↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
84/130

最も嫌われる存在


「ちょっと待ってくれ、話が見えない。お前達はあのレベッカを倒してきたというのか……!?」


 いつも冷静なヴェイロンも頭を抱えていた。それもこれも、目の前の光景が信じられないからという理由に尽きる。慌てるヴェイロンに対して、アギスとメリオールはにやにやとした表情で慌てる軍の長を哀れんでいた。


「…………レベッカを倒す? 何を言っているんだ総司令官殿」


「とぼけるなよ、ここに転がっている死体がすべての証拠だ」


 鋭い眼光でアギスを睨むヴェイロンは、生きて会うはずだった面々の無残な結末への決別をつけられないまま、自分に言い聞かるように続ける。


「私はここで貴様らが殺したこの方々と会う予定だった。いや、もはや最初から話すべきか。そうしないといつまでもとぼけていそうだな」


 ヴェイロンはもはや隠す気などなかった。それどころか、目の前の二人はすべてを知っているようにも思えたのだ。


「そもそもこの戦いはギルドと軍の衝突のようにも見えるかもしれないが、実際はそうじゃない。もともとギルドと軍で示し合わせた戦いだ」


「へぇ、なるほど」


 アギスは刀を肩に担いで話に耳を傾けていた。メリオールは氷の龍と戯れており、ヴェイロンの話など聞く耳を持たなかったが、いちいち気にしてはいられない。


「この戦いには二つの目的がある。一つは国力を削ぐこと、国の二大戦力が衝突すれば王国の戦力が低下するのは明らかだ。そうして互いに戦力を削り合って国の戦力を低下させることが、目的の一つ」


 思いの外黙って聞いているアギスに疑心暗鬼になりながら、ヴェイロンはなおも続ける。この戦いの真実という外堀を埋め、彼らの正体を暴くことにヴェイロンは躍起になっていた。


「次に、王国のリスタートだ。予定ではギルドはこの戦いに敗れ、軍も戦力を大きく失い王女達によって幽閉される結末を想定していた。そこで、私が協力を要請していた諸外国に攻め込んできてもらい、プラトー王国を一度崩壊させる。その崩壊に乗じて軍は牢から脱出し、そのまま国を出て行く。その後ギルドが何をするかは知らないが、私たちはそのまま国を出て軍主導で新たな国を立ち上げる予定だった」


「一つ質問だ」


 ヴェイロンが緊張を隠すように早々と紡ぐ言葉にアギスが異を唱える。ふてぶてしさが前面に出た仏頂面でアギスは口をとがらせる。


「なんで国を滅ぼそうとしているんだ? あんたらは仮にも王国軍だろ。そこまでする必要があるのか」


 その質問に、ヴェイロンは唖然とした。自分たちの常識が相手の常識ではないような、価値観の違いのようなものを感じたのだ。若干口ごもって、ヴェイロンは言葉をひねり出す。


「……まさか、お前達はこの王国の現状を知らないのか? それとも、熱狂的なロイヤリストか。どちらにせよ、その質問は些かこの国の人間であることを疑う内容だな」


「あぁ、王女の件か。なるほど理解した、続けてくれ」


 アギスの態度に苛立ちを隠せないヴェイロンだが、グッと堪えて憤りを飲み込む。剣呑な雰囲気を押さえ込んで、説明を続けた。


「この戦いの前、私はギルドの代表であるレベッカと事前に話をつけてあった。戦闘開始から半日後、私がここハイドランスで諸外国の客人と接触するために、彼女に客人の護衛を頼むという話を、だ」


「………………」


「それを最優先事項としていた。破るようであれば、軍の全力でもってギルドを潰し、そちらの思惑を叶わぬものにすると。だから、ここに客人達の亡骸があるということは、レベッカが破られたということに他ならないんだ」


 すべてを言い終え、ヴェイロンは息を荒げていた。この事実を前にして、アギスはどのような反応を示すのか、一寸先に全神経を研ぎ澄ませていた。場合によってはまたも戦闘の火蓋が切られるかもしれない。拳を握りしめた。


「……要はまとめるとよ、この動乱はギルドと軍の打ち合わせの元起こった戦いで、軍はこの戦いの後諸外国の手を借りて国を脱出するつもりだった。そして今、その詰めの作業をする予定だったが、レベッカが守っていたはずの客人が俺らに殺されていたと」


 アギスの説明は簡潔だった。ヴェイロンも動揺はしていたし、困惑もしていた。だから説明が少し歪曲して雑になっていたことは拭いきれない。だがそれを度外視しても、アギスの説明はあまりに適切だった。


