70話 強さを知らぬ者
「なに、なに、なに、なにっ!!!」
サンクが目を見開いてレッドを見ている。
「厄災の霧かと思ったら、
冒険者が見方になってるじゃん!
どしたのこれ?」
<強さとは力ではない……あいつはそれを体現しておる。
ムマの能力を手に入れたか……。
レッドめ。冷静な知性を手に入れたら、手に負えんな>
「ムマの能力って?」
<そうか、お前には効かなかったからな。
ムマはフェロモンを使って人を魅了する。
匂いで操る能力を持っていたんだ>
「あの匂いって、フェロモンだったんだ。
みんな演技してたんじゃなかったのか……」
<我には、どうしてお前に効果がなかったのか。
それが知りたいわい>
「そんなこと俺に聞かれても、分かんないって。
匂いははかるよ。
でも、なんかね……清められた感じがしたんだよな」
鼻をつく甘い香りのはずなのに、すぐに消えていく。
むしろ、汚れが取れたような……そんな感覚だった。
<……>
コランダムの攻撃が当たり、
ダイヤから血しぶきが上がる。
「レッドって、ヤバい奴なんじゃない?」
<かなり強くなったな。
だが、我の足元にも及ばんわい。
それよりも、あの剣のほうがヤバいな>
「ガラスみたいな剣が?」
<ガラスではない、ダイヤモンドだ。
ダイヤという冒険者は、
ダイヤモンドの硬質度ほど堅い体を持っていた>
「すごいじゃん!」
<その体を斬ることのできる剣だぞ>
「ヤバいね。
でも、勝手に壁にぶつかって失神してたけどね」
<それはお前が、奴の体の内部から操作して……>
「うおーーー!!!
剣撃が見えない。
それを避けてるよ」
<また聞いておらんのか……。
あのダイヤモンド・アル・アダマスと言ったな。
アルがついているということは、どこかの王家の子孫だな>
「アルって、王族しか付かないの?」
<そうだ>
「うっそだ~。
だって、俺の名前。
サンク・アル・セイジョウだもん」
<は?>
「アルがついてるぞ」
<そっちじゃない。
いや、そっちもそうだが……。
セイジョウ……>
「そうそう。
セイジョウ」
<……セイジョウ、だと?
その名は……消えたはずだ……。
歴史ごと、な>
「何を大袈裟な」
<それは……あり得ん……。
あってはならんことだ>
「どしたのカンカイ?」
俺はただ、疑問を投げかけただけなのに。
<黙れ!>
それは怒声ではなかった。
怯えを押し殺したような、
今まで聞いた事のない声色だった。
俺の体にも、
強烈な拒絶と恐怖が電気のように走った。
カンカイの感情が、直接流れ込んできた。
「らしくないな」
いつもなら、もっと偉そうに講釈を垂れるだろ。
なんだよ、今のは。
まるで何かから逃げているみたいじゃないか。
……カンカイが怖がるなんて。
<まさか……。
これは運命なのか>
その言葉を言ったあと、カンカイは話をしなくなった。
サンクは気づいていなかった。
自分の名前が――
この世界の均衡を揺るがすものだということに。
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