為を読者は崇拝している。


――笑止。


それに、くだらないと思う理由はそれだけじゃない。

出てくる登場人物が皆、”現実に反した、理想的な人間”だからだ。


異性の本能を刺激する美少女/美男子キャラクター。

過去に辛いことがあって、それを乗り越えたキャラクター。

人々の共感を得るための分かりやすいキャラクター。


現実世界に、このような人間はほとんど存在しない。

この世にいる人間の大半はもっと中途半端で、しょうもない奴らで占めている。

しかもこいつらはもれなく、”情熱的”で必死だ。俺とは性に合わない。


だから、俺はゲームなどやりたくない。やる価値を感じられない。


「頼むよ、翔太。今度なんか奢るからさ。騙されたと思って」

「分かったよ…」


――まぁ、たまには人付き合いも大事にしないとな。《《たまには》》



そして週末、俺は佐々木の家に行くことになった。






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