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エピローグ2

動乱の終結から一日が経過した。生存している動乱首謀者、要するにギルドメンバーと王国軍は確保され、王宮に幽閉される運びとなった。各地の復興作業も順調に開始され、いよいよモニカの本当の戦いが始まろうとしていた。


 ハイドランス王宮前では続々と王国軍やギルドの面々が地下牢への道を進んでいく。野次馬のように集まった観衆が思い思いにヤジを飛ばし、国を崩壊の直前まで追いやった相手がいるためか、その場にいる僕には暴言が飛んでくることはない。


 国の問題にあまり興味のない子供達、その中でも例のゴブリン、ドルイド、たけし達は徹して僕のすねを蹴ってくるが、レベッカとの死闘を乗り越えた僕にはそんなもの効かない。


 ガシガシ、ゲシゲシ、ゴッ、ゴッ。


 いや、痛い。泣きそう。凄まじいまでに研ぎ澄まされた信念というのはやはり恐ろしい。妥協は一切なく、ただ一点を迷いなく蹴り続ける。思っていた以上に辛いものだった。


 いい加減物言おうとしたそのとき、子供達をしかりつけるような優しくも厳しい怒号が飛んだ。


「こらっ、何してるの!!」


 その言葉に三人衆は尻に火をつけられたように飛び退いてどこかへ去って行ってしまった。腰に手を置き、ため息を吐く栗色の髪の少女。動乱の少し前からお洒落にも興味が出てきたようで、アルバイトでためたお金でちょっと大人びた淑女の洋服を集め始めていたシェリルは、今日も件の新しい衣服に身を包んでいた。


 美しさよりはまだかわいさが目立つ膝上丈の黒いスカート、淡いベージュのもこもことした羽衣は、毛並みを評価される珍しい種類の家畜から得られる毛皮を編み込んだニット。その上からサスペンダーがスカートに伸びたそのファッションは、堂々とハイドランスの街を歩ける装いだった。


「ふぅ、助かったよシェリル。子供に物言うのは気が引けてね」


「ヴァンは勇者なんだから、堂々としなくちゃ」


「そうなんだけどな。それはそうとそう言うシェリルは堂々とした出で立ちだな。最近のファッションがよく似合う、流石シェリルは若いな」


「何言ってるの、歳なんて殆ど変わらないでしょ?」


 少々恥ずかしがりながら僕の横に来るシェリル。とは言えよく似合っているのは事実で、一昔前の勇者みたいな格好の僕と並ぶとかなり浮く。シェリルもう浮くし、僕もなんだかみっともない気がしてきてしまう。だからそれとなく離れるのだが、シェリルは直ぐに近づいてくる。


「なんで離れるの?」


「いや、流石に服が釣り合わなすぎるだろ。お互いに損するぞ」


「いいの!! 私が側にいたいんだからいればいいの!!」


 そう言って無理矢理僕の腕に自分の腕を通すシェリル。今までどこにでもありそうなもっさりとした服を着ていたから気にならなかったが、こうして見てみるとシェリルもかなりスタイルが良い。アリスには流石に叶わないが、何というか、アリスはそれこそ完璧すぎる。その点シェリルは僕よりも背は低いし、膝下が笑ってしまうほど長い訳でもないから素直に綺麗だと感心出来る。おそらく脱げばすごいと言う奴かもしれない。胸もそこまで大きくは見えないが、こうして手を組むとその存在感があらわとなる。


「何見てるの?」


「おほう、何でもないよ何でもない!!」


「おほう?」


 よこしまなことを考えていると口から出る言葉がおかしくなってしまう。あぁこういうときに無欲な世界が恋しくなる。来てほしいときには来ない、ツンデレな奴なんだ、もう一人の僕は。


「それより、アリスはどうしてた?」


「寝ていたよ。すごく疲れていたみたい。アリスさん一人を家に置くのはどうかと思ったんだけど、寝る前にアリスさんから気にしなくて良いよって言われてたから、お言葉に甘えてきた」


