浩章の誕生日 ショートストーリー
「浩章、来月お前の誕生日だよな。お祝い兼ねて金曜日に
飲みにいこうぜ!」
会社の同僚、園田が声を掛けて来た。
浩章の誕生日は5月4日、ゴールデンウイーク真っ只中。
たいがい休み前に飲みの誘いがかかる。ゴールデンウイーク中は
皆色々と忙しので仕事終わりの方が集まりやすい。
浩章は片手を上げ答える。
「おう、いいよー!ありがとな」
同僚数人で飲みに行くのが恒例となっている。
この年になっても誕生日を祝ってくれる仲間はありがたい。
毎年、誕生日は高志が浩章のリクエストに答えて出掛けている。
”今年の誕生日のリクエストは?”
数日前に高志から連絡が入っていた。
「どうしようかな~」
会社の椅子にもたれ掛かってぼーっと考える。
「今年は冬真も一緒だよな~」
それが嫌な訳ではない…むしろ騒げて楽しい…が…
誕生日は高志に気兼ねなく思いっ切り甘えられる日で
昨年までは”デートの日”と勝手にウキウキしていた。
あの日…高志を有崎の元へ送り出した時に吹っ切ったつもり
だったが…過去の思い出が寂しい気持にさせる。
「折角なら思いっ切り騒ぎたいな~、篤さんでも誘うか…」
この状況を理解していて気兼ねなく誘える人物は篤しかいない。
ふたりが付き合う事になった時高志は篤に報告をしていて
篤は”そうか、おめでとう”と祝福していた…が…
その後浩章は篤に呼び出され詳細を聞かれる羽目になった。
ふたりでしんみりと酒を飲みながら篤は
「お疲れさん!」
と浩章の頭を撫でてくれた。涙を隠すのに苦労したのを
憶えている。
”篤さんを誘って四人で出掛けたい”
と高志に返信を打つ。昨年の想い出に上書き出来る様に
楽しみたいと思ったからだ。
「浩章!早いけど誕生日おめでとう!」
ゴールデンウイーク前の金曜日、行きつけの居酒屋に浩章と
同僚三人の四人で集まっていた。
「早いけど、ありがとう!」
グラスを片手に”カンパーイ”の声で酒を飲み込む。
誕生日祝いとは言っても別段変わった事は無くいつもの様に
会社の事や休み中の事などたわいもない話で盛り上がる。
「俺さ、来年結婚しようかと考えてる」
園田がぽつりと言う。
”おお~”と周りが声をあげた。
「そうか、おめでとう!」
「うん、ありがとう。彼女とは長い付き合いだし、そろそろ
ふたりの先を考えても良い時期かなって」
頭をかき照れる園田の嬉しそうな笑顔が浩章には眩しく見えた。
お祝いムードの中同僚のひとり工藤が浩章に話し掛ける。
「浩章も片思いにケリを付けて新しい恋を見つけろよ!」
浩章は紹介話しが出るたび”片思いしてるから”と断ってきた。
「ははは、そうだな~いい加減考える時かな」
出来るだけ明るく答える…がやはり寂しい気持が心を冷やす。
「俺もだけど、お前らも考えろよ!」
浩章は他のふたりに反撃をする。
”だよな~”と笑い楽しい時間が過ぎて行く。
園田がそろそろ彼女が迎えに来ると言うのでお開きにした。
程なく可愛らしい彼女が園田の横に立ちペコっとお辞儀をした。
「じゃ、また!」
と言って園田と彼女は歩いて行く。その後ろ姿に高志と一緒に
歩く自分の姿を重ねてしまう。彼氏側は高志、浩章は…
ーー俺は彼女側なんだな…甘えて守って貰う側…ーー
そう思いふたりの後ろ姿を何時までも見てしまった。
「なんだ~?羨ましいのか?」
声を掛けられ”ちげ~わ”と答えた。ふたりに次の店に行くぞ!
