35話 内側の攻防戦
魔王サンクのダンジョンは、アリの軍勢に侵攻されていた。
レッドもカブトも、夜明けまで復活できない。
現在は二階層のボス部屋で侵攻を止めているのは、
シンエイただ一人だった。
***
そのシンエイに近づく不気味な地響き。
「バリバリバリバリ!!!」
ダンジョンの壁を削りながら、
人間ほどの大きさのアリの頭が、ぬっと現れた。
仲間のアリを踏みつけ押し潰しながら前へ進んでくる。
その巨体だけで通路が埋まり、後続のアリたちは奥に進めなくなっていた。
「シンエイ。
その敵に勝てそうでちゅか?」
「お任せを……」
「了解でちゅ!
敵に集中できるよう、手助けしまちゅね」
巨大なアリがボス部屋に踏み込んだ瞬間。
コノハの木の根が伸び、入口を塞いだ。
「かたじけない、コノハ殿」
「後はよろしくでちゅ」
外では、押し寄せるアリたちが木の根に噛みついている。
だが、幾重にも重なった根はびくともしなかった。
静かになった空間で、シンエイと巨大なアリが対峙する。
アリは触覚を整えるように動かし始める。
軽く捻り潰せる相手だと言わんばかりの余裕に見えた。
シンエイの両手首から、赤い血が流れ出る。
その血は瞬時に固まり、刀へと変わった。
二刀。
上下に構えられたその姿は……
まるでカマキリのようだった。
それに反応するように、
巨大なアリが二足で立ち上がる。
天井が崩れ、岩が落ちてきた。
その落石と同時に、
巨大な前脚が振り下ろされる。
シンエイはそれを受け止めるように見せかけて身をそらす。
その瞬間、巨大なアリの右脚から血しぶきが飛んだ。
アリはバランスを崩し、倒れた衝撃で大地が揺れる。
それでも倒れ込みながら、なおも脚が襲いかかる。
しかし――
シンエイの攻撃は止まらない。
「図体だけですか?
大きいだけでは、私に勝てませんよ」
シンエイは
半径一メートル。
その間合いに入ったものは、すべて切り落とされていた。
それは、
二本の腕しかないはずのその姿が、
まるで阿修羅のように敵の目に映っていた。
怒り狂ったアリが、巨体を転がすように暴れ回る。
歩けなくなったアリを見て、シンエイがコノハに指示を出す。
「コノハ殿。
終わりましたので、入り口を解放してください」
その瞬間だった。
左右に鋭い顎を広げ、シンエイへと飛びかかった。
そしてシンエイは、
そのままアリの口の中に消えてしまった。
「シンエーーーイ!」
コノハの叫びだけが響いた。
「はい。何でしょう?」
「え!?」
「入り口の解放をお願いしますね」
巨大なアリの口からシンエイの声が聞こえた。
「こいつはすでに死んでます」
そう言ったかと思うと……
巨大なアリの頭が、内側から吹き飛んだ。
その場所には、血の刀を構えたシンエイの姿があった。
シンエイは刀を振り、血を振り払う。
木の根を噛んでいたアリたちが、その姿にたじろいだ。
「すごいでちゅね!
では解放します」
木の根が地面へと消えていく。
その瞬間。
たじろいだアリを乗り越え、
後ろにいたアリの軍勢が押し寄せる。
それでもシンエイは、
入り口付近ですべてのアリの侵入を防いでいた。
だが。
青みがかった黒い殻が、きらりと光る。
「パキーン」
シンエイの、血の刀が折れた。
折れた刃先が宙を舞い、
壁へと突き刺さった。
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