 それこそ、最初からその真実を知っているかのように。


「やけに理解が早いな。聡明には見えないが」


「あんたは一つ勘違いをしているよ。いや、勘違いではないな。お前にとっては知る由もないことだ、騙されていると言った方が正しい」


 アギスは今一度刀を担ぎ直してそんなことを言った。戯れに興じていた茶髪の少女もそろそろかなと、膝を払って立ち上がる。ヴェイロンとは打って変わって余裕の表情に、軍最高司令官の表情が苦悶に満ちていく。


「騙されている、私が?」


「そうだ。一番大事なところで騙されているんだ」


 勿体ぶりながら、アギスは欠けた刃先をヴェイロンに向けて、低く唸った。


「レベッカはな、ギルドの人間じゃねぇ」


「…………何を言っているんだ、レベッカはギルドを代表するフェンサーだ。その事実に間違いはない」


「いや間違いだ。レベッカは俺たちトラジェディの一員だ。その証拠に、俺はレベッカからさっきあんたが言った情報の全てを聞いている」


 その言葉にヴェイロンは凍り付いた。突如明かされたはずの事実にまるで驚くこともなく、それどころか流暢な運びでその事実をまとめて見せた、そんなアギスの行動の理由が信じられない原因で証明されてしまった。


「そんな馬鹿な…………あり得ない、レベッカがギルドではないと? なら私は何のために自らの国に刃を向け、部下達を酷使してまでこの戦いを……!!」


「ならこの後のあんたの予定を答えてやろうか。この後あんたは話し合いを終え、早々に降伏の準備を始める。各所の小競り合いは五分五分で沈黙し始め、王国がそう簡単に復興できないような痛手を負わせるために、主要都市に列車砲を撃ち込む。そうして諸外国に攻め込まれれば一溜まりもない状況を作って、あんたらは王女様のお縄につくんだろう?」


 またもヴェイロンは言葉を失う。それは先ほどヴェイロンが話さなかったこれからの詳細な推移予定だった。レベッカと綿密な話し合いによって練り上げた、ヴェイロンとレベッカのみが知る作戦内容。


 それを今、無精ひげを蓄えた身も知らない男が唱えて見せたのだ。ヴェイロンの背中を悪寒が駆け巡る。


「お前達の…………目的は何だ?」


「俺たちの目的か、そうだな……強いて言えば、王国のリスタートだよ」


 軍と同じ目的を掲げて、アギスはかっかっと笑った。長話もそろそろか、と一息ついてまぶたをかっ開く。


「安心してくれよ、俺らは何もロイヤリストなんかじゃない。この国の民にとって王女が"最も嫌われている存在"であることは理解しているし、同意している。やり方は違えど、俺らはあんたら軍の目的を引き継いでやるんだ」


 そこまで言ったところで、メリオールの氷龍が再び召喚されてヴェイロンに襲いかかる。咄嗟に反応して気神を呼び出そうとしたヴェイロンだったが、それを許さないアギスが割って入る。


 ヴェイロンが気神を呼ぶよりも早く、アギスのあまりに長い刀がヴェイロンを捉える。細い刀身、所々ひびが入り刃もボロボロ、そんな刀が纏うのは白く漂う霧。まるで白い炎が燃えさかっているかのように、刀身を包んでいた。


 アギスは振り向きざまにその刀を横薙ぐ。すると、長い切っ先は少し距離のあるヴェイロンを捉えて切り裂く。鮮血を散らすヴェイロンは同時に気を根こそぎ抹消されてしまうのを感じた。


「貴様、何を!?」


「過ぎたことを気にすんなよ。あんたにはしばらく眠っていてもらう、起きたときおそらくこの戦いは終わっているだろうが心配するな、殺しはしない。だが作戦も空しく牢獄から出られるのもかなり先だろうな」


 一方的にずらずらと言い残して、アギスは後方に大きく跳んだ。すると、今までアギスの体によって隠されていた本命の一撃が姿を現す。全長一〇メートルはあろうかという氷龍、触れる空気を凍てつかせ、吐く息は大地を白銀の世界へ誘っていく。ヴェイロンが気がついたときにはもう、視界は龍の大顎で埋め尽くされていた。


 ヴェイロンは諦めた。全てを諦めた。そもそも、客人が皆殺されている時点でヴェイロンの勝利はなかったのだ。


 最後に彼の中に思い出されたのは、頼もしい仲間達の姿。


「ウェントム、シャオフェイ、済まない。私は最後まで――――」


 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。