と言われたが寄る所があると断り”タップ”へと足を向けた。
「はぁ~」
”タップ”に着き奥のカウンターに座った浩章は重いため息を
吐いた。店の中は常連さんで賑わっており浩章は気付かれは
しないだろうと思ったが近くに座っていたまきが声を掛ける。
「あら、重いため息を付いて。恋の悩みかしら?」
疲れた様に頬杖を付いていた浩章はまきを見る。
何故、女の人は感がいいのだろうか…と思いながら答える。
「はは、恋の悩み…の前ですね…相手が居なくて…」
「あら、ここにいい女いるじゃない?」
まきは”うふ~ん”とばかりに浩章に熱い視線を向ける。
「まきさん?…食われそうだし色々と大変そうだから
遠慮しておきます」
周りの常連さんは浩章の言葉に頷く。
「あら、皆で失礼じゃないかしら~」
店の中から笑い声が上がる
「後で聞くよ」
篤がそっと声を掛けた。そう、いつも浩章が思い詰めた時には
篤が飲みながら愚痴を聞いてくれた。この店”タップ”は気持ちが
楽になる、楽しめる隠れ家的な場所である。
日付が変わる頃になると客は浩章だけになった。
「お待たせ、今日はどうした?」
篤が手を動かし片付けながら聞いてくる。
「今日飲み会の時、同僚から結婚の話しが出て…俺も考えないと
かなって思って…彼女作って一緒にって…でも考えられなくて」
篤は手を動かしながら”うん”と相づちを打つ。
「でも…同僚と彼女の歩く後ろ姿を見た時…俺って今まで兄貴に
守って貰ってわがまま聞いてもらってた側だから…
俺に彼女が出来ても答えたられるのかなって…兄貴の様に
…なれるのかな…って…なんか自信無くて…」
「でも、弟君は有君を守ったり励ましたりしてたでしょ」
「う~ん、…それとは違うでしょ…何だろう~俺って頼りがい
無いし…今のままだと彼女側の立ち位置なのかなって…」
いつも元気なイメージの浩章が小さく弱々しい姿を見せるたびに
篤の心に何かが芽生える。
「そうかな~有君の為に動いてた弟君は男気有って頼りになる
感じだったけどな~」
「そう?なんか…自分が分からないや…」
寂しそうに笑う浩章を見て篤の想いが形になる。
「…じゃあ…俺と付き合ってみる?」
浩章は”え?”と篤を見ると優しく微笑む姿が目に映る。
篤の微笑みの顔が高志の微笑みの顔と重なる。
「…ヤバイ、俺かなり酔ってるかな…帰るわ」
篤は何も言わず会計をした。浩章は会計を済ますし出口に向く。
酔っていたのか慌てていたのかバランスを崩してよろけてしまった。
「おっと!」
転がる前に篤が腕を掴み浩章を支えたので転がらずに済んだ。
「あ、ありがとう…」
先ほどの篤の言葉を思い出しまともに顔が見られない。
「弟君…さっきの言葉は冗談じゃない…考えてみてくれる」
下を向く浩章の頭の上から言葉が降る。
「…うん…」
と小さく答えて店を出た。
浩章は家に着き篤の言葉を思い出す。
あの時、心の中で驚きの感情の後に嬉しい気持ちが沸き、そんな
自分に驚いて急いで帰って来てしまった。
「俺は…篤さんが好き?」
自分に解いてみたが…ときめき…などは残念ながら無い。
「篤さんが俺を好き…」
その時、体に熱いものが沸き上がりそわそわしてしまった。
篤の好意に対して嬉しいものの自分の気持ちが解らない。
高志の代わりに見ているのかもしれないと自制しているの
だろうか。
「あ~~!兄貴の亡霊消えてくれ~」
浩章は頭を抱えてベッドに横になった。
次の日高志は篤に呼び出されていた。
「今日、有君は大丈夫なの?」
「ああ、大学時代の友達と会うと言ってたから」
まだ店が開く前の静かな店内で篤に酒の入ったグラスを渡された。
