58話 異様な者たち
ムマの誘惑は、サンクの無邪気な裁定によって解かれた。
サンクに誘惑が効かなかった理由は分からないけれど……
無意識の裁定。
最低な王の裁きが下されたのだった。
***
ムマのフェロモンが漂っているときのサンクは――
俺はカンカイとムマの様子が、
おかしくて仕方なかった。
「魔王と女王のコラボ。
まるで夫婦漫才でも見ているみたいだ……」
何もされていないのに、
みんなが演技して一斉に倒れる。
真面目なコノハまでが苦しそうにしていた。
カンカイもムマには敵わないなんて、
可愛らしい嘘をつくし……。
絶対嘘じゃん。
もう面白くて仕方なかった。
俺は膝をつき、
地面を叩いて笑っていた。
そして、気がつくと……。
目の前のムマが血だらけになっていた。
「どうしたムマ。
大丈夫か?」
<お前の方が面白いな。
頭どうかしておる……>
「何が起きたの?
いい匂いがしたけど……」
皆が首を振りながら起き上がる。
「俺のために匂いで場の空気を作ろうとしたのか?
もう、お前ら演技はいいから……」
「主よ。
拙者は主に攻撃などしなかったでござるよね」
え?
演技じゃない?
演技とは思えない、不穏な空気が流れていた。
<最低な王の裁きじゃな……>
ムマが今にも死にそうだった。
「なあ、サンク様。
僕がムマを喰ってもいいかな?」
レッドはかわいい顔して無慈悲だな……。
顔はないけど……。
「どうもね……
僕にもムマと同じように、
解析できた者の能力を使えるみたいなんだよね」
それってチート能力じゃないか!
「それはないだろ……
俺は回復師で……
配下がチートなんて……」
本当に俺が王様で良いの?
<お前の頭の方がチートじゃわい。
無敵の人……無敵の魔王だな>
レッドはそのまま話を続ける。
「だから、ムマを喰ったら、
ムマの能力が僕に使えるんじゃないかな?」
お前がムマを喰ったら……
ボスが減るんだって!
「僕さあ、アリをいっぱい退治したからね、
進化したみたいで……」
見た目は変わっていないように見えるが……
「分身体を作れるようになったんだよね」
「元から分身体を作っていただろ?」
「今度の分身体は、
ちょっとだけ意志を持つ分身体で……」
そう言って、レッドが真っ赤なアリの分身体を作った。
赤いアリは、レッドの指示通りに動き壁の修復を始める。
「まだ、たくさん作れるよ」
これなら、ムマの代わりができる!
「なら、許可する。
好きにするがいい」
レッドの体が大波のように襲いかかり、
ムマを包み込んだ。
ムマの姿が溶けていく。
次の瞬間――
レッドの体から、赤いムマが分裂した。
「ま・お・う・さ・ま……
わ・ら・わ・は……ム・マ……」
「話せるのか」
「離せるよ」
レッドが距離を取った。
「お前は、なにをやってるんだ?」
「離せるかって言ったから、離れたんだよ」
「会話が出来るのかと言ったんだ」
<なんか、お前の病気が伝染してるぞ>
「病気ってなんだ!
失礼な」
これなら、ムマの代わりになる。
やるなあ、レッド。
「あとさあ、シンエイと相談してたんだけど」
レッドがさらに会話を続ける。
「今のがシンエイとの相談内容じゃなかったのか?」
「そうだよ。
面白いことを思いついてさ、
シンエイと防御に適した防具を考えたんだ」
レッドの体がいくつも分裂していく。
そして出来上がったのが……
兜に胴、籠手などの鉄の防具だった。
「すごいなレッド!」
「えへへへへ。
血には鉄が含まれてるからね。
でも、デザインはシンエイのものだよ」
「防具といえば兜でござる」
そう言って、シンエイも体中から血を噴き出した。
血は固まり、赤から鉄へと変化していく。
そして――
鉄の光沢を放つ兜を装備していた。
「おお! カブトだ!」
俺はレッドの作ってくれた鉄兜をかぶる。
ぴたりと頭に馴染んだ。
「王様に、気に入ってもらえてよかったよ」
レッドが微笑んでいる――
俺はそう思った。
「気に入ってって……
もしかして俺の兜なのか?」
「そうそう。
しかも、自動反撃機能付き」
レッドが兜に触れると……
ウニのように無数の針が飛び出した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少しでも面白い思っていただけましたら、
ブックマークや↓の『☆☆☆☆☆』で応援いただけると、とても励みになります。
よろしくお願いします!




