42話 デスマリッジ
ダンジョン内の冒険者たちは、
魔物の存在が消えたことで異変を感じていた。
「静かすぎる……」
緊迫がダンジョンの空気を冷やす。
「ドライアド。
準備はよいか?」
「はい、魔王様」
「うむ」
そして――
カンカイは身をかがめ、力を込めた。
「死の口づけ《デスマリッジ》」
すると、体から赤い血が蒸気となって噴き出した。
玉座は赤い霧に包まれる。
霧は深層から上へと満ちていく。
柔らかな赤いヴェールのような霧が冒険者を包む。
赤い霧に触れた冒険者は、
苦痛に悶え、
体から血を噴き出していた。
容赦なく。
淡々と。
そして……
赤い霧はダンジョンの入り口から吹き出し、
街へと押し寄せる。
「なに……あれ?
赤い砂嵐?」
街の住民は立ち尽くし、
美しく、禍々しい光景に見とれていた。
それが終わりの始まりだとは、
まだ誰も知らなかった。
王国最後の日になることを。
***
現在はリュウドウ王国として復興をしているが、
カンカイが王国を滅ぼした時の名、
当時の名はセイジョウ王国だった。
セイジョウ王国の国王は赤い霧の報告を受ける。
「毒のダンジョンより赤い霧が迫っております」
報告が王のいる玉座まで届いた。
「ダンジョン近くにいた冒険者が命からがら逃げてまいりましたが、
そのものは体から血を噴き出し絶命したということです」
国王の側近たちのざわめきが広がる。
「街の住人を避難させよ」
「もう街まで迫っております。
今からでは……間に合いません」
王宮の窓が震える。
霧の壁が風圧となって窓を揺らしていた。
「王だけでもお逃げください」
「どこに逃げろというのだ。
逃げる場所などない」
「地下神殿の勇者召喚の部屋なら、
魔法結界が施されておりますので、
安全な密室となっております」
「……ならば、
妻をそこへ避難させよ」
「王は?」
「わしはここに残る」
***
遠くの街の悲鳴が城まで届いた。
逃げ惑う子供ずれの親子も、
一人取り残され泣きじゃくる子供も、
年老いた夫婦も、
すべてを赤い霧が飲み込む。
咳とともに血が吐き出される。
穴という穴から血が流れ、
最後に皮膚から血が噴き出した。
人々が倒れていく。
その中を、
赤い霧が静かに流れていく。
見張りの塔にいる兵が警戒の鐘を鳴らし続ける。
しかし、
鳴りやまない鐘が、ぴたりと止まった。
「赤い霧だ! 門を閉じろ!」
わずかな希望にすがるように兵士たちが抗う。
だが、赤い霧はすべてを包み込む。
それは救いではない。
死との結婚。
赤いヴェールが優しく降りる。
血の霧という死の口づけで
人々は冥府へと送り届けられ……
そして
王国は絶望に沈んだ。
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