「浩章の誕生日の打ち合わせか?」
「それもあるが…お前に聞いて欲しい事が有ってな…」
「お前がそんなふうに俺を呼び出すなんて珍しいな」
篤は水の入ったグラスを持ち高志の隣りに座った。
「…弟君の事なんだが…」
「ん?」
高志は酒を口に含み篤を見て次の言葉を静かに待った。
「俺…昨日、弟君に俺と付き合う?って言った…」
高志は驚いた顔をしてこくりと酒を飲み込んだ。吹き出したり、
気管に入らなかった事に自分を褒めたいと思う。
「な…お前…」
「待て待て!ちゃんと聞いてくれ!」
高志の持っているグラスが震えているのを見て篤は慌てた。
”ふう~”と言って高志は力を抜く。
「決して冗談やお前の代わりなんて見ていない!」
グラスを見ている高志をチラッと見て篤も自分のグラスを見た。
「お前と有君が付き合う前に何度か相談と言うか悩みを吐きに
来ていたんだ…」
「……」
「それがさ、辛いだろうに明るく言うんだよ…有君にこう言った
けど大丈夫だったかな~とか、お前が変わってきたとか…
自分の気持ちを殺してお前たちが上手くいく様に考えて…」
篤の言葉に高志は苦しそうに目を閉じて聞いている。
「そんな弟君を見ていたら…傍にいてやりたくて…俺も居るよ
って言ってやりたくて…昨日、恋人が作れないって悩んでて…
とても小さく見えたんだ…だから…俺が守ってやりたい!
そう思ったら言葉にしていた…」
篤は高志の顔を見ると閉じられている目にはうっすらと涙が
滲んでいる様に見えた。
「弟君にとって今も一番は高志だと思う…いや、俺もだけどね。
お前の代わりでいい…辛い時に飛び込める所を作ってやりたい
んだよ…寂しい顔をさせたくない…」
高志は篤の顔を見た。そこには真剣な眼差しを向ける篤が居る。
「篤…」
「ははは、カッコイイ事言っているけど、俺もより所が欲しい
のかもな」
「すまない…」
高志が小さい声で言う。
「ん?」
「俺は勝手な奴だな…ふたりにこんなにも辛い想いをさせて…」
篤は微笑む
「そうだぞ!こんなにもいい男ふたりもフッたんだからな~
でも、俺も弟君も有君には納得しているし、ふたりには幸せに
なって欲しいと心から思ってる…だから…何時までも
ふたりは笑っていて欲しい」
「篤…」
高志は大きくためため息をつき見上げた。うるんだ涙を
落とさないように。
「俺も弟君も先に進まないとな。何時までもお前にまとわり付い
てると有君に怒られそうだし」
篤は微笑んだ。高志は篤を見て頷きながら微笑む。
「ああ、冬真は怒ると怖いぞ!」
「マジで?」
ふたりは”ふっ”と笑いあう。
「篤…浩章の事、頼んでもいいか?」
高志の真剣な眼差しを受けて篤もそれに答える。
「ああ、任せてくれ!お前の代わりにはならないかもしれないが
大切にする」
「浩章を泣かせたらぶちのめす!」
「いやいや、怖いから止めて!」
「…ありがとう…お前になら浩章を任せられるよ…」
「頑張るよ…」
ふたりは”ふっ”と笑い合い互いのグラスを当てると高い心地
良い音をたてた。高志はグラスの酒を口に含むといつもより苦く
そしてほんのりと甘い感覚に酔いしれた。
君の瞳に映る笑顔 浩章の誕生日ストーリーをご覧いただきありがとうございます。
今回は浩章の誕生日と言う事でショートストーリーをアップさせて頂きました。
色々と考えて篤の登場となりましたが、なんだか篤がカッコ良くなってしまい…
あれ?と思っております。2話完結作品となります。
次回は明日、浩章の誕生日当日にアップさせて頂きます。篤の想いは伝わるのか…
お楽しみ頂けたら幸いです。
あらかると