 アリスは動乱後、緊張の継続と過剰な戦闘によって心身共に疲れ切っており、しばらく寝ていたのだ。家に着いてからは僕も少し看ていたのだが、様子が落ち着いてきてからは大丈夫だろうと言うことでハイドランスの方へ来ていた。シェリルは自分の力で家まで戻ってきて、僕に無事である事を伝え、遅れてハイドランスへ向かうことを伝えてしばらく休んでいたのだ。


 周りの視線が若干、綺麗な女性をはべらせる僕に注がれ、口が死ねの形になりつつあるが、言葉にはならずにギリギリを保っていた。


特に若い男の視線は強い。なんでお前みたいなポンコツ残念来世に期待系勇者がそんな綺麗な女の子連れてんだよ、と言わんばかりだ。


 それでも死ねと言われないのは、今回の功績が称えられたのだろうか。そうであってほしい。


 そんなことを考えていると、シェリルは興味深そうに行列を眺めていた。それはギルドと王国軍の行列。直ぐに逃げたシェリルには一番リアルな光景なのだろう。


「こんなにいたんだね」


「あぁ、ざっと数えても五〇〇人近いんじゃないか? 他にも命を落としたものもいるだろうし、計り知れないよ」


 王宮地下へと続く道、その入り口にはモニカがいた。皆を厳しい視線で見送っている。行列を整備している面々は王国騎士団や士官生が多く、ドットやアイナの姿も見られた。


「さてと、僕ちょっと用事があるから少し離れるよ。直ぐに戻ってくるから」


「…………誰?」


「え」


「もしかして、女?」


 その目は今まで見てきたシェリルの表情、眼光の中で一番鋭く思えた。心なしか、琥珀色に輝いているようにも見えた。魔法でもあるまいし、目の色が変わったかと思うほど睨むなんて、シェリルは何をそんなに恐れているんだ。


「いや、男だよ。ちょっと話がしたいって呼び出されていてね」


 手をひらひらと翻し、それを合図として僕はその場を離れた。王宮の裏側に回り、予め言われていた通りに裏口から王宮に入り、地下を目指す。王宮の裏口は元々モニカから教えられており、面倒くさい処理をすっ飛ばして私に会いたいときはここを使えと教えられていた。そこを通り、ギルドや軍の面々とは反対側の階段で地下へと下りる。地下にあるのはもちろん地下牢。


 僕に話をするために早々と牢に入った物好きな男に会いに行くのだ。





「やぁ、待っていたよ」


「…………手短に話してくれよ」


 人一倍堅牢な牢に入れられていた男、その男からは以前のような圧倒的な殺気は感じられなかった。軍最高司令官、ヴェイロンはみすぼらしい囚人服を着せられ力ない笑顔で笑って見せた。


「今回の事件、ギルドでも軍でもないものによって幕が閉められたのは知っているよね?」


「あぁ、レベッカ達だろ。確かトラジェディとか言ってた」


「そう。彼らの目的はよく分からないが、元々私たち軍とギルドはこの王国を滅ぼす気でこの戦いを始めた。その理由と、これからのことを話しておきたくてね」


 最初に聞いたときは脱獄か何かをする気なのかとも思ったが、本気を出せば簡単に脱獄などできるのだろう。今は出来なくとも、気が十分に回復すれば容易だ。そんな僕の考えを盗み見たのか、彼はそんな気は毛頭ない。今はやるべき事があり、それを実行出来るのは自分ではなく勇者だと、そう言ってきたのだ。


