すれ違う本心
それから数日後、突然モニカからこんな話があった。
「ヴァンは今回の動乱について、自分の活躍を証明出来る人はいないの?」
何を思っての発言なのか、それは当然王国位存続会談に向けてだろう。モニカからこの発言が出たと言うことは、一応僕を庇ってくれるという方向性で良いんだよな? それともまさか僕が会談に邪魔出来ないように、
「あぁ、アリスが僕の活躍を証明出来るよ」
「そう、ならアリスを殺すわ」
「!?」
なんて事でもする気なのだろうか。いやいや、普通に考えてそんな訳がない。そもそも僕とモニカはもう王女勇者の関係になってそこそこ日が経つ。お互いを思い合い互いがよりよくなる選択をするはずなのだ。何もこんなに悲観的になることはない。
「それならアリスが適任だ。彼女は僕がレベッカと戦っているのをしっかり見ている。アリスなら動乱中の僕のことをしっかり説明出来るはずだ」
「そう、じゃあアリスを会談に連れて行くわ」
随分淡々としていた。アリスとシェリルがちょうど席を外している僕の家で、アリスは余所余所しい素振り一つ見せず堂々としている。
「会談に?」
「そう。会談に出てもらって直接他の国のお偉いさんに説明してもらうわ。それが一番効率的でしょ?」
まぁ、確かにその方が内容が湾曲したりすることはなく、おまけにアリスなら僕のことを栄誉さえ感じさせる雄弁なスピーチで他国を皆説き伏せねじ伏せる事が出来るかもしれない。ただいくつか疑問は残る。
「アリスがそんな国のトップが集まる場で話して良いのか?」
「問題なしよ。私の秘書とかいくらでも言い様はあるし、下手に言い訳しなくても重要な証拠人なら問題なく登壇出来るでしょうね」
大事な会談を控えて、緊張でもしているのかとも思ったが、どうやら杞憂だったらしい。まぁモニカも僕が知らないところでいろいろな修羅場を潜り抜けていると言うことだ。
「じゃあもう一つ、そもそも僕が行く必要はないのか? 僕が言ったことに対して、アリスが証言するのかと思ったんだけど」
「そんなことしてみなさい。まず叡智の搭付近には間違いなくアサシンやシーフが潜んでいるわ。目的はそれぞれあるでしょうね、プラトー王国を王国位から引きずり下ろすのが一番の目的だろうけど、それだけじゃない。新たに王国位に就きそうな大国同士も敵同士。既に相当牽制し合っているでしょうね」
「と言うと?」
モニカは一応外にはあまり漏らしちゃいけない情報だからね、と小声になって耳打ちする格好になる。
「何でも今回の会談に参加する数国の内、既に何国かはアサシンやシーフの襲撃を受けているみたい。主に移動手段、王国みたいに魔法で動く車なんてある訳ないから、馬車や荷車が狙われているみたい」
「うへぇ…………」
「それどころか、それすら王国のせいにしようとしているみたいで、今必死に王宮の皆で事実関係を洗っているみたい。既に戦いは始まってるのよ」
随分肝が据わったのだなと、素直に感心した。この前まで些細なことで慌てていたモニカは何処へ行ったのやら。どっしりと構えたその王女は誰よりも頼もしかった。
「あ、あと私の護衛にシェリルも連れて行きたいの」
「え、シェリル?」
モニカから思いもよらないことを言われ、少し驚く。確かに、シェリルはどうやら動乱で逃げる際、危険に瀕したところで琥珀色に目が輝き力に覚醒したとか言う、随分胡散臭い理由で力を得た。本人からその話を聞いたときは頭でも打ったのかと思ったのだが、実際にその力を目の前で披露してもらい、ぐうの音も出ないほど納得したのだ。何というか、魔法すら超越した何かに見えた。
