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知らぬが仏

 シェリルが王国軍本部に向かう途中、ロストリオンにさしかかった辺りで突然彼女の目の前が爆裂するように光り出す。しかしその現象さえも琥珀眼によって若干早く対応してしまう。力の流れを逆転させ、琥珀眼の力で足から地面に伝えていた魔力の向きを前方に向け逆噴射するように変える。


 その甲斐あって、光の爆裂に巻き込まれることはなかったが、光が消えた後、そこには予想外の光景が見えた。


「いってて…………走るの速いよ!! 先回りするの大変だったんだから!!」


 場違いなほど着込んだ少女に驚くシェリルだったが、それ以前に琥珀眼を通して見るその少女はこれまでに見た誰よりも莫大な力を秘めていた。慌てて射線を通して魔法を放とうとするが、その前にシェリルの視界が一瞬にして闇に覆われる。


「え、どうして……何も見えない……」


「私の名前はメリオール、勇者様のお手伝いに来ました!!」


 思いもしない言葉に一瞬で意識を持って行かれたシェリル。視界が開けたと思えば、背の低い女の子がめいっぱい背伸びしてシェリルの目を手で隠しているだけだった。ぷるぷると震えながら背伸びしていた少女は一息ついて、ポーチから一枚の紙切れを取り出した。それをシェリルに見せる。


「これ、なんて書いてある?」


「えっと…………あ、ヴァンって書いてある」


 それはシェリルにとって何度も見たヴァンの文字。何故ヴァン本人が書いたサインを目の前の少女が持っているのか、そんな疑問が表情に表れているシェリルにメリオ-ルは跳ねるように数歩下がって後ろ手を組む。


「ヴァンって字が青いでしょ? これはこの人が生きている証拠だよ。私この人に会って、お仲間さんを助けに行くねーって言って、今ここに来たの!!」


「ヴァンに会ったんですか!! あれ、ちょっと待って。私が戦っているってヴァンは知らないから……もしかして、メリオールさん私を叱りに来たんですか!?」


「ううん、こんな戦場のど真ん中にいたのは驚いたけど、勇者には内緒にしといてあげる!!」


 無垢に笑うメリオールの言葉で、ほっと胸をなで下ろしたシェリル。しかしそこで自分が何故急いでここにやってきていたのかを思い出す。


「そうだ、私列車砲を止めに来たんだった!! 急がないと……」


「列車砲?」


「王国軍本部の最上階の列車砲が稼働しているのを見たんです。たぶん軍が王国に撃つ気なんだと思います」


 その言葉を聞いて、メリオールはわざとらしく腕まくりをして、


「よぉし!! 私もお手伝いするよ、一緒に王国を守り抜こう!!」


「はい、ありがとうございます!!」


 お互いに力を持っていることはわかり合っていた。シェリルは琥珀眼で見た彼女の姿に、メリオールは言うまでもなく琥珀眼の存在に。二人はそろって長い階段を上っていく。そんな中さっき捲ったばかりの袖を直ぐに戻すメリオール。


「やっぱり寒い!!」


「どうしてそんなに厚着なんですか? 寒がりとか?」


「ううん、寒がりではないんだけどね、私のペッドがすごい冷たいからねー」


「ペット?」


 そこまで言ったとき、眼前に門を警備する軍の部隊が見えた。シェリルが撃ち抜こうとしたとき、メリオールが手で制する。逆の腕は前方の部隊に向けられる。


 魔方陣が展開する。その魔方陣は咄嗟に出来たとは思えない規模で、大きさはそこまで大きくないものの、組み込まれている術式が綿密だった。まるで異界にでも通じているかのように、その魔方陣から出でしは氷龍。慌てて銃弾を叩き込み、剣を振りかざすのだが全て凍てついてしまい、破砕してしまう。


 唸るような咆哮を上げて強襲する氷龍は十数名いた軍の部隊を一撃で壊滅させてしまう。続けて召喚した氷龍は一目散に地を這うように門に突撃し、その堅牢な扉を叩き壊す。唖然としていたシェリルの手を揺さぶり、メリオールは走るように促す。


