49話 警戒する者たち
今日もダンジョンは賑わっていた。
アリの侵攻が終わって以降、冒険者の数は目に見えて増えている。
ただ、ダンジョン内では別の問題が起きていた。
スライムのレッド。
アリのムマ。
二人が、階層の主導権争いを巡って言い争っていたのだ。
眷属同士で階層の奪い合いが始まっていた。
「お前の眷属が弱いのが悪いのだ。
わらわは四階層のボス。
お前は六階層であろう?」
ムマが顎を上にあげてレッドを睨む。
「強い者が深い層にいるというなら、
わらわの眷属を撃退してみせよ」
「ぐぬぬぬぬ……」
レッドの歯ぎしりが聞こえてきそうだ。
歯はないけど。
「ぼ、僕の方がお前より先に魔王様のそばにいたんだ!
だから六階層のボスに選ばれたんだ!」
「ただの古参なだけであろう?」
「むぎゅ~!」
「オホホホホ」
女王アリのムマは、明らかにレッドを見下して笑っている。
「まあまあ、二人とも。
ダイヤが来るぞ。
警戒しないと……」
俺が仲裁に入ると、コノハが首を振った。
「魔王様。
ダイヤはカブトのボス部屋を素通りして進みましたが、
ムマのボス部屋の前で止まり、引き返しました」
「なに!?
宝をごっそり持っていかれたのか!?
宝の量が減ってしまったのは気になるな」
「それもありますが……
宝を持っていったことよりも、
今回の行動のほうが気になります」
<やはりダイヤという者、警戒すべきだ>
カンカイの声が頭の中で響く。
<奴はあの女王の侵攻を見ておる。
遠くから観察しておったわい>
そうだったのか。
<あの時、始末しておくべきだったな。
奴は鼻が利く。
初めてのボス部屋だから仲間の命を優先したのだろう>
始末とか……物騒なこと言うなよ。
一度敗北も経験しているし、
殺さないと分かってくれたはずだ。
ムマにも、人間を殺すなと命令してあるしね。
<命令したのか?>
「あっ……。
コノハちゃ……コノハ。
ムマに人間を殺すなと伝えた?」
「もう伝えてあります」
「さすがだね、コノハ」
コノハはなんだか俺の顔を見ようともせず、
そっぽを向いている。
ちゃん付で呼んだことで、こんなに怒るとは……。
王という立場も辛いな。
「ムマが、言うことを聞くかどうかは分かりません。
私は奴を仲間にするのは反対です」
もしかして、そっちで怒ってたの?
「敵に回すより味方にした方が良いだろ?」
「量より質です!
現にレッドともうまくいっていません」
コノハが頬を膨らませていた。
「でも、良いライバルになりそうじゃないか。
眷属同士のレベルアップになりそうだし」
俺が苦笑すると、コノハは顔を背けていた。
コノハに無視されると、
俺は寂しいよ……。
***
ダイヤたちは、カブトのボス部屋の近くまで来ていた。
「今日はダンジョンの様子が違う。
慎重に行くぞ」
ダイヤが周囲を見渡す。
ジプサムが盾を構え、タルクは手を震わせて杖を握る。
フローラは近づく芋虫の魔物を焼き払い、
カルサイトが嬉しそうに魔石を回収していた。
ゆっくりと警戒しながらボス部屋に入る。
「……不気味だな」
祭壇に祀られるように、巨大な繭が鎮座していた。
中で何かがうごめいている。
まるで目覚めを待っているかのように……。
「触れない方が良い。
上への階段は開かれている。
先へ進もう」
ダイヤの額に汗が滲む。
三階層へと進むと、アリが襲いかかってきた。
「今までの魔物と違う……攻撃的だ」
ダイヤが眉をひそめる。
「まるで、あのときのアリじゃないか……
もしかして、仲間にしたのか?」
「だとしたら……
ヤバいんじゃないか?」
タルクが震える声で言った。
「もしそうなら……
ボス部屋はあのアリの女王か」
進むにつれてアリが強くなり、群れで襲いかかってくる。
ダイヤはボス部屋の前で足を止めた。
「もし、あの女王だとしたら……」
ダイヤが腕組みをして顎をさすった。
「アリの女王だけとは限らないかもな」
フローラの顔が曇り、疑問を投げかける。
「仲間を引き連れている可能性がある?
ということは、何匹いるかも分からないんじゃない?」
ダイヤが仲間を呼び寄せた。
「今日はここまでにしよう。
ここまでだ、引き返そう」
「えー。もう帰るの?」
カルサイトが不満を漏らす。
すかさずフローラが、カルサイトを説得するようにつぶやく。
「このまま帰れば今日は大収穫よ」
「ほんとだ!
こんなに持って帰るの初めてじゃない?
美味しいものも食べたいわね」
こうして『スファレライトの輝き』は、
街へと戻っていった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少しでも面白い思っていただけましたら、
ブックマークや↓の『☆☆☆☆☆』で応援いただけると、とても励みになります。
よろしくお願いします!




