のどかな昼下がり
月日が経つのはなかなか早いものだった。もう動乱から一ヶ月も経ったのかと思うと、その間僕は何もしていなかったように思う。もちろん復興作業などは手伝ったものの、僕が手伝うと皆の手が止まって悪口大会になり、作業は進まないし僕も傷つくので踏んだり蹴ったりだ。
モニカの手伝いに行こうかとも思ったのだが、予めボックスで来なくて良い、来ても歓迎出来ないしヴァンに出来ることがない、と言われてしまっていたので、結局家でごろごろするくらいしかすることがなかった。
動乱後の国内は忙しくなく、王国軍とギルドは事実上の消滅となり半永久的な幽閉が決定されていた。今頃王宮の地下で薄暗い毎日を送っているのだろう。だけど、そうなると国内の戦力は著しく低下してしまう。そんな心配をした僕だったけど、間もなくモニカから報告があった。
国防軍の発足が発表されたのは動乱から二週間後くらいのことだったと思う。長官はまさかのドット、モニカから直々の指名だったそうだ。なんでも、今回の動乱で功績を残していたようで、それを評価しての抜擢らしい。動乱後一度だけモニカに会う機会があったのだが、そのとき
「ドラケットはヴァンより強いよ。私見たもんね」
なんて、ドラケットの取り巻きのようなことを言っていた。僕だって無欲の世界に頼らないでドットに勝てなんて無理な話だと思う。模擬戦の時だってドットは銃ではなく剣を使っていた訳だし、おそらく僕程度に本気を出したらその時点で負けだとでも考えていたのだろう。
余談ではあるが、そのモニカとあった際はなるべく動乱のことや、これからのことをしっかり話し合っておくべきだろうと考えていたのだが、何故かそう言う話にはならなかった。一方的に僕がいろいろ言われ、それをどうしようもなく聞くだけ。
「あーあ、これから私大変だなぁ」
「だよなぁ、王女としてこの動乱に収集つけるのは骨が折れそうだ」
「その間ヴァンはかわいいメイドさんと仲良く三人でのんびりしてるんだもんなー」
「モニカが手伝えって言うなら手伝うぞ?」
「役に立たないからいらない」
「えぇ…………じゃあどうしろって言うんだよ」
「ふーんだ」
とまぁ、嫌みのような感じである。僕だってモニカが大変なときにやることがないというのは居心地が悪い。でも、モニカにいらないって言われているのにどうすれば良いというのだ。別に本当に機嫌が悪い訳ではなかったので、その後はそれなりに話は出来たのだが、たとえばこれからどうしようか、なんて話題になると、
「……私がある程度自由になった後の予定建てようよ!! ほら、ハイドランスに新しく出来る予定のカフェとか!!」
「え、それいつになるの?」
「…………ずっと先」
と、途端に不機嫌になってしまうので、なかなか話は進まなかった。結局、お互い生きてて良かったねとか、次は私が頑張るね、なんて話をして、終わってしまった。
その後の国防軍発足だ。モニカが本格的に仕事に取り組み始めた狼煙のような位置づけだったのかもしれない。幹部にはアイナなど、士官学校の同級生が数名、残りの国防軍も王国騎士団や召集に応じた剣士によって構成されているらしい。王国軍とはかなり近しい組織だが、大きく違うのは国防軍が王宮直属の防衛軍であると言うこと。簡単に言えば、今回の王国軍のような暴挙は起こらないと言うことだ。
それから、今回の動乱によってプラトー王国は王国位の正当性が問われているのだとか。王国であるためにはいろいろ難しい条件があるらしく、今回の動乱を引き起こしてしまった我が王国は自国の管理が完全に出来ていないのではないか、などと疑われ、近隣の大国にいちゃもんをつけられているらしい。
これについて、王国側は動乱の詳細、そして正当性の証明をする場として会談を持ちかけ、王国位存続並びに大国の王国位検討会談が催されることが決まった。モニカは当面、この会談に向けて死力を尽くすことになるのだろう。
「――――とのことだ」
ボックスなどから伝えられた情報をアリスとシェリルに伝える。クッションを抱きかかえながら聞いていたシェリルはアリスからお茶とお茶菓子をもらい受け、難しそうな表情をした。
「大変なことなりそうだね。もしプラトー王国が王国じゃなくなったらどうなるの?」
「うーん…………どうなるんだろうな。多分王国だから得られていた恩恵が失われるから、生活が少し不便になったりするんじゃないか? たとえば、物価が上がったりとか」
人数分のお茶と菓子を用意し終えたアリスは、エプロンをたたんでシェリルの隣に座った。難しい話が苦手なアリスも、今回の件についてはいろいろ考えているようで、よくご近所さんと話をしていたりする。
「もしかしたら勇者という存在そのものを維持出来なくなるかもしれないなんて話を聞きました」
「え、何それ僕聞いてないよ!?」
「モニカ王女次第らしいですけど、もし今回の動乱の原因が勇者にあるなんて話になれば、勇者が罰を受け、それで様子見。王国位は二の次になるかもしれないそうです」
恐ろしい話を淡々と話すアリス。簡単に言えば死んで償えという奴だ。
「え、え、ちょっと待って!! 確かに僕も至らなかったけどさ、僕だって僕なりに勇者として頑張ったよ、ね、アリス?」
「はい、それはもう!! とても格好良かったですッ!!」
「アリスさん良いなぁ、私もヴァンの戦うところ見たかったなぁ」
僕はアリスの目の前で死ぬ気で戦った。でも言い換えれば、アリスしかその戦いを見ていない。アリスしか証明出来ないが、アリスは国をかけた場で話すだけの発言権はない。と言うことは、僕は何もしていなかったということになるのか?
