76話 神聖
コランダムは、シンエイのボス部屋を抜けた瞬間。
衝撃の光景を目にした。
ゾンビに埋め尽くされた、おぞましい空間。
コランダムが大量のゾンビを切り裂いていく。
そのとき。
ダンジョン内に衝撃が走った。
衝撃が、目の前のゾンビたちを切り裂く。
壁は崩れ、天井に大きな亀裂が走った。
その残光は、虹色の尾のようにきらめく。
「ダイヤの攻撃か……」
コランダムは、その場に立ち尽くした。
「それにしても、うじゃうじゃいやがる。
きりがないな……」
しかし、
妙なことに気づく。
ゾンビが襲ってこない。
それどころか、
全員が同じ場所を目指していた。
「どういうことだ……」
ゾンビの低い唸り声だけが響く。
コランダムは、一匹のゾンビへ手をかざした。
「女神の祝福が、あらんことを……」
祈りを捧げる。
すると……
そのゾンビが涙を流すように、
光に包まれ天へ昇った。
それを見たゾンビたちが、
コランダムへ襲いかかる。
「だずげでぐで……」
「がえりだい……」
大量のゾンビが手を伸ばし迫る。
ゾンビの着ている衣服、装飾品。
それらを見て、コランダムは理解した。
かつての人間だったのだと。
「女神の祝福は、
一度に大量にはできないんだ……。
私の度量不足だ。すまない」
胸の前で剣を突き立てて、
祈りを捧げる。
「私にできることは、このくらいだ。
許してくれ」
剣で十字を切り、光が走る。
迫るゾンビたちが、
一瞬で浄化され消えていった。
しかし、その先にも大量にいる。
もう女神の加護を与える余裕などない。
断腸の思いで、
コランダムはゾンビを切り裂く。
そしてその場を駆け抜けた。
ついに、
サンクのボス部屋の前へ辿り着く。
黒鉄の門の前には、
門を掻きむしるゾンビで溢れていた。
それでも、
コランダムは一匹残らずゾンビを消滅させる。
重厚な門を開いた。
そこには玉座があり、魔王が鎮座していた。
魔王が両手を上げる。
「何をする気だ」
そう思った瞬間。
コランダムは息を呑んだ。
圧倒的なオーラを纏いながら、
魔王が歩み寄ってくる。
しかし。
そこには殺意がなかった。
みじんも。
コランダムは、その魔王から目を離せなかった。
いままで、一瞬の隙も見せなかった。
恐怖さえ乗り越えてきた。
それなのに、
見入ってしまう。
これは恐怖で動けないのか?
魔王は無邪気に、
コランダムの横を通り過ぎた。
まるで、
そこにコランダムなど存在しないかのように。
コランダムには、
見ていることしかできなかった。
これほどの強者が、
隙だらけの背中を見せる。
斬れば届く距離。
だが、剣を振るうという発想すら消えていた。
信じられない。
考えられない。
これが魔王なのか?
そのとき、
魔物たちの言葉を思い出す。
「純粋で、無慈悲。
それでいて優しい」
これが……魔王。
恐怖していたはずなのに。
それでもコランダムは……
女神を見るように、
その魔王から目を離せなかった。
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