40話 赤き死のヴェール
「コノハ。
俺を下ろしてくれ」
アリの侵攻がようやく落ち着いてきたので、
俺は崖下へと降り立った。
すると、
真下の壁際でレッドが震えて縮こまっていた。
「僕がいること忘れないでよ!
復活して数分で死ぬなんてゴメンだからね!」
「なんでそんなに怖がっているんだ?
俺はダンジョンを守ろうとしただけだぞ?」
「それでも、まずは仲間に何か言ってからにしてくれよ!」
「そ、そうか……
すまなかった。
以後は気をつけよう」
<王の威厳はどうした>
え、だってなんだか怒ってるみたいだし……
可哀想じゃん。
<ほう。可哀想……。
自分のやったことが理解でき始めたようじゃな>
「なんのこと?
震えている姿を見たら、可哀想だろ?」
<まあいい……>
そのとき、
壁の崩れる音が聞こえた。
地響きとともに地面が揺れる。
その瞬間、
視界を覆うほどの巨大なアリが姿を現した。
女王アリが、その背に悠然と跨っている。
左右に羽アリたちが整然と並び、
槍を構えながら行進していた。
統率の取れた軍勢だった。
明らかに、これまでのアリとは違う。
俺は怖さのあまり身動きが取れなかった。
しかし、その光景を見る者達には……
強者と強者が睨み合うような、
切迫した空気が張り詰める形になっていた。
静まり返ったダンジョンを、
土煙を巻き上げながら風が吹き抜ける。
沈黙を破ったのは女王アリだった。
「カチカチカチカチ」
顎を鳴らす音が響き渡る。
小さく首を振り、その合図と同時にアリが動く。
「ちょ、ちょっと待て!」
俺は瞬時に右腕を突き出した。
巨大なアリの動きが止まる。
だが、
巨大すぎた。
体全体の動きが止まらない。
頭部だけが俺へと迫りくる。
左腕を突き出し、頭部を止める。
それを見透かす精鋭――
羽アリが巨大なアリを盾にして俺の背後へと回り込んだ。
背後から、槍を突き出し羽アリが飛び掛かる。
「あ、ダメだ……」
胸から槍が突き出ていた。
「……死……死ぬ……」
<ここまでか……。
交代だ>
「久しぶりに我の体に傷がついた。
褒めて遣わそう。
だが、やはり雑魚だな」
傷口から噴き出した血が、
飛び散った粒のまま、止まった。
そして、
血の粒が弾丸となって羽アリへ激しく撃ち込まれる。
踊るように羽アリが壁へ崩れ落ちた。
「コノハ!
その場で防御結界を張れ!」
「え、サンク……おうちゃま?」
「今はそんなことはどうでも良い。
結界を張れ」
「今のあたちには、木で覆い隠すことしかできまちぇん」
「ならば霧が入らぬように木で覆えばよかろう」
レッドがそこへ割って入る。
「お前、サンクか?」
「お前?
今の不敬は許す。
だが次はない」
「え?
う、うん。
ごめんなさい」
レッドがぷるぷると震えている。
「レッド。
血を操作するのが得意そうだな」
「まあね。
そうだね……です」
「ならば、コノハを補助せよ」
「う、うん。……です」
「さっさと動け!」
「はいでちゅ!」
コノハは周りを覆い隠すように木の枝を伸ばす。
それをレッドが覆った。
「結界ができまちた」
「うむ。
では、はじめよう」
カンカイが体全体に力を込める。
「死の口づけ」
その瞬間、
魔王の体から赤い霧が吹き出した。
ダンジョンの中を充満していく。
入り口からダンジョンの外へも霧が漏れ出していた。
街の近くまで赤い霧が、壁のようになって襲いかかる。
街がざわめき始め……
リュウドウ王国の警報の鐘が鳴り響く。
遠くから見守っていた冒険者が呟いた。
「疫病のダンジョンよりいでし
赤き死のヴェール
かつてセイジョウ王国を滅ぼしたという厄災」
他の冒険者が震える声で言った。
「あ、あれは爺さんの言っていた……
疫病の赤い霧だ」
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