「ま、まさかモニカが僕を売るようなこと……しないよな」
「でも王女様だよ。ヴァン一人と国民を救うならどっちをとるかな」
「う…………」
シェリルの言葉が痛かった。そんな選択考えるまでもない、僕が死ぬ。
「その会談、僕も参加出来ないかな……?」
「いろんな国の偉い人が来るんだよ? モニカさんも言っていたけど、他の国の中にはヴァンをよく思っていない国もある。下手に顔を見せれば、背中からブスリ……なんてことも」
「ひぃいいぃいいぃいい!?」
四面楚歌極まれり。僕の味方はここにいる二人の少女だけと言うことになる。正直な話今回の動乱、僕はとても頑張った。死にかけながらも、勇者としての信念を貫いてなんとか生き残りトラジェディのレベッカを止めることが出来た。これは相当な勇者であったと自負していたのだ。
けれど、決定的な問題として、僕の事を誰も見ていないのだ。確か見ていなくても、やりきったという結果が大事だと、僕は言ったように思う。
撤回します。見てもらえてないと意味ないです。
だって何も扱い変わってないもの。むしろ酷くなる一方です。一応ボックスに今回僕が動乱中にしたことをトラジェディとかレベッカとか、危ない名前は隠しつつ公表したところ、
嘘つくな、殺されたいのか。 @野菜大好き
あぁ、嘘はいけませんよ。これは大変な重罪です @勇気とか反吐でるマン
鎖骨砕くぞ @マッサージゴブリン
私、動乱の騒ぎに紛れて勇者に告白されました。酷いと思います。@ミミ
↑最低だね。俺なら君の傷癒やせるかもしれない。何処住み? @☩ゴッド☩
うっひょー、見てみて、僕の勇者がこんなに大きくなっち(規制) @ぽこち
>@ゴッド 死ね @ミミ
>@ゴッド 死ね @匿名
>@ゴッド 死ね @匿名
このようなコメントが溢れ、大いに炎上した。いろいろツッコミたいことはあれど、嘘だらけだし僕の掲示板にまで出会いを求めて彷徨う人が来ていることがびっくりだ。途中から僕の事なんてどうでも良いかのように標的が変わっており、何だか僕も希望が持てました。ありがとう、☩ゴッド☩。君の個人掲示板が閲覧ランキングに乗る勢いで炎上していてめちゃくちゃ笑わせてもらったけど、君の気持ちは分かる。いつか仲良く出来たら良いね。
お茶をすすりながら物思いにふけっていると、いつの間にか隣に座っていたシェリルが僕に問いかける。
「それで、これからどうするの? 会談をただ待っているだけじゃダメだと思うんだ」
「でも、私たちに何が出来るんでしょうね……」
「会談って何処でやるんだっけ? モニカには来るなって言われたけど、バレないように言ってなんとかしないと怖くて夜も眠れない」
「確か叡智の搭って言っていたような気がする。でも、やっぱり行く方が危険だよ。夜眠れないなら私が添い寝してあげる、なんなら抱き枕にしてくれても良いよ!!」
「あ、シェリルさんそれはいけませんよ。シェリルさんが一緒に寝るなら私も寝ます。私だってヴァンさんと一緒に寝たいです」
え、何処でやるって? 後に続く言葉に驚きすぎて聞きたかったところが聞けなかったぞ。って言うか、アリスはもう一緒に寝たいって僕が怖くて寝られないってところは関係なくなってるのね。まぁ悪い気はしないけど。
そんなこんなでわちゃわちゃと騒ぐ昼下がり。後で聞き直した叡智の搭とは、プラトー王国から出て草原をひたすら歩き、王国領土を出て直ぐにある中立地帯だ。魔力の根源や貴重な魔導所があるという雲を貫く背の高い古搭で、その中層が円卓のある大広間になっているのだという。そこそこ気になる場所だ。
叡智の搭には誰も明るくなかったので、今度図書館に行ってみたり、人に聞いてみたりして情報を集めようという話になった。ちなみに、この日の夜は結局三人で寝ることになりました。
殆ど下着姿の麗しき女性を両脇に、二人とも僕の腕をとり足を取り、いろいろ絡まって訳が分からない体勢のまま寝入ってしまったため、僕一人だけ興奮して眠れませんでしたとさ。
「…………どこもかしこも柔らかい」
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そのころ、王宮の寝室ではモニカが一人、全く眠気を感じさせない鋭い眼光で仰向けで天井を睨んでいた。
「ヴァンの煩悩を感じる。後で絞めようそうしよう」