空に向けて放たれた一閃は全てを貫き、雲を穿ち、彼方へと消えていった。あんなもの受けたら一溜まりもない。一度冗談で
「今すぐ私に抱きつかないとヴァンに撃つよ!!」
と脅しをかけられたが、アリスのデコピンで直ぐしゅんとしたのでなんとか助かったのだ。
「彼女の能力についてのレポートを読んだの。きっとあれは琥珀眼ね、詳細はちょっと分からないけど相当な魔導よ」
「モニカがそう言うならすごいんだろうな。それで、シェリルも会談に連れて行くのか?」
「うん、私たちの護衛には国防軍の幹部とその部隊がつくけど、万が一途轍もない驚異に出くわしたら、彼女の力が大いに役立つと思うの。流石にドラケットを連れて行ったらこの国を守る人がいなくなるしね」
露骨に自分を指さしアピールをするが、一直線の視線で異を唱えられて諦めた。僕は勇者だけど、国を守る戦力としては数えられてないみたいです。
「まぁ、僕の方は問題ないよ。本人に聞いてみてくれ」
「分かった、じゃあそうするね」
そう言って、モニカは胸をなで下ろしていた。立ち上がって飲み物を貰うわね、と言いキッチンの方へ歩いて行った。ちょうど僕も口が寂しかったので何かないかと立ち上がった。形的にモニカを追う形になり、後ろをついて行くと僕が後ろにいるのに気がついていないのか、キッチン途中で立ち止まり、リビングからは見えない角度に寄りかかってまた胸をなで下ろす。
「良かった。とりあえず、これで抜け駆けするのは阻止出来たわね」
「え、抜け駆け?」
ドカッ、と。モニカが後ずさりしてそこに手をつく壁がないため尻餅をついた音が響き渡った。顔を真っ赤にしてこけたモニカに僕は手を差し伸べ、首をかしげる。
「何の話だ?」
「…………な、何でもないわよ!! バーカ、バーカ!!」
慌てて立ち上がり、飲み物も取らずにリビングに戻ってしまうモニカ。僕はコボルト村の村長から貰った蜜のお菓子と二人分のお茶を淹れてリビングに戻る。
テーブルにお茶とお菓子を置き、クッションを抱きしめうずくまるモニカの隣に座った。
「驚かせて悪かった、ごめんな」
「……………………」
うーん、機嫌を損ねてしまったご様子。別に驚かせたつもりはなかったんだけど、結果としてこうなってしまったのだからしょうがない。念押しで謝るか、そう思ったとき、モニカはクッションに顔を埋めたまま、
「ヴァンはよく頑張っ―――と思う。だか――――休んで――――しい」
「え、よく聞こえないよ。クッションから離れて話さないと」
「私がいない間、王国はドラケットに任せてれば良いの!! ヴァンは正体も分からないトラジェディの、しかも私たちを裏切っていたレベッカと戦ったんでしょ? ヴァンにはこれ以上危険な目に遭ってほしくないの!!」
顔を埋めたまま、叫ぶようにモニカは声を上げた。遮られていたため、大きな声ではなかったけど、今度はしっかりと聞こえた。トラジェディやレベッカの話は大方説明したし、王宮の方でも調査が進んでいるのだろう。レベッカを信頼していたモニカには辛い事実だったかもしれない。また、僕やアリスの説明で彼女がとても強いこともモニカは知り、僕が半ば死にかけたのもアリスからの情報で知ったのだろう。
「そんな大げさな話でもないさ。元々レベッカは一際僕を嫌いだったし、なるべくしてなった戦いだったんだよ」
「でも死にかけたんでしょ? 前だってレベッカに殺されかけて、助けたのは私だよ!! 少しは私の気持ちも考えてよ」
「…………そうだね、ごめん」
「…………なんで、ヴァンが謝るのよ」
顔を右へ左へ揺らすモニカ、もしかしたら泣いているのかもしれない。
なんだか、随分湿っぽい空気になっちゃったな。