「さぁいこッ、今日の散歩コースは王国軍本部だよー!!」





                       ■




「…………覚悟を決めよう」


 本来来るはずの連絡が来ないことで、ウェントムは確信した。予めヴェイロンが考えていたパターンの中でも最悪の状況で推移していることを。


 その場合にウェントムが命じられていたのは、列車砲によるハイドランス方面への砲撃。列車砲の威力は小さい国なら丸ごと吹き飛ばすほどの威力であるため、ハイドランスに撃てば間違いなく都市ごと消し飛ばすことになる。その行為が何を意味するのか、ウェントムは考えないことにしていた。他でもない軍最高司令官であるヴェイロンの指示なのだ、ウェントムは従うだけでそれ以上でも以下でもない。


 本来自国に撃つことなど想定していないため、射角に下限があったのを急ごしらえの工事によって無理矢理改造し、自国の領土をも射程内に捉えた列車砲。既に砲塔はハイドランスに向けられており、後は弾頭を装填し、発射のエネルギー制御を行うのみ。ものの数分で王国の都市を火の海に変えてしまう。


 ウェントムは工事でたたき壊した外壁、そこから見える地平線を眺めていた。高所に立っている拠点であるため、地平線は緩い弧を描いている。空と地上の境界は明るんできており、そろそろ朝日も拝めるだろう。そのとき自分はどのような運命を遂げているのか、ウェントムには想像も付かなかった。


 慌ただしく動いていたウェントムの部下達も、後は発射の合図を待つのみとなりおのおの休憩していたり、ハイドランスの景色を眺めていたり、王国を見下ろしていたりと様々だった。


 静けさはなく、常にどこかで繰り広げられている戦火の音が轟いていたが、もはやウェントムは気にならなくなっていた。でもだからこそ、直ぐ近くで起こっている異変に気がつくことが出来なかった。


 その報告は突然やってきた。息を荒げて階段を上ってくる部下の姿は傷だらけで、どこかで一戦二戦くぐり抜けてきたかのようだった。


「どうした、その傷…………どこか離れたところから帰ってきた部隊か?」


 ウェントムの言葉に、その部下は直ぐには応えられなかった。ウェントムは少し離れた地区での戦闘が激化し、その応援部隊の要請か何かだと思っていた。ところが、その部下は思いもよらない一言を告げた。


「それが…………現在ロストリオンの軍本部、つまり本施設の門は突破され、基地内へ侵攻を許している状況です!!」


「……何だって? 門が突破された…………? 笑えない冗談だな。門の前には機甲部隊や精鋭を配置していたはずだが」


「それが……完全に無力化されています。認められた敵勢力は二名、どちらも圧倒的な力を持っており、機甲部隊は正体不明の魔法によって一掃され、精鋭部隊も氷を操る魔法によって皆簡単に……」


 言い終えるより前に階下で大きな音が響いた。突貫工事によってあまり安定していないその階ではヒビの入った天井からは小さな瓦礫が落ち、列車砲付近の土台も軋み始める。絶望にうちひしがれるような表情の部下を見回し、ウェントムはいざというときのために用意してあった大盾と剣を手に取る。鎧を着込み、頭、腕、胴、足全てを鋼鉄の鎧で覆う。


「そいつらは今どこにいる?」


「おそらくここより三つ下の階にある庭園にいると思われます。門前で戦闘した者の話によると、彼らの目的は列車砲の破壊と見られています。あそこからならこの階に上がらなくても列車砲に攻撃することが出来ます」


「分かった。俺は今すぐその階に降りる。列車砲の発射を許可する、今すぐ発射準備だ。三分で撃て、おそらく俺が持つのはそれが最大だ」


 ウェントムの号で一斉に動き出す。伝令に来た部下に連れられウェントムは当該フロアへと降りていった。




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