86話 魔王の願い
逃げた竜は、リュウドウ王国に向いて飛んでいた。
怒り狂い、火を噴きながら通り過ぎる。
竜の通り過ぎた跡は、無残にも灰と化してしまった。
リュウドウ王国の、見張りが警鐘を鳴らす。
鳴り響く警鐘に、かつての厄災を思わせた。
「……また赤い霧!?」
「今度は魔物が、火を噴きながら飛んできてるんだって……」
「魔物が攻めてきたのか?
この国は何でこんなに狙われるんだ?」
街では不安が広がっていく。
「竜だ!
竜が来るぞ!」
冒険者ギルドでは、コランダムを筆頭に準備を進めていた。
リュウドウ王国は経済で発展した国だった。
セイジョウ王国は、四代目セイジョウ王である勇者のおかげで復興できた。
しかし、一度滅んだ国は、近隣の国がいつ攻めてくるか分からない状況だ。
弱ったセイジョウ王国が他国から攻め込まれないようにするためにも、
初代リュウドウ王は、危機感を抱いていた。
「四代目のセイジョウ王では国が危うい」
その危機感から……
初代リュウドウ王は、セイジョウ王国から政権を奪ったのだ。
「軍備を整えるためには、まず経済から」
そう言って、経済発展型の国になっていた。
近隣国へは、外交で平和を保つようになる。
軍備は相手を挑発しないようにと最低限しか持たなかったのだ。
経済型のリュウドウ王国に、竜を退けられるような兵力はなかった。
そのため、冒険者の力を借りて竜を迎え撃つ。
それに……
この国には、まだ英雄コランダムが残っている。
「私にそこまで期待されても……」
コランダムが髭を整えていた。
「私一人で、どうにかなるような相手じゃないでしょう?
ダイヤじゃあるまいし……」
そこへ、商人らしき小人が冒険者ギルドに来ていた。
「冒険者の皆々様、こんにちは。
オラに良い考えがあるでやす。
話を聞くっすか?」
皆の注目が、ドリュウへと向けられた。
「どうするつもりだ?」
コランダムが、睨みつける。
「オラは、あのダンジョンで商人をやっている者っす。
毎度ごひいきに、ありがとうございやす。
あのダンジョンの主様なら、あんな竜など朝飯前かと……」
「魔王に貸しを作れというのか?」
「いえ、取引でやす。
信用を買うってやつっす」
ドリュウの目が光る。
「人間を殺さないダンジョンで、魔石も高純度。
さらに、協力できる存在だと証明できれば……
オラの商売も先へ進めるっすよ」
「お前はダンジョンの回し者か?」
「どちらでもいいっすよ。
オラは商売が出来ればそれでいいっすから」
ドリュウは数年間、この街で信用を作ってきた。
取引は誠実で、街はドリュウのおかげで発展できたところもある。
「あの魔王が、そんな私たちに都合の良いことをするのならばな」
コランダムは、魔王に感じた「女神のような存在」を思い起こしていた。
「そのまさかをするのが、あのダンジョンの王様っすよ」
「信用していいのだな?」
「竜を撃退して、あなた方に損などないでしょう?」
「分かった。
頼んだ」
「交渉成立でやす」
***
ダンジョンでは――
「大変でやす!」
急いでドリュウがやって来た。
「ドリュウ、何ごとだ」
俺は王の威厳を見せつけるように努力していた。
それは、俺の……いや、カンカイの能力が弱まっていたからだ。
魔力操作には成功した。
ゾンビを成仏させることで、浄化の力も増していた。
だが、その代わりにカンカイの力が浄化されている。
血を操る能力に、陰りが見えてきてたのだ。
王の威厳だけは見せていないと配下が怖い。
そう俺は思っていた。
ドリュウが報告する。
「竜が現れたっす。
王よ。
竜を仲間にするチャンスでやす」
今までの経緯をドリュウが話す。
「ドリュウ。やりましたね。
人間どもとの交渉。
ご苦労様です」
コノハが、その成果を称賛した。
「あの竜は、このダンジョンを目指しています。
狙いは、ここの魔石でしょう……」
コノハの言葉に、カブトが、何か思いついたように笑う。
たぶん、竜の炎に焼かれている想像でもしているのだろう。
「竜を仲間に出来れば、このダンジョンも面白くなるでござる」
シンエイも楽しそうだ。
レッドはウズウズして、挙動不審だった。
配下たちは、いつの間にか何かを勝手に目論んでいる。
俺は、したたかな配下たちに恐怖を抱いた。
俺、こいつらにいつか魔王の座を奪われて、
殺されないだろうか……。
いや。
仲間を信頼しなくてどうする。
ダンジョンは強い者が受け継いで王となる。
そうなれば、それが定めなんだ。
こいつらは、仲間だ。
俺の大事な仲間なんだ。
俺も大見得を切ってみた。
「そうか、我も少しやってみたいことがあってな。
厄災の赤い霧。
あれの規模を小さくすることができないかと思っていたのだ」
結構、俺もしたたかになったか?
規模を小さくするんじゃなくて、小さくなっちゃったんだけどね。
「それならば、私が補助をいたしましょう」
真白な体に、真っ白な羽。
全身真っ白になった人間の姿をしたカブトが、ぎろりと俺を睨む。
変態さも増して、マジで怖いよ~……。
服だけは着てくれ……。
でも、カブトは飛べるし回復力もすさまじい。
頼りになる仲間がついて来てくれるのは嬉しい。
「僕も一緒に連れて行ってよ。
ドラゴンを分析したいんだ」
レッドは、どれだけ強くなろうとしているんだ……
天敵でなくなって良かった~。
「拙者もお供いたします」
「みんなが行くなら、私も今回はお供いたします。
サンク様にとって初めてのダンジョン外での活動です。
私も連れて行ってください」
コノハもシンエイも加わり、みんなで行くことになった。
「良かろう。
皆のもの。
我について来るがいい」
ただ、俺の目的はカンカイの過去を癒すこと。
「我の目的は、赤い霧だけではない。
そこで、お前たちに問う。
このダンジョンを、捨ててもよいか」
配下たちの顔色が変わった。
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