31話 シンエイの忠誠
「まおうちゃま。
今日はたくさんの冒険者が訪れましたね」
「そうだな。
でも前はダイヤのパーティーだけで二階層も増えたのに、
今回も二階層しか増えなかったんだな」
「ダンジョンが深くなってくると、
そんなに簡単には成長しまちぇん」
「そういうもんなんだ」
「そういうものでちゅ」
これで全部で六階層。
次はボスをどうするかだな……。
そんなことを思っていると、
カマキリのシンエイが進化していた。
「何事だ!
俺はお前に魔力を与えてないぞ!」
カマキリの腕だったのに、
いつの間にか人間の腕となり、
血で作られた刀を握っていた。
「魔王様。
勝手な真似をいたしまして、申し訳ございません」
膝をつき、深々と頭を下げている。
逃げたように思っていたけど、
忠誠心はあるようだ。
「お前は、ダイヤからなぜ逃げた!」
「……。
はっ! 拙者の命に代えて、お詫び申し上げます」
血の刀を腹に突き立てようとする。
「ちょっ、ちょっと待て!」
俺の言葉を素直に聞いてくれたようだ。
手は止まって、ピクリとも動かなかった。
そして口から泡を吐き、
シンエイはそのまま気絶した。
……。
シンエイが目を覚ますと、
俺は改めて問いただした。
「なんでお前は逃げたんだ」
「恥ずかしながら……
あのダイヤという者に、
拙者が勝てる見込みがございませんでした」
「だから逃げたのか?」
シンエイは、
今にも腹を切りそうなほど悔しそうな顔をしている。
「お前ほどの奴が逃げるなんてありえない。
何か理由があったんだろう?
言ってみろよ」
「……」
「怒らないから、言えよ~」
<王らしく振舞うように頑張るんじゃなかったのか?>
俺の柄じゃないんだよ。
するとシンエイが、
少しずつ語り始めた。
「あの場で……
拙者は相打ち覚悟で奴とやり合うつもりでした。
しかし……
勝てる気が全くしなかったのです」
シンエイが苦悩の表情を浮かべている。
「そして……
魔王様を信じ切れなかった拙者は、
家臣として失格だという結論に至りました」
ん?
俺を信じ切れなかった?
まあ、俺は頼りないからな。
けれど、
それと逃げたということと、
どういう関係があるんだ?
「死んでも、お前たちは復活させてやるぞ」
「それでは駄目だと思ったのです。
ダイヤの通り過ぎた後、
冒険者の集団が押し寄せていました」
今日は大盛況だったからな。
「拙者に、ダイヤという男の底が知れず……
『魔王様とダイヤのどちらが勝つのか』などという、
恥ずべき天秤にかけてしまったのであります」
シンエイは本当に堅いなあ。
もっとフレンドリーでいいのに。
<王らしくはどうした>
ハイハイ。
シンエイの言葉が続く。
「魔王様が勝つに決まっている。
……それを僅かでも疑ってしまった拙者に、
生きる価値などございません」
また腹を切りそうなので、
なんとか落ち着かせた。
「そのことはもういい。
次に自分を傷つけるようなことをしたら、俺が許さん」
「はっ!
なので拙者は、
魔王様がダイヤと存分に戦えるようにと思い……
後続の冒険者を拙者のボス部屋で留めることに専念したのであります」
なるほど。
だから冒険者と戦って経験を積み、
進化したのか。
……全部、俺のためだったということなんだな。
こいつ、本当に真面目過ぎるだろ。
でも、それも悪くないか……
「これからも頼んだぞ、シンエイ」
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