「今更それがどうしたんだ。お前達の不毛な争いはどうしたって正当化出来ないぞ」


「そうじゃない。今回私たちが何故こんな暴挙にまで出て王国を滅ぼそうとしたのか、それが問題なんだ」


 そこまで言って、ヴェイロンは声を小さくした。


「君には真実を伝える。いいね?」


「…………あぁ、さっさとしてくれ」


「――――私たちがこの国を一度滅ぼそうとした理由、それはモニカ王女だ」


 意外な名前が飛び出した。聞き間違いかとも思ったが、ヴェイロンの表情を見るにそんなことはないようだった。


「何だって?」


「いいか。君が国中に嫌われているのは何も君が怠け者だからとか、分不相応なのに勇者になったからじゃない。モニカ王女が原因だからだ」


「何の話だ。自分で言うのも癪だが僕が勇者になれば嫌われるのは必然だと思うぞ。だからこそ、ある程度真摯に受け止めることが出来ていたんだからな」


「よく考えてみるんだ。だからと言ってあんなに嫌われるだろうか? おかしいと思うだろう。それには王女が深く関わっている。思い当たる節はないか、自分が嫌われる、その要因にモニカ王女が関わっているという問題に」


 催眠をかけるようなヴェイロンの問いかけに、冷静になって考えてみる。言われてみれば、何かシェリルが気になることを行っているような気がしてきた。それに、襲撃の復興作業をしているとき、ある老人に何かを言われかけたような気がしなくもない。だが、曖昧な記憶だった。


「ダメだ、思い出せない……」


「いい、今は良いんだ。ただその可能性だけ覚えておいてくれ。君という勇者への風当たりが強いのはモニカ王女に原因がある。その事だけ覚えていてくれればいいんだ」


「こらっ、そこで何をしている!!」


 ヴェイロンの言葉はそこまでだった。言外に早く行け、と示したヴェイロンに鞭打たれたように、僕の体は飛び出した。逃げるように裏口へと向かい、そのまま表門まで走って逃げる。振り返ると、そこには誰もいなかった。たぶん、ヴェイロンがうまくやってくれたのだろう。


 ほっと一息つくと、シェリルが手を振っているのが見える。僕は息をならしてゆっくり歩き出す。


 今回の動乱、僕は信念を貫き通し、なんとか勇者として戦い抜くことが出来た。それが国民に伝わっているかどうかは分からない。でも、それはそこまで重要ではない気がする。知られていなくても、貫き通したという事実が大切だと僕は思う。ヴェイロンの言葉の真偽は、とりあえず保留だ。でも、あそこまでして僕に伝えたのだから信憑性はあると思う。ただ、モニカに原因があると言っても、モニカが何をすれば僕がこれほどまでに嫌われるのか、その理由を見つける方が難しい気もする。


 そして今回の黒幕であるトラジェディ。王国を造り直すという目的、それが嘘偽りではないとすればも僕の敵ということになる。


「ヴァン早くー!! さっきから食事の誘いが酷いんだよー!! 助けてー」


 まぁ、とりあえず今日くらいは一度落ち着こう。このままだとせっかく戦いに生き残ったのに頭のパンクで死んでしまう。モニカはしばらく忙しいだろうからあまり話せなくなるだろうけど、僕だって勇者としてそこそこの経験を積んできてた。なんとかなるだろう。


「誰だぁ、僕の仲間をナンパしてるのは!?」


「うっさいわしね!!」


「えー、せっかく堪えてたのに言っちゃうの!?」


「堪えてないわ、調子乗るなよ消し飛ばすぞ!!」


 え、いきなり辛い。マジ病み…………。


なんて言ってられない。


 なんて言ったって僕は勇者だ。


 勇ましい者なんだよ。決して屈しはしない。


「消し飛ばさないでくださいごめんなさい」


 でも低姿勢。仕方がないんだ。調子に乗ると本当に干されちゃう。


 とまぁ、そんなこんなでまたいつもの日常に戻るのだろう。問題は山積みだが、見てくれよ、この青空を。


 この空を見れば、なんだって出来そうになるだろ。それくらい簡単で単純な方が世界は楽しいんだ。


 その方が、絶対にね。



動乱編完結です。


続いてのお話も既に書き始めております。

何やら天に見惚れられた声の持ち主や、奴隷が登場する様子……


引き続き、よろしくお願いします。

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