41話 疫病の魔王
アリの侵攻がサンクのダンジョンを襲う。
その450年前――
カンカイはミノタウロスを倒し、
新たなダンジョンの魔王として君臨していた。
***
「ドライアド」
「はい」
「ダンジョンの様子はどうなっている?」
「また人間どもが凝りもせず侵入してきております」
「我を置き去りにした冒険者は、まだ現れぬのか?」
「大方の冒険者は討伐しましたが……
魔王様を置き去りにした、あの冒険者は……。
すでに引退しております」
「引退しただと!?」
「家族を持ち、子供を育て……
英雄として称えられております」
「なぜ奴らが英雄だ」
「それは……
魔王様が倒した功績が、奴らのものとなっております。
ミノタウロスを滅ぼした英雄として……」
カンカイの拳が強く握られ、玉座のひじ掛けが砕け散った。
「……奴らをダンジョンに引き込めぬのか」
「難しいかと……」
「我の命が聞けぬというのか」
「申し訳ございません。
彼等は国に守られております。
国との戦争を覚悟しなければなりません」
カンカイが肩肘をついて沈黙した。
「ならば、我が出むこう」
「それはなりません。
王に何かあったら……」
「我に何かあると申すか?」
「いえ、そのようなことは……
ただ、魔王様はダンジョンと繋がってますので、
どのようなことが起こるのか分かりません」
玉座に座るカンカイの元には、
配下が頭を垂れて整列している。
「モグラ」
「へい!」
「王国まで穴を繋げよ」
「それは……何年かかるか分かりやせん。
それにダンジョンの管理が手薄になりやす」
「蛾」
「はっ」
「お前の意見は」
「私めに命令して頂ければ、
この鱗粉で王国を滅ぼしてみせましょう」
「それでは復讐にならぬ。
我の復讐であるぞ」
だが、カンカイは笑った。
「……しかし悪くない」
「ありがたき幸せ」
「我はダンジョンから出られぬ。
だが復讐できると分かった。
ここからでもできる」
カンカイが立ち上がる。
両腕を上げ歓喜の笑いがこだまする。
「ガハハハハ!
これならできる。
これならできるぞ」
振り上げた両腕の拳を握る。
「奴らにも味わわせてやろう。
我が味わった苦痛を
後悔に沈み、苦痛にもがけ」
少し笑みを浮かべながら話を続ける。
「我は毒の魔王。
自ら毒を喰らい、ミノタウロスからの苦痛に耐え、
あの日より我は毒と共に生きてきた」
カンカイが腕を振り上げた。
「その毒を、この地に捧げてやろう。
さすれば我の名が絶望とともに刻まれる」
カンカイがマントをたくし上げ、指示を出す。
「ドライアド。
結界を張る準備だ。
ダンジョンの配下をそこへ隔離せよ」
「はっ」
ドライアドとモグラが地中へと消えた。
「私は魔王様と共におります」
蛾がカンカイの傍に伏す。
「お前ならば耐えるやもしれぬ。
だが今回は皆の元で静かにしておれ」
「はっ。
魔王様の仰せのままに」
そう言って飛び去った。
恍惚の表情を浮かべ……
カンカイが天を見上げた。
まるで祝福を受けるかのように腕を広げ、
静かに回った。
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